1
つくろいようもなく破れた空の裂目から
冬が押しよせ
磔になった裸の木が
枝々をばたつかせて慓える
眼をつぶると
空にいっぱいの夕焼がしたたり落ちる
空は漏斗の形をしていて
その吹きぬけの底に
砂まじりの風が
ぶつかってはひきちぎるのだ
おれは
漏斗の形をしたおれの心を背負って
ボロ屑をあさるように
そんな空のきれはしをさがしまわる
--ああ そんな季節だ
おまえが生れたのは!
2
爽やかな十月の風のなかに
人造湖をかぎる突堤
天をかぎるビルの稜線
そして おれの生涯をかぎるおまえ。
3
屋上から抬頭する雲
内庭に沈む一日の喧騒
しずかにひろがるおれの領土
おまえとその母親のための 夜。
4
炎天の下
樹々の群立つ葉のように首を真直に立て
枝々のように僕たちは腕をくむ
わが子は曙のような笑みをうかべ
肢をばたつかせ身をよじらせ
前へ進もうとしては後ずさりし
芋虫のような逼い方を覚えたばかり……
夕ぐれ 熱気のこもる凪のなかの
樹々に暮れのこる梢のように
音もなく僕たちは時をおくり
喘ぐような叫びをあげたりもする
ああ わが子が曙のような笑みをうかべ
大地に立って歩きはじめるのも
もう間近だ。
□中村稔「誕生」(『鵜原抄』、思潮社、1966:高村光太郎賞)
↓クリック、プリーズ。↓
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【参考】
「【詩歌】中村稔「城」」
「【詩歌】中村稔「埴輪」」
「【メンタル・スケッチ】群衆」
「【メンタル・スケッチ】挽歌」
「【本】この1年に出会った本」
「【中村稔ノート】凧 ~戦禍の記憶~」
「【中村稔ノート】ある潟の日没 ~震災と戦災~」
「【読書余滴】追悼、森澄雄の生涯と仕事」
「書評:『本読みの達人が選んだ「この3冊」』」
「書評:『加藤周一自選集8 1987-1993』」
つくろいようもなく破れた空の裂目から
冬が押しよせ
磔になった裸の木が
枝々をばたつかせて慓える
眼をつぶると
空にいっぱいの夕焼がしたたり落ちる
空は漏斗の形をしていて
その吹きぬけの底に
砂まじりの風が
ぶつかってはひきちぎるのだ
おれは
漏斗の形をしたおれの心を背負って
ボロ屑をあさるように
そんな空のきれはしをさがしまわる
--ああ そんな季節だ
おまえが生れたのは!
2
爽やかな十月の風のなかに
人造湖をかぎる突堤
天をかぎるビルの稜線
そして おれの生涯をかぎるおまえ。
3
屋上から抬頭する雲
内庭に沈む一日の喧騒
しずかにひろがるおれの領土
おまえとその母親のための 夜。
4
炎天の下
樹々の群立つ葉のように首を真直に立て
枝々のように僕たちは腕をくむ
わが子は曙のような笑みをうかべ
肢をばたつかせ身をよじらせ
前へ進もうとしては後ずさりし
芋虫のような逼い方を覚えたばかり……
夕ぐれ 熱気のこもる凪のなかの
樹々に暮れのこる梢のように
音もなく僕たちは時をおくり
喘ぐような叫びをあげたりもする
ああ わが子が曙のような笑みをうかべ
大地に立って歩きはじめるのも
もう間近だ。
□中村稔「誕生」(『鵜原抄』、思潮社、1966:高村光太郎賞)
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【参考】
「【詩歌】中村稔「城」」
「【詩歌】中村稔「埴輪」」
「【メンタル・スケッチ】群衆」
「【メンタル・スケッチ】挽歌」
「【本】この1年に出会った本」
「【中村稔ノート】凧 ~戦禍の記憶~」
「【中村稔ノート】ある潟の日没 ~震災と戦災~」
「【読書余滴】追悼、森澄雄の生涯と仕事」
「書評:『本読みの達人が選んだ「この3冊」』」
「書評:『加藤周一自選集8 1987-1993』」