(1)東芝不正会計事件は、発端において「深い闇」をはらんでいる。
発端とは、東芝によるウェスチングハウス・エレクトリック・カンパニー(WEC)の巨額買収だ。2006年当時、純資産2,456億円のWECの全株式を、東芝は6,467億円を投じて買った。
6,467億円-2,456億円=4,011億円
の「のれん代」等が財務を圧迫する。
当初、株式の持ち分は、
ショー・グループ(戦略的買収パートナー)・・・・20%
IHI(日本)・・・・3%
東芝・・・・77%
(2)常識外れの巨額買収は、原子力産業の国際的な秩序を壊した。
(a)長年、WECと加圧水型原子炉(PWR)を造ってきた三菱重工は憤り、アレバ(仏)と手を組む。
(b)半世紀近く東芝に沸騰水型原子炉(BWR)の技術を提供してきたゼネラル・エレクトリック(GE)も激怒。東芝を見限って日立と合弁会社を設立。
(3)東芝は、WECを傘下に入れて世界で主流のPWRを押さえれば、原子力産業の規模が「2015年までに現状の3倍に拡大」とぶち上げた【同社プレスリリース】。
日米両政府が原発推進のキャンペーンを張っていたとはいえ、東芝の一存で秩序を破壊した、とは言い難い。誰がどう仕組んだか。
(4)WECはしかし、不良資産同然と化した。買収後にWECが米国や中国で受注した原発建設プロジェクトは遅延し、島第一原発事故で状況はさらに悪化した。
ところが、「のれん代」等4,011億円は、一度も減損処理されていないのだ。
7月21日の記者会見で、WEC買収が利益水増しを招いたのではないか、と問われた田中久雄・社長(当時)は、即座に否定し、前田恵造・財務担当専務に説明させた。
WECの数字は現在まで開示していないが、キャッシュフロー並びに損益は8割以上が保守並びに燃料の交換であって、買収当時に比べて営業利益は大幅に拡大している、云々。
本当に、そうか。東芝の原子力事業を含むインフラ事業部門の連結売上高は、
2006年3月期(買収前)・・・・1兆8,822億円
2014年3月期(買収後)・・・・1兆8,121億円
に減っている。バラ色の未来は消えた。にもかかわらず、投資は回収できていると言い張る。
(5)米国会計基準を採っている東芝は、「のれん」の償却に代えて「減損テスト」を行い、その資産性を定期的に確認しなければならない。この減損テストでは、対象事業の向こう5年程度の事業計画による将来キャッシュフローで減損の要否が判断される。つまり、事業者の作文次第。受験エリートの東芝社員は、作文が上手だ。【細野祐二・公認会計士】
利益の水増しや「のれん代」の作文より悪質なのは、割引率をいじって退職給付債務を操作していることだ。【同】
東芝は、リーマンショック(2008年)を受けて、2009年決算期で営業赤字を出し、
資本金+資本剰余金=5,714億円
にまで落ち込んだ。
(予測給付債務の仮定値である)割引率を通常の2.5%程度から3.3%まで高め、借金以外でもっとも大きな負債項目(退職給付債務)を縮小させた、ということだ。
2.5%の割引率を適用すると、資本欠損が膨らみ、債務超過に陥る。【同】
「こっちは真っ黒。悪質です。09年6月に東芝は公募増資や劣後債の発行などで総額4,992億円の資産を資本市場で調達しています。債務超過なら、もちろん増資はできず、倒産していたでしょう」【同】
(6)8月18日、東芝は過去7年分の決算で、新たに568億円の利益の減額を明らかにした。
7月に第三者委員会が指摘した利益の水増し分+568億円=2,130億円
を税引き前利益から減額することとなった。
「のれん代」の減損が少し反映されたとしても、WECが抱えたリスクは作文で消せる代物ではない。
証券取引委員会は、東芝(社員20万人)は大きすぎてつぶせない、と予定調和的な「課徴金」で幕引きを図ろうとしている。
だが、現実はシビアだ。WECは東芝の病巣に変貌した。
□山岡淳一郎(ノンフィクション作家)「東芝不正経理の闇と国際原子力シンジケート」(「週刊金曜日」2015年8月28日号)
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【読売】「不正」を隠蔽する「不適切」という表現 ~東芝・不正経理~」
「【古賀茂明】東芝の粉飾問題 ~「報道の粉飾」~」
「【社会】大政翼賛社会の不気味さ ~東芝問題と「ゆう活」~」
「【東芝】「不正会計」の主役は安倍ブレーン ~産業競争力会議の犯罪者~」
