語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【石坂啓】名古屋めし

2016年10月03日 | 生活
 “名古屋めし”がちょっと注目されているのだとか。みそカツだの天むすだのと知られたものではなく、独自のアレンジで定番となっていたメニュー。 
 たとえば“あんかけスパゲティ”。太めでもっちりとした麺、ハムや玉ネギを炒めてとろみをつけたソース、安価で提供できるのに相当なボリューム感。この大皿と較べたら、コジャレたアルデンテって何じゃいという感じになる。
 普通のナポリタンやミートスパでも名古屋の店では鉄板焼きの皿にジュージュー載せられてくるものが多く、麺の周りには薄く溶き玉子が流されている。焼きながらからめながらのお得感。上京してからはあの「チープ」な「高級感」をなつかしく思っていた。(中略)
 小倉トーストを知らない人はびっくりするけど、アンコとマーガリンがどれほどおいしいか、「スウィーツ」などとコザカシイですわ。10枚買うと1枚オマケについてくるコーヒー券も、他県ではあまり見たことないかも。
 みそ煮込みのド固いうどん、広ぺったく大きく伸ばしたきしめん、ざっくり言っちゃえばスカして提供するよりも、満腹感や実質的なお値うち感がありがたがられているわけだ。ういろうの重量感など象徴的。ひつまぶしが三度おいしいなどというのも、うなぎをおかずにどれだけ飯を食えるかという工夫で薬味や出汁(だし)が使われている気がする。
 無駄なことに浮かれて余分な金を使ったりしない、名古屋人のこの安定感。いいね。久しぶりに名古屋に行ってどて煮と志の田うどんを食べた。何だろうこの気どらなさ。流行(はや)りのものに疲れたらおススメかもしれない。競争しなくていいから東京にきてくれ名古屋めし。競争するとたぶん負けちゃうぞ名古屋のお雑煮。葉っぱだけだからね中味。(後略) 

□石坂啓「メシ食ってちょう! ~初めて老いった!? 第182回~」(「週刊金曜日」2016年9月30日号)から一部引用
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【佐藤優】補完関係にある家族と国家、山口真由の正統的な読書術、米国の病理

2016年10月03日 | ●佐藤優
   
 ①エマニュエル・トッド(堀茂樹・訳)『問題は英国ではない、EUなのだ 21世紀の新・国家論』(文春新書 830円)
 ②山口真由『前に進むための読書論 東大首席弁護士の本棚』(光文社新書 740円)
 ③会田弘継『増補改訂版 追跡・アメリカの思想家たち』(中公文庫 740円)

 (1)①は、当事者があまり意識していない家族制度に起因する伝統的システムによるものであるという作業仮説によって読み解く。
 <イギリスは、最も早く産業化し、最も早く貧者救済施設を創設した国ですが、それが、絶対核家族がそれだけでは存続できないことを当時の人々も理解していたことの証しです。公的・社会的な援助を受ける独居老人の比率が高いのが、当時のイギリス社会の特徴でした。
 家族構造と国家の関係は、まさに私の現在の研究テーマなので慎重に述べる必要がありますが、たとえば、直系家族の社会は、核家族の社会ほどには国家を必要としません。
 団結そのものが「ミニ国家」的です。その分だけ、通常の意味での国家の必要性は弱まります。
 これは、今日にも通用する話です。核家族は個人を解放するシステム、個人が個人として生きていくことを促すシステムですが、そうした個人の自立は、何らかの社会的な、あるいは公的な援助制度なしにはあり得ません。より大きな社会構造があって初めて個人の自立は可能になります。「個人」とより大きな「社会構造」には、相互補完関係があるのです>
 人間の互助システムとして家族と国家が補完関係にあるという見方は面白い。

 (2)②で山口氏は、述べる。
 <本を読むことは、孤独の中で自分の心の声に耳を傾けること。そうやって、自分が何者であるかを探り、少しずつ発見しながら、私は今まで生きてきたのだなと。そして、自分が何者であるかを探す旅は、つまり、私の読書体験は、これからもずっと続いていくのです>
 古典的だが、正しい読書術だ。

 (3)③は、現代の米国を知るために必要な思想家について分かりやすく説明した好著だ。
 <支持基盤である中産階級ラディカル同様に、彼らの支持を受けるポピュリスト政治家側も単に右翼左翼では分けられない。政府と結託する大企業や金持ちは「人民の敵」だとして怒りの標的とする一方で、黒人など少数派や移民も下層中産階級から富を収奪する敵だとみて怒りをぶつけるポピュリストも目立つ。
 トランプも移民排斥の一方で、年金制度や高齢者向け医療保険制度などを政府がしっかりと維持するよう求め、また道路・空港などインフラ整備への財政出動を惜しまない姿勢だ。「小さな政府」指向の(アメリカ型)保守とは明らかに違う。日本の報道では見逃されている点だ>
 との会田氏の指摘を読むと、トランプ現象を生み出した米国社会の病理がよくわかる。

□佐藤優「欧州の危機、米国の病理 ~知を磨く読書 第168回~」(「週刊ダイヤモンド」2016年10月8日号)
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【佐藤優】ウラジオストク日本人居留民、辺野古移設反対を掲げる公明党沖縄県本部、偶然歴史に登場した労働力の商品化
【佐藤優】「21世紀の優生学」の危険、闇金ウシジマくんvs.ホリエモン、仔猫の救い方
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