(1)今日、リーダーがリーダーとして機能しているのは、どういう場合か。〈例〉共産党の不破哲三氏、創価学会の池田大作氏、公明党の山口那津男氏。
つまり、下に支部組織のネットワークがあるから、リーダーが機能する。ローマ教皇(法王)のフランシスコもそう。カトリック教会という下部組織があるからだ。
地域のリーダーとして成り立っているのは、翁長雄志・沖縄県知事くらいだろう。沖縄では、自民党系の連中でも、日本人が翁長知事を侮辱するような発言をすれば怒るはずだ。その意味で、翁長知事は、オール沖縄を束ねることに成功している。
トップの指示によって組織が動くということだ。また、組織には金を上納するという機能もある。
だから、翁長知事も辺野古基金をつくったら、6億円も集まってくるわけだ。
ただ、沖縄でそれが成り立っているのは、ナショナリズムゆえだ。虐げられているという負の連帯感情による結束だ。スコットランド国民党の党首がリーダーであり得ているのと同じ事情だ。
<つまり、リーダーが現れているのは、宗教があるか、あるいは「敵」のイメージがあるところです。アトム化していない、耐エントロピー構造があるところだけに、リーダーが出てきている。イギリスには、リーダーはいないが、スコットランドにはいる。沖縄にもいる。何らかの差別を受けている集団、特殊なイデオロギーや特殊な宗教によってまとまっている集団の中にはリーダーがいる、ということです>
そういう意味では、多くの現代人にとっては、アトム化している方が幸せに感じるのかもしれない。
確かに、スイスやスウェーデンでは、大統領や首相が誰なのか知らないとしても、それで国民が不幸になる感じはない。
若い人を見ていても、率先してリーダーシップをとるようなことはしない。ひたすら空気を読んで、浮いてしまうことを恐れている。小学校の頃から目立たないようにしないと苛められる、と思っているので、リーダーなど育ちようがない。
灘高生のようなエリートの卵を見ていても、やはり目立たないように注意している。
(2)その一方で、リーダーの方は猜疑心が強くなっている。部下に任せる、と言いながら、任せることができず、これをやったら絶対に組織が壊れると分かるような場合でも、あちこちにチェックシステムを入れたり、同じ課題を複数の人に与えて競わせたりするトップがいる。
NHKの籾井会長も、猜疑心は相当なものだ。それはすごい。
トップがが猜疑心の塊になってくれば、部下として、こんなに一所懸命にやっているのにどうして信頼してもらえないのか、と思うほかない。妙な疑心を持たれたらまずいというので、守りの姿勢になる。すると、ますます率直な発言をしなくなるから、リーダーからは二心があるように見えて、さらに猜疑心が深まる。そういう負のスパイラルに陥る。
(3)かつては子どもが病気やケガをすれば会社が助けてくれたものだ。ところが今は、会社がそこまでやってくれるとは誰も思わない。城山三郎『毎日が日曜日』にあるようなベタベタした人間関係は考えられない。互いの家族構成がどうなっているか、どこにマンションがあって、行きつけの飲み屋がどこかなど知らない。
〈例〉会社の経営者が、「こんなに一所懸命に働いてくれる立派な社員たちがいる。社長にとってこんな幸福なことはない」と思い、社員も、「社員のことをこんなに考えてくれる立派な社長がいる。やっぱりこの会社にいてよかった」と思えれば、幸せだ。この相互関係に少し手を加えれば、俗流哲学として、仕事やリーダーの秘訣として、いくらでも応用できる。
金日成は、とりあえず、それに成功したわけだ。だから、あの国にいたら幸せはあるだろう。「今年の首領さまの誕生日には運動靴が一足子どもに貰えた。やっぱりこの国に生まれてよかった」というわけで、余計なことを考えなければ、絶対に幸せなはずだ。
ただ、リーダーシップが人格化されて、そのリーダーがいるからこそ組織が成り立っている、という組織は強いが、難しいのは、余人をもって替え難いリーダーがいると、かえって、その人がいなくなったら組織も終わりになることだ。これは、ものすごいリスクだ。
その意味では、読売新聞とJR東海が危ない。
中内功がいなくなった後にダイエーに起きたのと同じようなことが、鈴木敏文がいなくなったセブン&アイ・ホールディングスにも起きないとも限らない。
リーダーには、他人の気持ちになって考える共感力が不可欠だ。しかし、必要ある状況においては、非情に切り捨てなくてはならないことも出てくる。そこが難しい。
逆に、切り捨ての方は、最近のリーダー論では、持て囃される。コストカットやリストラ屋が、理想の経営者として評価されている。
□池上彰×佐藤優『新・リーダー論 ~大格差時代のインテリジェンス~』(文春新書、2016)の「9 リーダーはいかに育つか?」
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【佐藤優】+池上彰 田中角栄は今日でもリーダーたりえるか?」
「【佐藤優】+池上彰 ルール破りの国会議員たち ~山尾志桜里・武藤貴也・上西小百合~」
