語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐々木実】異次元緩和の戦線拡大で高まるリスク ~マイナス金利~

2016年03月08日 | 社会
 (1)日本銀行は「銀行の銀行」と呼ばれる。金融機関から預金を受け入れるからだ。日銀との関係では、金融機関が預金者で、日銀が利子を払う。
 通常はそうだが、通常とはアベコベに日銀が銀行から利子をとるという奇策が「マイナス金利」政策だ。
 日銀は、1月29日の政策決定会合で、日本で初めての試みを決定した。2月16日から、日銀当座預金に預けられたお金にマイナス0.1%の金利がつくのだ。

 (2)黒田東彦・日銀総裁は、会見で、「従来の量的・質的金融緩和の限界を示すものではなく、むしろそれを含めて、三つの次元でさらに金融緩和を進めることができる」と説明した。
 安倍政権の売りである「異次元緩和」の補強策だ、という。しかし、実際は「マイナス金利に追い込まれた」と表現すべきだ。
 きっかけは、年明けから顕著になった中国の経済不安や原油安だとされるが、根本要因は黒田氏の総裁就任直後の公約だ。異次元緩和を開始した2013年4月、
   「2年で2%の物価上昇」
を黒田総裁は高らかに宣言した。だが、目標達成時期を1年近く過ぎようとする今、消費者物価(生鮮食品を除く)の前年比はほぼ0%だ。
 日銀は、達成時期を「2016年度後半」に先延ばしにしていたが、今回のマイナス金利採用に併せて、「2017年前半ごろ」とさらに引き延ばした。つまり、
   2013年4月「2年で2%の物価上昇」
    →「2016年度後半」
    →2016年1月29日「2017年前半ごろ」
 この間、日銀はマネタリーベース(流通現金+日銀当座預金)の年間増加ベースを「60兆~70兆円」→「80兆円」に増やすなど大がかりな追加策を打ってきた。
 にもかかわらず、達成時期が遠のくのは異次元緩和の限界と解釈するしかない。

 (3)問題は、①マネタリーベースと②マネーストック(市中に出回る通貨量)の関係だ。
 異次元緩和開始時の2013年4月と今年1月を比べると、
   ①二倍以上増加(150兆円→355兆円)
   ②増加は1.08倍程度(1,152兆円→1,242兆円)【注】
 異次元緩和の要諦は、日銀が銀行から国債を購入して市中に資金を供給することだが、マネーの流れは銀行で滞留している。日銀当座預金が4倍以上(62兆円→255兆円)に急増した事実がこれを裏づける。
 マイナス金利の採用は、異次元緩和が実体経済へ与える影響がその規模に比べて軽微だったことを日銀見イズから認めざるをえなくなったことを意味する。
 これまでの金融緩和の成果は、主に①マネタリーベースの膨張に伴う円安効果によるのだ。

  【注】マネーストック統計のM3と呼ばれる指標。

 (4)日銀は、「2%」に拘泥して非常事態下の短期決戦だったはずの異次元緩和を、負け戦の様相が強まるなか、戦線拡大し、長期戦へ持ち込んだ。
 大量の国債購入を続ける日銀は、すでに325兆円(2015年末)もの国債を抱え込み、国債全体の3割余りを占有する。
 日銀が歪めた国債市場は、遠からぬ将来、日銀の経営を揺るがしかねない。のみならず、金融システムの最大のリスク要因となる。
 だが、非常事態が常態となり、時間とともに累積する副作用の危険は等閑視されたままだ。

□佐々木実「マイナス金利と「アベコベの世界」 異次元緩和の戦線拡大で高まるリスク」(「週刊金曜日」2016年3月4日号)
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 【参考】
【野口悠起雄】誰が負担するのか? ~マイナス金利のコスト~
【金融】浮かび上がる二つの懐疑的視点 ~市場関係者に訊くマイナス金利~
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