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①速水健朗『東京どこに住む? 住所格差と人生格差』(朝日新書 720円)
②水野雄氏『日本企業を復活させる 稼ぐ経営』(KADOKAWA 1,400円)
③長沼伸一郎『経済数学の直感的方法 マクロ経済学編』(講談社ブルーバックス 1,200円)
(1)①では、エリート層の居住形態に関してユニークな考察が展開されている。
<バブル期までの日本では、土地保有税の税額が低く、土地保有のコストが安かったために、投資としての都心部の地価上昇が進んでいた。かつては土地を所有することが、なによりの「富裕層」であることを維持するための手段だったのだ。
(中略)しかし、現代の富裕層=資本家は、受験の条件の変化を受けて、引っ越しをする人々である。つまり、「土地」以上に「住む場所」が資本になっているということができる。現代では教育が、富裕階層がその優位性を維持するためにもっとも有効な「資本」になっているのだ>
と速水氏は指摘するが、日本でも米国のような高等教育が収入と正の相関関係を持つ新自由主義化が急速に進んでいるということであろう。嫌な時代になってきた。
(2)②は、旭化成で山口信夫・元会長の秘書を長く務め、経済界と政界の事情に通暁している著者による実践的な経営指南だ。
<ありきたりの言い方ですが、「モノづくりを行うには技術力が大事」です。
では、技術力とは何でしょうか?
一般的に、ある企業が「ある分野について技術力がある」という場合、「その分野で経験豊かな技術者がたくさんいる」というのと同じです。すなわち企業の技術力とは「一定水準以上の技術者がどれだけいるか」なのです>
このように著者が強調するように、人材育成が経営成功の秘訣なのだ。このことは企業だけでなく、役所や大学にも適用でき普遍的な真理だ。
(3)③を精読すると、数学力のみならず思考力も強化される。
<そもそも人類が何を目的に学問や理論を作るかというと、それは「最小の知識で最大限の事象を理解する」ことにあるとされ、その一種の効率比のことを哲学では「思考経済」と呼んでいる。「経済」という言葉が使われてはいるものの、これは特に経済学と関係しているわけではなく、この言葉は正確にはドイツの哲学者マッハ(音速のマッハは彼の名をとったものである)が作った言葉で、アインシュタインなども大きな影響を受けたと言われる>
と著者は指摘するが、「思考経済」こそ近代的人間の特徴だと思う。経済学や数学だけでなく、外交や安全保障においても、「最小の知識」がある。国際法や高校の教科書レベルの知識がそれに当たる。こういう基礎力をおろそかにして、北方領土のような難しい問題に取り組むと、必ず失敗する。そんな類比的な読み方を楽しむことができる作品だ。
□佐藤優「教科書レベルの知識の必要性 ~知を磨く読書 第169回~」(「週刊ダイヤモンド」2016年10月15日号)
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【参考】
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「【佐藤優】「21世紀の優生学」の危険、闇金ウシジマくんvs.ホリエモン、仔猫の救い方」
「【佐藤優】大学にも外務省にもいる「サンカク人間」 ~『文学部唯野教授』~」
「【佐藤優】訳・解説『貧乏物語 現代語訳』の目次」
「【佐藤優】「イスラム国」をつくった米大統領、強制収容所文学、「空気」による支配を脱構築」
「【佐藤優】トランプの対外観、米国のインターネット戦略、中国流の華夷秩序」
「【佐藤優】元モサド長官回想録、舌禍の原因、灘高生との対話」
「【佐藤優】孤立主義の米国外交、少子化対策における産まない自由、健康食品のウソ・ホント」
「【佐藤優】アフリカを収奪する中国、二種類の組織者、日本的ナルシシズムの成熟」
「【佐藤優】キリスト教徒として読む資本論 ~宇野弘蔵『経済原論』~」
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