語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】コネ社会ロシアに関する備忘録 ~知を磨く読書~

2015年09月27日 | ●佐藤優
 「週刊ダイヤモンド」は3年間予約購読すると、誌代が55%程度に下がる。
 しかし、毎週送られてくるこの週刊誌は、55%も読んでいない。
 ちゃんと読んでいる45%未満のうち、わけても私が欠かさずに読むのは佐藤優の「Book Reviews」(「知を磨く読書」)だ。このたびは連載第118回目。

 ①山内昌之/佐藤優『第3次世界大戦の罠』(徳間書店、1,500円)
 ②茂櫛勉『ロシアの街角で出会った人々』(文芸社、800円)
 ③関谷直人『牧会の羅針盤 メンタルヘルスの視点から』(キリスト新聞社、1,800円)

 ①は、地政学の視座から現下の国際情勢を読み解いたユニークな本だ。山内昌之は、
 <そして大事なことは、いまのイラン・イスラーム革命の指導者たち、ルーホッラー・ホメイニーからアリー・ハーメネイに至るシーア派指導者たちも、イランの「中華思想」を決して捨てていません>
と指摘する。
 国際社会の混乱要因となっているイランをシーア派原理主義という観点からだけではなく、ペルシア(イラン)帝国主義の復活という要因も加え、それが中東の地政学に構造的変化を与えていると説く。

 ②は、モスクワを拠点にロシアに長期滞在した日本人ビジネスマンによる優れた備忘録だ。著者は、ロシアのコネ社会についてこう述べる。
 <ロシアはある意味超法規的な国で、法よりそれをつくり運用する人間のほうが優先される。だからコネがあれば、ことがスムーズに運ぶということは、わたしもおおく体験した。そこで、サンクトペテルブルグとモスクワの間を、ロシア人と同じ値段で飛行機で往復できた、ときもあった。ロシアにいったばかりのころ、もちろんそういうビザをもっていたので、外国人ながらその特典を受ける権利は有していたのだが、じっさいに行使するときは、飛行機会社に説明をもとめられることもあった。しかしその時コネがあると電話一本ですんでしまう>
 佐藤優がモスクワに勤務していた1980年代末に、ロシア人と外国人の航空券の価格差は10倍以上あった。佐藤もコネを上手に使い、モスクワ市内のタクシー代よりも安い値段で、シベリアやソチに出張した。コネをつくるには、誰に権限があるか、そしてその人と親しくなるにはどうすればいいか、というノウハウが必要になる。こういうノウハウは、外交やビジネスにも生かせる。モスクワの日本大使館員がロシア人とのコネをつくることができていないので、北方領土交渉も進展しないのだ。

 キリスト教では、宗教的指導者と信者の関係を羊飼いと羊に例えることがある。それだから、牧師の仕事を牧会という。
 ③で、著者の関谷直人・同志社大学神学部教授は、
 <多くの牧師の子どもは、教会で信者に接している時と、牧師館で自分に接する時の親のギャップに戸惑いを感じている。(中略)教会では説教壇の上から立派な説教を語り、いつもニコニコして、愛をもって信者に接しているのに、自分たちの家族、特に連れ合いに対する言葉づかいや態度にはそういう配慮や愛が感じられない・・・・>
と記す。
 世間一般には知られていない牧師の世界を本音で描いた好著だ。
  
