語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】&手嶋龍一 英国情報機関の本領発揮 ~カウンター・インテリジェンス~

2016年03月10日 | ●佐藤優
 (1)2005年7月7日、ロンドンで地下鉄などを狙った爆弾テロが起きた。50名以上の死者が出た。
 時の内相クラークは、自分たちのカウンター・インテリジェンス体制に問題があったことを素直に認め、国民に謝罪した。
 これを聞いた各国のメディアは、「英国情報機関の限界が露呈した」といったニュアンスの報道を行った。
 しかし、佐藤優の直感は逆だった。これは本気だな、と直感し、事件の直後、ある雑誌で、「テロを封じこめるという観点から、今後イギリスは本領を発揮するはず」と予言した。
 というのも、佐藤はジョージ・オーウェルのエッセイ『イギリス人』のこんなエピソードを記憶していたからだ。
 第二次世界大戦中、空襲にさらされたロンドン市民が地下鉄の駅に逃げこんだ。そこは、むろん、防空壕ではない。だから、みんな最短距離区間の切符を買って、整然とホームに下りていく。緊急時にもかかわらず、誰ひとりとし秩序を乱さない。動じない。しかし、胸の奥では、「よくもやったな」「覚えていろよ」という、ドイツ軍に対するたぎるような思いを燃やしていたのだ・・・・という話だ。
 「ジョン・ブル魂」というのかもしれない。佐藤は、冷静に反省の弁を述べる政府高官の姿から、そんな凄みのある決意を汲みとったのだ。

 (2)はたして、2006年8月10日、旅客機テロ計画の容疑者を一斉に検挙した。 
 ジョン・ブルの「決意」は、イスラムのコミュニティそのものを事件再発防止のターゲットに据えるというやり方をとった。イスラム系とはいえ、彼らはあくまで英国市民である。だから、彼らの人権を侵している、と受け取られるおそれがある。現に、「これは英国の民主主義を危うくするものだ」という批判がメディアから相次いだ。
 「決意」には、「自国民の中にも敵がいる」というリアルな認識があった。この事実から目をそむけていたら、テロ防止はおぼつかない。
 とはいえ、あのような強硬姿勢をとれば、ふつうならイスラム社会をあげて反発が起こるところだ。
 しかし、現実は違った。それどころか、イスラム・コミュニティの住民から容疑者逮捕の決め手となる情報が次々にもたらされた。
 どうしてそんなことが起きたのか。

 (3)英国当局は、コモンウェルスのイスラム指導者などを説得し、多くを味方に引き入れたのだ。イスラム・コミュニティの「健全な部分」に、
 「このままでは、われわれ全てが英国の敵だと見なされてしまう」
 「テロリストは自分たちの手で排除しよう」
という意識を広げることに成功したわけだ。佐藤が「憶測」するに、テロにいたる計画行動を主導する中心部分まで協力者を送りこんでいたのではないか。
 当局は、英国伝統の民主主義の原則を損なうのを覚悟の上で、コミュニティに分け入った。電話やメールの傍受、大規模な追跡、そして今回は彼らの得意とするダブルエージェント(二重スパイ)のカードも切った。だからこそ、実行直前に容疑者を一網打尽にする芸当ができた。

 (4)佐藤の「推測」では、テロの準備段階で主導的といってもよい役割まで担わせつつ、徹底的に実行組織をあぶりだしたのだ。
 目の前のテロを止めるという目的のために、あらゆることが許されるかどうか。否応なしにそういう究極の選択を迫られる時代に我々は生きているのだ。そういう実状を日本国民も自覚する必要がある。

 (5)作戦続行中は報道規制を敷いた英国当局も、容疑者摘発後はイスラム・コミュニティでのネットワーク作りなどについてあからさまに喋っている。民主主義の原則に反する、といった批判をかわしたいなら、黙って知らないふりをしていればよい。なぜそうしないかというと、「英国はここまでやるよ」という警告キャンペーンだからだ。アルカイダ側は、英国でテロを計画するのは効率が悪い、と知るわけだ。
 そもそも、あれだけの大捕物だから、完全に秘匿するのは不可能だった。
 しかし、情報の開示方法については、相当練られた跡が窺われる。その点で面白いのは、英国の新聞は、あの逮捕劇がスコットランドヤードの手柄だと報じていることだ。俗称「MI6」こと対外情報機関SISやカウンター・インテリジェンス組織MI5の名前は、ほとんど表に出てこない。彼らは功績を警察に譲って、じっと我慢している。
 プロの目から見れば、「表に姿の出ないところがもっとも働いた」のだ。英国情報機関の伝統が生きている。

 (6)今回は、SISがパキスタン軍情報部をしっかりと握っていたことが最大の原因だ。
 にもかかわらず、黙って「大人の対応」を貫いている。成熟したインテリジェンスの文化だ。
 浅間山荘事件が映画になったとき、警視庁と長野県警のどちらをプレーアップして描くかをめぐって後藤田裁定まで仰いだ国とはずいぶん違う。
 ただし、SISが表に出てこないのは、モラルが高いからだけではない。もともと彼らは世間的な評価や出世にはあまり興味がないのだ。一番の関心は、SIS朝刊、首相、さらには女王陛下といったキーパーソンに認知されることなのだ。そして、こういうキーパーソンは、SISのインテリジェンス専門家を大切にする。