発端とは、東芝によるウェスチングハウス・エレクトリック・カンパニー(WEC)の巨額買収だ。2006年当時、純資産2,456億円のWECの全株式を、東芝は6,467億円を投じて買った。
6,467億円-2,456億円=4,011億円
の「のれん代」等が財務を圧迫する。
当初、株式の持ち分は、
ショー・グループ(戦略的買収パートナー)・・・・20%
IHI(日本)・・・・3%
東芝・・・・77%
(2)常識外れの巨額買収は、原子力産業の国際的な秩序を壊した。
(a)長年、WECと加圧水型原子炉(PWR)を造ってきた三菱重工は憤り、アレバ(仏)と手を組む。
(b)半世紀近く東芝に沸騰水型原子炉(BWR)の技術を提供してきたゼネラル・エレクトリック(GE)も激怒。東芝を見限って日立と合弁会社を設立。
(3)東芝は、WECを傘下に入れて世界で主流のPWRを押さえれば、原子力産業の規模が「2015年までに現状の3倍に拡大」とぶち上げた【同社プレスリリース】。
日米両政府が原発推進のキャンペーンを張っていたとはいえ、東芝の一存で秩序を破壊した、とは言い難い。誰がどう仕組んだか。
(4)WECはしかし、不良資産同然と化した。買収後にWECが米国や中国で受注した原発建設プロジェクトは遅延し、島第一原発事故で状況はさらに悪化した。
ところが、「のれん代」等4,011億円は、一度も減損処理されていないのだ。
7月21日の記者会見で、WEC買収が利益水増しを招いたのではないか、と問われた田中久雄・社長(当時)は、即座に否定し、前田恵造・財務担当専務に説明させた。
WECの数字は現在まで開示していないが、キャッシュフロー並びに損益は8割以上が保守並びに燃料の交換であって、買収当時に比べて営業利益は大幅に拡大している、云々。
本当に、そうか。東芝の原子力事業を含むインフラ事業部門の連結売上高は、
2006年3月期(買収前)・・・・1兆8,822億円
2014年3月期(買収後)・・・・1兆8,121億円
に減っている。バラ色の未来は消えた。にもかかわらず、投資は回収できていると言い張る。
(5)米国会計基準を採っている東芝は、「のれん」の償却に代えて「減損テスト」を行い、その資産性を定期的に確認しなければならない。この減損テストでは、対象事業の向こう5年程度の事業計画による将来キャッシュフローで減損の要否が判断される。つまり、事業者の作文次第。受験エリートの東芝社員は、作文が上手だ。【細野祐二・公認会計士】
利益の水増しや「のれん代」の作文より悪質なのは、割引率をいじって退職給付債務を操作していることだ。【同】
東芝は、リーマンショック(2008年)を受けて、2009年決算期で営業赤字を出し、
資本金+資本剰余金=5,714億円
にまで落ち込んだ。
(予測給付債務の仮定値である)割引率を通常の2.5%程度から3.3%まで高め、借金以外でもっとも大きな負債項目(退職給付債務)を縮小させた、ということだ。
2.5%の割引率を適用すると、資本欠損が膨らみ、債務超過に陥る。【同】
「こっちは真っ黒。悪質です。09年6月に東芝は公募増資や劣後債の発行などで総額4,992億円の資産を資本市場で調達しています。債務超過なら、もちろん増資はできず、倒産していたでしょう」【同】
(6)8月18日、東芝は過去7年分の決算で、新たに568億円の利益の減額を明らかにした。
7月に第三者委員会が指摘した利益の水増し分+568億円=2,130億円
を税引き前利益から減額することとなった。
「のれん代」の減損が少し反映されたとしても、WECが抱えたリスクは作文で消せる代物ではない。
証券取引委員会は、東芝(社員20万人)は大きすぎてつぶせない、と予定調和的な「課徴金」で幕引きを図ろうとしている。
だが、現実はシビアだ。WECは東芝の病巣に変貌した。
□山岡淳一郎(ノンフィクション作家)「東芝不正経理の闇と国際原子力シンジケート」(「週刊金曜日」2015年8月28日号)
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【参考】
「【読売】「不正」を隠蔽する「不適切」という表現 ~東芝・不正経理~」
「【古賀茂明】東芝の粉飾問題 ~「報道の粉飾」~」
「【社会】大政翼賛社会の不気味さ ~東芝問題と「ゆう活」~」
「【東芝】「不正会計」の主役は安倍ブレーン ~産業競争力会議の犯罪者~」