(1)佐藤優の母は、14歳で沖縄戦を体験後、コザ(現沖縄市)の看護学校に通学中、プロテスタント教会の牧師から洗礼を受けた。保健婦(現保健師)となり、生涯独身のまま沖縄の離島の衛生状態改善する、と誓ったらしい。大岡昇平と同じく(とは佐藤は書いてないが)、戦争から生還したことに負い目を感じていたのだ。彼女は、自分が受洗したことを長らく口にしなかった。
佐藤は、小学校高学年から、毎日曜日、日本キリスト教会大宮東伝道教会に通った。長老派(カルヴァン派)の教会だった。中学2年生のとき、ルカ伝を英語で読んだ・・・・歯が立たなかった。
高校2年生の秋から教会に通わなくなった。理由の第一、牧師が病没した。後に思えば、この牧師から多くを学んだ。佐藤の発想の根本には、カルヴァン派の「鋳型が明らかに存在している」。第二、この頃、マルクス主義に惹かれた。細かい事情は、『私のマルクス』(文春文庫、2010)に記してある。
大学で無神論を勉強するべく、自分の内なるキリスト教的残滓を克服するべく、同志社大学神学部へ進んだ。
(2)入学して半年後、フォイエルバッハやマルクスが批判する神は、キリスト教の神ではなく、人間の願望を投影したもの、キリスト教が排斥する偶像であることに気づいた。より徹底的に宗教を批判したカール・バルトを知った。「人間が神について語ることではなく、神が人間について語ることに耳を傾けるのだ」というバルトの言葉が腹に入った。大学1回生のクリスマスに受洗した。
最初の神学概論で、引用付聖書を勧められた。聖書を立体的に読むことができるようになった。
神学生と勉強会をつくり、コイネー・ギリシア語で新約聖書を読んだ。
3回生からドイツ語を学んだ。チューリッヒ聖書を通読しておけば、大学院試験には確実に合格する。
神学部で外国語学習の厳しい訓練を受けたことが、外交官になってからも役立った。
(3)プロテスタント神学には、聖書神学、歴史神学、組織神学、実践神学の4分野がある。聖書神学は、旧約聖書神学と新約聖書神学に分かれる。
神学者としては同じでも、専攻によって聖書の読み方が異なる。新約聖書神学専攻の神学生は、コイネー・ギリシア語を徹底的に勉強するとともに、徹底的なテキスト・クリティークをしながら聖書を読んでいく。新約聖書を古典のテキストとして読み解く。旧約聖書神学でも基本的アプローチは同じだ。
組織神学は、体系的神学と称したほうがわかりやすい。平たくいえば護教学である。たとえば、他の宗教や哲学との関係で、キリスト教が正しいことを「証明」する(弁証学)。他方、キリスト教の内部において、自分の教派の解釈が他教派のそれより正しいことを「証明」したりもする(論争学)。異端審問は、論争学に含まれる。ここでいう「証明」は、理性に基づいて結論を導くという普通の証明とは異なる。初めから結論が決まっているのだ。その結論に向けて、合理的な論理のみならず、詭弁、感情的な揺さぶり、威圧、ときには物理的強制力を用いて強引に話を進める。
佐藤は、組織神学を専攻した。上記のような「証明」の訓練を積んだことは、外交官になってからとても役立った。
組織神学は、教義学と倫理学に分かれる。教義学の指導教授緒方純雄教授は、教義学という呼び名を嫌っていつも強調していた。・・・・カソリック教会には、教会が認定した教義がある。これに対し、プロテスタンティズムには教義はない。絶対に自分の考え方が正しい、と言ってはいけない。ドイツ語のドグマ(教義)は単数形だが、これを複数形にしたドクメン(教理)という考え方に立つのがプロテスタンティズムだ。
外交官としてモスクワに勤務し、民族問題を担当した。緒方教授が強調した意味がよくわかった。複数の「絶対に正しい」物事が並存していく知恵が、あえて複数形を用いる教理というアプローチにあるのだ。
また、緒方教授はシュライエルマッハーを引き、もっとゆったりとした聖書の読み方、直感と感情による読みを指導してくれた。その本当の意味がわかったのは、外交官として数年の実務経験を積んだ頃だ。仕事上悩んでいるときに「直感と感情」で聖書を読むと、問題解決に向けたヒントが得られた。
(4)外交官になって最初に赴任した英国で、1年2か月の間に、英語、独語、希語、羅語、露語、チェコ語の神学書、哲学書約2千冊を買いあさった。
外交官時代にはゆっくり読み解く暇はなかった。それでも、モスクワ大学哲学部でプロテスタント神学を講義したときには、これらの本を活用した。
職業作家になってからも、これらの本が役立っている。