□佐藤優/手嶋龍一『インテリジェンス 武器なき戦争』(幻冬舎親書、2006)の「第1章 インテリジェンス大国の条件」
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【古賀茂明】【原発】再稼働の愚 ~事故頻発~

2016年03月10日 | 社会
【古賀茂明】【原発】再稼働の愚 ~事故頻発~
 
 (1)関西電力高浜原子力発電所4号機(福井県・高浜町)で事故が相次いでいる。
 最初の事故は、2月20日。原子炉補助建屋で、放射性物質を含む計34リットルの水が漏れた。
 関電は、外部への放射能の影響はなかった、というが、ウソかマコトか定かではない。
 原因は、後に「単なる」弁のボルトの緩みだ、と発表された。

 (2)驚くべし、緩みのあったのと同様の弁約80ヵ所のボルトを点検しただけで、再稼働を進めてしまった。
 ボルトの緩みは、単純だからこそ深刻な問題だ。原発の中には数え切れないほどのボルトがある。当然作業ミスは起きる。それを回避するために二重三重のチェックが課されたはずだ。
 それでもなお緩みがあったということは、そうした手順を十分に実施していなかった、ということを意味する。
 それならば、すべてのボルトを再点検すべきだ。
 ところが、原子力規制委員会は、そういう指示を出さなかった。今回程度の放射能漏れ(6万ベクレル)は、原子力規制委員会に報告しなくてよい、とのことだ。
 今回は規制委に報告されたが、ルール上は報告がなくても済むということは、規制委は「少量の放射能漏れは問題ない」と考えていることになる。

 (3)最近、東電が2011年の事故当時に、メルトダウンの基準を見落とし、それを5年間も隠していたことが判明した。
 他の電力会社も、過去において、報告義務があっても、たびたびの事故を隠蔽してきた前科がある。
 規制の考え方は、小さな放射能漏れは無視してよい、という解釈を生む。それは報告義務の基準値を上回っても、「少しなら大したことはないから報告は不要だ」という意識を誘発するに違いない。規制委が安全意識を麻痺させ、原子力ムラの偽りの「安全神話」復活に手を貸しているのだ。

 (4)2月26日に4号機再稼働が強行された。酷い話である。
 酷い、だけでは済まないことに、また4号機が緊急停止した。水漏れ事故からわずか9日後、発送電を始める予定の2月29日だ。
 今回は技術的な理由で原子炉の起動作業からやり直す必要があるとのこと。
 それでも再稼働の方針が揺らぐことはない。
 こんなに事故が続く原発を動かすのはよせばいいのだが、なぜか、今回もマスコミの報道は小さい。

 (5)折しも、2月24日には、同じ高浜原発の1、2号機が60年稼働させることを前提にした規制基準の適合性審査に合格した。
 事故が多発する4号機は稼働30年。
 1、2号機はこれよりさらに古く、稼働40年。これを「例外的」にさらに20年も運転延長を認めるという。
 高浜では、震災対策用の免震重要棟建設も本格的な避難訓練も行われていない。さらに相次ぐ事故。
 それでも再稼働を強行するのだ。

 (6)民主党と維新の党が合流しても、両党の本音は再稼働容認。共産党に願っても力はない。
 脱原発を願う国民の間には、また原発を経験するしかないのか、という悲観論が漂う【注1】【注2】。

 【注1】<1~2月に再稼働した関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)をめぐり、大津地裁の山本善彦裁判長は9日、福井に隣接する滋賀県の住民29人の訴えを認め、稼働中の原発に対しては初めて2基の運転を差し止める仮処分決定を出した。福島原発事故の原因が解明されていない中で、地震・津波への対策や避難計画に疑問が残ると指摘。安全性に関する関電の証明は不十分と判断した。(中略)
 ■決定理由の骨子
 ・原発の安全性の立証責任は関電側にもあり、十分説明できない場合は判断に不合理な点があると推認される
 ・福島原発事故の徹底した原因究明がなく、新規制基準はただちに安全性の根拠とはならない
 ・過酷事故時の安全対策が十分とは証明されていない
 ・国主導での具体的な避難計画の策定が必要。関電も避難計画を含む安全確保策に意を払うべきだ>
 以上、記事「高浜原発差し止め 3、4号機、きょう停止 安全の証明が不十分 大津地裁、仮処分」(朝日新聞デジタル 2016年3月10日)。
 【注2】記事「(時時刻刻)高浜再稼働、再び「ノー」 福島の事故究明「道半ば」 大津地裁決定」(朝日新聞デジタル 2016年3月10日)

□古賀茂明「事故頻発でも原発再稼働の愚 ~官々愕々第191回~」(「週刊現代」2016年3月19日号)
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 【参考】
【古賀茂明】岩盤規制に負けた「安倍ドリル」
【古賀茂明】一線を越えた高市早苗総務相の発言
【古賀茂明】シャープ救済劇と官僚の思惑
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