「【佐藤優】+池上彰 メルケル首相を激怒させた安倍首相 ~伊勢志摩サミット~」
つまり、下に支部組織のネットワークがあるから、リーダーが機能する。ローマ教皇(法王)のフランシスコもそう。カトリック教会という下部組織があるからだ。
地域のリーダーとして成り立っているのは、翁長雄志・沖縄県知事くらいだろう。沖縄では、自民党系の連中でも、日本人が翁長知事を侮辱するような発言をすれば怒るはずだ。その意味で、翁長知事は、オール沖縄を束ねることに成功している。
トップの指示によって組織が動くということだ。また、組織には金を上納するという機能もある。
だから、翁長知事も辺野古基金をつくったら、6億円も集まってくるわけだ。
ただ、沖縄でそれが成り立っているのは、ナショナリズムゆえだ。虐げられているという負の連帯感情による結束だ。スコットランド国民党の党首がリーダーであり得ているのと同じ事情だ。
<つまり、リーダーが現れているのは、宗教があるか、あるいは「敵」のイメージがあるところです。アトム化していない、耐エントロピー構造があるところだけに、リーダーが出てきている。イギリスには、リーダーはいないが、スコットランドにはいる。沖縄にもいる。何らかの差別を受けている集団、特殊なイデオロギーや特殊な宗教によってまとまっている集団の中にはリーダーがいる、ということです>
そういう意味では、多くの現代人にとっては、アトム化している方が幸せに感じるのかもしれない。
確かに、スイスやスウェーデンでは、大統領や首相が誰なのか知らないとしても、それで国民が不幸になる感じはない。
若い人を見ていても、率先してリーダーシップをとるようなことはしない。ひたすら空気を読んで、浮いてしまうことを恐れている。小学校の頃から目立たないようにしないと苛められる、と思っているので、リーダーなど育ちようがない。
灘高生のようなエリートの卵を見ていても、やはり目立たないように注意している。
(2)その一方で、リーダーの方は猜疑心が強くなっている。部下に任せる、と言いながら、任せることができず、これをやったら絶対に組織が壊れると分かるような場合でも、あちこちにチェックシステムを入れたり、同じ課題を複数の人に与えて競わせたりするトップがいる。
NHKの籾井会長も、猜疑心は相当なものだ。それはすごい。
トップがが猜疑心の塊になってくれば、部下として、こんなに一所懸命にやっているのにどうして信頼してもらえないのか、と思うほかない。妙な疑心を持たれたらまずいというので、守りの姿勢になる。すると、ますます率直な発言をしなくなるから、リーダーからは二心があるように見えて、さらに猜疑心が深まる。そういう負のスパイラルに陥る。
(3)かつては子どもが病気やケガをすれば会社が助けてくれたものだ。ところが今は、会社がそこまでやってくれるとは誰も思わない。城山三郎『毎日が日曜日』にあるようなベタベタした人間関係は考えられない。互いの家族構成がどうなっているか、どこにマンションがあって、行きつけの飲み屋がどこかなど知らない。
〈例〉会社の経営者が、「こんなに一所懸命に働いてくれる立派な社員たちがいる。社長にとってこんな幸福なことはない」と思い、社員も、「社員のことをこんなに考えてくれる立派な社長がいる。やっぱりこの会社にいてよかった」と思えれば、幸せだ。この相互関係に少し手を加えれば、俗流哲学として、仕事やリーダーの秘訣として、いくらでも応用できる。
金日成は、とりあえず、それに成功したわけだ。だから、あの国にいたら幸せはあるだろう。「今年の首領さまの誕生日には運動靴が一足子どもに貰えた。やっぱりこの国に生まれてよかった」というわけで、余計なことを考えなければ、絶対に幸せなはずだ。
ただ、リーダーシップが人格化されて、そのリーダーがいるからこそ組織が成り立っている、という組織は強いが、難しいのは、余人をもって替え難いリーダーがいると、かえって、その人がいなくなったら組織も終わりになることだ。これは、ものすごいリスクだ。
その意味では、読売新聞とJR東海が危ない。
中内功がいなくなった後にダイエーに起きたのと同じようなことが、鈴木敏文がいなくなったセブン&アイ・ホールディングスにも起きないとも限らない。
リーダーには、他人の気持ちになって考える共感力が不可欠だ。しかし、必要ある状況においては、非情に切り捨てなくてはならないことも出てくる。そこが難しい。
逆に、切り捨ての方は、最近のリーダー論では、持て囃される。コストカットやリストラ屋が、理想の経営者として評価されている。
□池上彰×佐藤優『新・リーダー論 ~大格差時代のインテリジェンス~』(文春新書、2016)の「9 リーダーはいかに育つか?」
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【参考】
「【佐藤優】+池上彰 田中角栄は今日でもリーダーたりえるか?」
「【佐藤優】+池上彰 ルール破りの国会議員たち ~山尾志桜里・武藤貴也・上西小百合~」
「【佐藤優】+池上彰 メルケル首相を激怒させた安倍首相 ~伊勢志摩サミット~」