□佐藤優「わたしは如何にしてキリスト教徒となったか --私の聖書論Ⅱ」(共同訳聖書実効委員会・訳(佐藤優・解説)『新約聖書Ⅱ』、文春新書、2010)
↓クリック、プリーズ。↓

佐藤は、小学校高学年から、毎日曜日、日本キリスト教会大宮東伝道教会に通った。長老派(カルヴァン派)の教会だった。中学2年生のとき、ルカ伝を英語で読んだ・・・・歯が立たなかった。
高校2年生の秋から教会に通わなくなった。理由の第一、牧師が病没した。後に思えば、この牧師から多くを学んだ。佐藤の発想の根本には、カルヴァン派の「鋳型が明らかに存在している」。第二、この頃、マルクス主義に惹かれた。細かい事情は、『私のマルクス』(文春文庫、2010)に記してある。
大学で無神論を勉強するべく、自分の内なるキリスト教的残滓を克服するべく、同志社大学神学部へ進んだ。
(2)入学して半年後、フォイエルバッハやマルクスが批判する神は、キリスト教の神ではなく、人間の願望を投影したもの、キリスト教が排斥する偶像であることに気づいた。より徹底的に宗教を批判したカール・バルトを知った。「人間が神について語ることではなく、神が人間について語ることに耳を傾けるのだ」というバルトの言葉が腹に入った。大学1回生のクリスマスに受洗した。
最初の神学概論で、引用付聖書を勧められた。聖書を立体的に読むことができるようになった。
神学生と勉強会をつくり、コイネー・ギリシア語で新約聖書を読んだ。
3回生からドイツ語を学んだ。チューリッヒ聖書を通読しておけば、大学院試験には確実に合格する。
神学部で外国語学習の厳しい訓練を受けたことが、外交官になってからも役立った。
(3)プロテスタント神学には、聖書神学、歴史神学、組織神学、実践神学の4分野がある。聖書神学は、旧約聖書神学と新約聖書神学に分かれる。
神学者としては同じでも、専攻によって聖書の読み方が異なる。新約聖書神学専攻の神学生は、コイネー・ギリシア語を徹底的に勉強するとともに、徹底的なテキスト・クリティークをしながら聖書を読んでいく。新約聖書を古典のテキストとして読み解く。旧約聖書神学でも基本的アプローチは同じだ。
組織神学は、体系的神学と称したほうがわかりやすい。平たくいえば護教学である。たとえば、他の宗教や哲学との関係で、キリスト教が正しいことを「証明」する(弁証学)。他方、キリスト教の内部において、自分の教派の解釈が他教派のそれより正しいことを「証明」したりもする(論争学)。異端審問は、論争学に含まれる。ここでいう「証明」は、理性に基づいて結論を導くという普通の証明とは異なる。初めから結論が決まっているのだ。その結論に向けて、合理的な論理のみならず、詭弁、感情的な揺さぶり、威圧、ときには物理的強制力を用いて強引に話を進める。
佐藤は、組織神学を専攻した。上記のような「証明」の訓練を積んだことは、外交官になってからとても役立った。
組織神学は、教義学と倫理学に分かれる。教義学の指導教授緒方純雄教授は、教義学という呼び名を嫌っていつも強調していた。・・・・カソリック教会には、教会が認定した教義がある。これに対し、プロテスタンティズムには教義はない。絶対に自分の考え方が正しい、と言ってはいけない。ドイツ語のドグマ(教義)は単数形だが、これを複数形にしたドクメン(教理)という考え方に立つのがプロテスタンティズムだ。
外交官としてモスクワに勤務し、民族問題を担当した。緒方教授が強調した意味がよくわかった。複数の「絶対に正しい」物事が並存していく知恵が、あえて複数形を用いる教理というアプローチにあるのだ。
また、緒方教授はシュライエルマッハーを引き、もっとゆったりとした聖書の読み方、直感と感情による読みを指導してくれた。その本当の意味がわかったのは、外交官として数年の実務経験を積んだ頃だ。仕事上悩んでいるときに「直感と感情」で聖書を読むと、問題解決に向けたヒントが得られた。
(4)外交官になって最初に赴任した英国で、1年2か月の間に、英語、独語、希語、羅語、露語、チェコ語の神学書、哲学書約2千冊を買いあさった。
外交官時代にはゆっくり読み解く暇はなかった。それでも、モスクワ大学哲学部でプロテスタント神学を講義したときには、これらの本を活用した。
職業作家になってからも、これらの本が役立っている。
□佐藤優「わたしは如何にしてキリスト教徒となったか --私の聖書論Ⅱ」(共同訳聖書実効委員会・訳(佐藤優・解説)『新約聖書Ⅱ』、文春新書、2010)
↓クリック、プリーズ。↓


