語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】+池上彰 ルール破りの国会議員たち ~山尾志桜里・武藤貴也・上西小百合~

2016年10月26日 | ●佐藤優
 (1)信じられないことが、いま日本の政治で、さまざまに起きている。
 〈例〉2016年2月29日の衆議院予算委員会で、山尾志桜里・衆院議員(民主党(当時))が、出所不明のネット上の情報をもとに国会質問をした。「保育園落ちた日本死ね!!!」というブログを取りあげて、待機児童問題を提起した。
 民進党の前身の民主党は、過去に党代表が辞任に追い込まれた偽メール事件を起こしている。それなのに、再びネット上から情報を拾ってきて国会質問をしている。もし出所が怪しければ、党が解体するくらいのリスクがあることをなぜ理解できないのか。
 そもそも「死ね」などという言説が、国会という公共空間で飛び交ったのは初めてだろう。こんな言葉が横行するのは、政治の否定であり、民主主義の危機だ。それに対して安倍首相が「匿名である以上、実際に本当であるかどうかを、私は確かめようがない」と答弁したのは、極めて真っ当だ。
 ところが、真っ当な方が通らなくて、これをきっかけに待機児童の政策が動くことになった。
 山尾議員は「みんなが声をあげれば政治は動くという成功体験になればいい」などと言っている。
 しかも、その政策は、もともと認可外だった小規模作業所の受け入れ枠を緩和するというもの。例えて言うなら、代用教員ならぬ代用保育士のようなもので問題を解決する、という出鱈目な政策だ。

 (2)山尾議員は、政治資金報告によれば、1日に7万円分のコーヒーを飲んだそうだ。そんなに飲んだらカフェイン駐独で死んでしまう。加えて、2011年に247万2,352円、2012年に429万2,818円のガソリン代の支出記録がある。地球を何周もできるほどのガソリン代だ。
 まったく異常だ。あれで摘発しないこと自体、特捜はおかしい。告発状は絶対に出ているだろうから。しかも彼女は法曹の出身で、元検察官だ。
 かつては、細かい経費は、ガソリン代としてまとめていたなんてこともあったが、今は政治資金が厳しく見られているので、こんないい加減な管理ではすまない。
 厳しくなったのは、政治資金に政党助成金がブレンドされたからだ。政党助成金は、要するに国民の税金だ。国家公務員で240万円を横領したら、確実に実刑だ。それと同じだ。
 ただ、最近の政治家の不祥事に対する緩さからしても、山尾議員の政治資金疑惑の基準で自民党を揺さぶったら、国会議員の3分の1はいなくなってしまうかもしれない。

 (3)かつては派閥政治が問題視され、最近は自民党でも派閥が弱くなって、議員が公募で出てくるようになったが、むしろ公募の議員のスキャンダルが多い。武藤貴也・議員などは、未公開株のインサイダー取引を知人に持ちかけているわけで、議員としての資格以前に、あまりに反社会的だ。
 「政治家の犯罪」というより、「犯罪者が政治家のバッジをつけてしまった」という話だ。LINEでインサイダー取引をやれば痕跡が残る、ということぐらい、議員である以前に普通の社会人ならわかりそうなものだ。一部上場企業の社員なら完全にクビだ。おまけに議員宿舎にデリヘルの男を呼んで売春するなど、公職に就く人間のやることではない。開いた口が塞がらない。
 衆議院本会議を欠席して自分の秘書と温泉に行っていた上西小百合という議員もいる。維新の党から追い出されたが、無所属議員として居座っている。
 二人とも、おそらく議員歳費が狙いで居座っている。次の選挙で当選する可能性はないから、今のうちに歳費を貯め込もうとしているのだろう。
 しかしそんな連中でも、マスコミの叩き方がいまひとつ厳しくなく、辞めさせられないでいるのは、兵庫県議会の「号泣議員」、野々村竜太郎のスケールがあまりに大きすぎたからかもしれない。彼のことは国際的に報じられ、世界中が知るところとなった。政治家の常軌逸脱は、いまや野々村元議員が基準となり、上西や武藤程度ではニュースにならない、というほど感覚が麻痺してしまっている。

□池上彰×佐藤優『新・リーダー論 ~大格差時代のインテリジェンス~』(文春新書、2016)の「9 リーダーはいかに育つか?」
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 【参考】
【佐藤優】+池上彰 メルケル首相を激怒させた安倍首相 ~伊勢志摩サミット~