□佐藤優「コネ社会ロシアの備忘録 ~知を磨く読書 第118回~」(「週刊ダイヤモンド」2015年10月3日)
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 【参考】
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【佐藤優】ロシアと提携して中国を索制するカードを失った
【佐藤優】中国政府の「神話」に敗れた日本
【佐藤優】日本外交の無力さが露呈 ~ロシア首相の北方領土訪問~
【佐藤優】「アンテナ」が壊れた官邸と外務省 ~北方領土問題~
【佐藤優】基地への見解違いすぎる ~沖縄と政府の集中協議~
【佐藤優】慌てる政府の稚拙な手法には動じない ~翁長雄志~
【佐藤優】安倍外交に立ちはだかる壁 ~ロシア~
【佐藤優】正しいのはオバマか、ネタニヤフか ~イランの核問題~
【佐藤優】日中を衝突させたい米国の思惑 ~安倍“暴走”内閣(10)~
【佐藤優】国際法を無視する安倍政権 ~安倍“暴走”内閣(9)~
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【佐藤優】民主主義と相性のよくない安倍政権 ~安倍“暴走”内閣(7)~
【佐藤優】官僚の首根っこを押さえる内閣人事局 ~安倍“暴走”内閣(6)~
【佐藤優】円安を喜び、ルーブル安を危惧する日本人の愚劣 ~安倍“暴走”内閣(5)~
【佐藤優】中小企業100万社を潰す竹中平蔵 ~安倍“暴走”内閣(4)~
【佐藤優】自民党を操る米国の策謀 ~安倍“暴走”内閣(3)~
【佐藤優】自民党の全体主義的スローガン ~安倍“暴走”内閣(2)~
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【佐藤優】米大使襲撃の背景 ~韓国の空気~
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【佐藤優】ヨルダン政府に仕掛けた情報戦 ~「イスラム国」~
【佐藤優】ウクライナによる「歴史の見直し」をロシアが警戒 ~戦後70年~
【佐藤優】国際情勢の見方や分析 ~モサドとロシア対外諜報庁(SVR)~
【佐藤優】「イスラム国」が世界革命に本気で着手した
【佐藤優】「イスラム国」の正体 ~国家の新しいあり方~
【佐藤優】スンニー派とシーア派 ~「イスラム国」で中東が大混乱(4)~
【佐藤優】サウジアラビア ~「イスラム国」で中東が大混乱(3)~
【佐藤優】米国とイランの接近  ~「イスラム国」で中東が大混乱(2)~
【佐藤優】シリア問題 ~「イスラム国」で中東が大混乱(1)~
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【佐藤優】の実践ゼミ(抄)
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【佐藤優】ロシアが中立国へ送った「シグナル」 ~ペーテル・フルトクビスト~
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「森訪露」で浮かび上がった路線対立
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【佐藤優】イランがイラク情勢を懸念する理由 ~ハサン・ロウハニ~
【佐藤優】新・帝国時代の到来を端的に示すG7コミュニケ
【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 
【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 
【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~
【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 

【食】一部の「有機ワイン」に入っている添加物 ~亜硫酸塩~

2015年09月27日 | 医療・保健・福祉・介護
 ①「ボン・ジュール有機ワイン(赤)」(メルシャン)
 ②「カノン・デュ・マレシャル ルージュ2013」(メルシャン)
 ③「レ・グランザルブル ヴァン・ド・フランス ルージュ(赤)」(リードオフジャパン)
 ④シャトー・オー・ヴュー・シェーヌボルドー」(東京実業貿易)

 (1)①はボトルの表に大きく「有機」と銘打つが、裏側の表示によれば「酸化防止剤(亜硫酸塩)」が使われている。
 この製品は、メルシャンが製造している。「輸入有機ワイン・輸入有機ぶどう果汁使用」と表示され、「メルシャンが各国から選び抜いたブドウ果汁を国内で醸造し、輸入ワインとブレンドする事で日本人の味覚に合う高品質な味わいをお届けしています」とある。
 また、「世界的な有機認証機関である『ECOCERT』【注】の日本法人『ECOCERT JAPAN』の認証を受けた有機ワインです」ともある。

 (2)日本では、JAS法の定めにより、勝手に「有機」と表示することはできない。
 以前は、野菜や果物などに勝手に「有機」という表示がなされ、通常の農作物が有機農作物として高値で売られ、市場が混乱したため、1999年から有機認証制度が実施された。つまり、有機認証機関が「有機」であると認証した農作物や加工食品しか「有機」という表示ができなくなった。

