会期 2015年9月11日(金)~10月18日(日)
場所 広島県立美術館
●「現代感覚 見れば好きになる」(本展監修者:中右瑛・国際浮世絵学会常任理事)
国芳は、劇画の原点とも言える現代感覚の浮世絵師だ。ほかの絵師にはない奇想天外な発想で、ユーモアを交えて当時の幕政を批判し、豪傑や武者絵をドラマチックに描いた。
大判三枚続きの大画面に、英雄の妖怪退治を表現した作品は物語性が伝わる。モチーフは画面いっぱい。力強く、スピード感もある。巨大な骸骨を描いた「相馬の古内裏」や「宮本武蔵と巨鯨」【注1】などは、まさに現代アート感覚の傑作。アニメーションの先駆けとも言え、今の若い人や外国人に受ける要因だろう。
もう一つの魅力は、しゃれとユーモア。「寄せ絵」と呼ばれる人間の顔は、よく見ると裸の人間の集合体でできている【注2】。上下どちらから見ても顔になる「上下絵」や、猫で描いた文字などの「だまし絵」もとてもユニークだ。
国芳は、時代や世相に敏感で、権力への反骨精神がある人だった。「天保の改革」で、役者や芸者の絵を描くことが禁止されると、ならばと、猫【注3】やキツネ、スズメ【注4】を擬人化して人間社会を諷刺する。そんな姿勢が庶民を引きつけた。
無類の猫好きでたくさん飼っていたとされるだけあって猫の描写も秀逸。また、染物屋に生まれ、登場人物がまとう着物の色や柄も凝っている。美人画を描かせれば、おきゃんで鉄火肌の女性をモデルに、江戸の風情や庶民の息遣いを生き生きと伝える。
私は国芳作品の何もかもが好きだが、特に気に入っているのは風景画。国芳は歌川豊国門下だった【注5】が、私淑していた葛飾北斎に倣い、和洋折衷を試みている。幾重にもなった雲やグラデーションで表現した空、月のかさといった自然描写がいい。
浮世絵には変わり者が多いといわれるが、国芳も江戸っ子気質で一筋縄にはいかない男だったらしい。気取らず、破天荒。一方、権力への反抗心は旺盛だが、弱いものを愛する。人間的魅力があったようだ。
多くの弟子を持ち、慕われた。そんな国芳の型破りな生き方が独創的な作品を生み、見るものに感動を与えるのだろう。本展では、妖怪退治の傑作だけでなく、多彩なジャンルの隠れた名作も楽しめる。見れば誰もが国芳を好きになるだろう。
【注1】「宮本武蔵と巨鯨」
【注2】「みかけハこハゐがとんだいゝ人だ」
【注3】③「流行猫の曲手まり」部分
【注4】⑨「里すゞめねぐらの仮宿」部分
【注5】歌川広重と同い年。1797(寛政9)年、江戸生まれ。
□中右瑛・国際浮世絵学会常任理事(本展監修者)・談「現代感覚 見れば好きになる」(中国新聞、展示会用)
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歌川国芳「宮本武蔵と巨鯨」
歌川国芳「金魚づくし 酒のざしき」
歌川国芳「流行猫の手まり」
歌川国芳「坂田怪童丸」
歌川国芳「朝比奈小人嶋遊」
歌川国芳「みかけハこハゐがとんだいゝ人だ」
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