 (3)ワインは加工食品に当たる。加工食品の有機の条件は、
   「原材料は、水と食塩を除いて、95%以上が有機農産物、有機畜産物、有機加工食品であること」
   「化学的に合成された食品添加物や薬剤の使用を避けることを基本とする」
というもの。ここで有機農産物とは、
   栽培を開始する前の2年以上と栽培期間中に原則として化学肥料や農薬を使わずに生産された農作物
のことだ。ただし、ブドウのような多年生作物の場合は、「2年以上」が「3年以上」と厳しくなる。

 (4)①は、「ECOCERT JAPAN」によって、(3)の条件を満たしている、ということだ。
 ただし、問題になってくるのは、「食品添加物や薬剤の使用を避けることを基本とする」という部分だ。単に「避ける」ではなく、それを「基本とする」なのだ。見方を変えれば、「場合によっては使用を認める」とも解釈できる。
 そのため、酵母の増殖や雑菌の繁殖などの防止目的でワインに亜硫酸塩が使われていても、有機ワインとして認証されている、と考えられる。

 (5)しかし、毒性のある亜硫酸塩を添加しているにもかかわらず「有機」として販売するのは問題だ。
 ワインには、5種類ある亜硫酸塩のうち二酸化硫黄が使われている。その気体は亜硫酸ガスで、火山や工場排煙に含まれる有毒ガスだ。空気中に0.003%以上あると植物は枯死し、0.012%以上あると人体に害が出る。
 そんな毒性物質だから、二酸化硫黄を含むワインを飲むと、人によっては頭痛を起こす。ごく簡単な調査では、4人に1人くらいはいるようだ。市販のワインの場合、一般に国産も外国産も二酸化硫黄が添加されているので、こうしたことになるのだ。
 「有機」という表示を見てワインを買う人は、添加物が何も使われていないという期待を持っている人が多いのではないか。
 しかし、実際には違うのだ。①から④までの4製品は、いずれも「有機」とうたいながら、亜硫酸塩を添加している。
 これは、ある意味で消費者を欺いていると言っていい。

 (6)「有機」ワインで、亜硫酸塩を添加していない製品もある。
   ⑤「ポリフェノールたっぷり 酸化防止剤無添加赤ワイン<有機プレミアム>」(サッポロワイン)
   ⑥「ドメーヌ・アンクロ・ド・ラ・クロワ サン・スフル」(東京実業貿易)
などだ。また、最近では、酸化防止剤の亜硫酸塩を添加していないワイン(有機ではない)が増えて、コンビニでも買うことができる。
 ワインを飲むと頭痛がする人は、⑤、⑥や亜硫酸塩を添加していないワイン(有機ではない)を飲むといい。

 【注】フランスに本部を置く国際認証機関。 

□渡辺雄二「添加物が入っていても「有機ワイン」? ~新買ってはいけない 第212回~」(週刊金曜日」2015年9月18日号)
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【詩歌】会田綱雄「聖家族」

2015年09月27日 | 詩歌
 おんなは
 へそのおを
 貝をちりばめたふくろにたたみ
 ちぶさにあてがっていた
 発見されて
 こどもは死にましたと
 泣いた
 それもうそだと
 おとこはおんなをけっとばし
 あやしげな酒場で
 めちゃくちゃにおどっていたが
 おんなを死なせてはならぬと
 かけもどり
 へそのおを焼かせた
 そのときから
 おとこはわかれたがったが
 わかれれば死ぬとおもい
 なんねんもいっしょにくらしたあげく
 なぜ死なせてはならぬのか
 とうとうわからぬままに
 旅さきで死にたえ
 おんなは死に目にもあえなかったが
 やがて再縁さきで
 りっぱににどめのこどもをうんだ

□会田綱雄「聖家族」(『鹹湖』、緑書房、1957):第一回高村光太郎賞
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 【参考】
【詩歌】会田綱雄「鹹湖」
【詩歌】会田綱雄「伝説」