(1)うつ病の心理療法のファーストチェイスは認知行動療法(CBT)だ。しかし、専門家不足や診療点数の低さから日本ではなかなか普及しない。
こうした中で、CBTより簡単な「行動活性化療法(BA)」が、CBTと同等の治療効果をあげるという報告が英エクセター大学から出された。
(2)BAは1970年代に開発された「行動療法」の発展型。
抗うつ薬が脳の神経伝達系に、CBTが認知の歪みといううつ病の原因に焦点をあてるのに対し、BAは原因ではなく「うつ状態を続けさせている行動」に着目する。
〈例〉「仕事に対する自信をなくし、職場復帰したいのに一日中家でふさぎこんでいる」患者がいる場合、BAの立場からは、その患者は職場で体験する嫌な状況や気分から逃れるため行動を抑制する「回避」状態にあると定義される。
回避行動は結果的に、「自発的な行動を増やして自己効力感を取り戻す」機会を減らしてしまう。
この悪循環を断ち切るには、「嫌な気分」や「やる気がでない」状態(うつ病の主症状)にとらわれず、職場復帰したいという本来の目的に近づく「接近行動」(〈例〉朝は起きる、顔を洗う、等を実行すること)が肝心だ。
毎日の生活で、嫌な気分に自分の行動を決めさせるのではなく、行動で気分を変化させるわけだ。つまり、「やっていれば、そのうち気分も乗ってくる」のだ。論理的に認知の歪みをリモデリングするCBTよりなじみやすい。
(3)エクセター大学の研究では、成人うつ病患者440人(平均年齢43.5歳)を①CBT群、②BA群に分け、12ヵ月後にうつ病重症度評価スコアを比較(登録時には①、②群とも中等~重症だった)。
治療の結果、①、②両群ともうつ病スコアが軽微~軽度に改善した。両群で効果の差はなかった。
BAのミソは、接近行動が次の接近行動を活性化する点だ。体調が悪いときに行動するのは辛いが、あきらめずに続けることで好循環が生まれ、治療効果が持続する。
秋冬は憂うつな季節だが、何はともあれ日々行動することだ。
□井出ゆきえ(医学ライター)「うつ病治療に行動活性化療法/嫌な気分の時こそ、動く ~カラダご医見番・ライフスタイル編 No.318~」(「週刊ダイヤモンド」2016年10月1日号)
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【参考】
「【保健】孤独リスクも欧米化する?/宴会文化が廃れた後は」
「【保健】茶カテキンによる肝障害でノルウェーがサプリメント含有量規制へ」
「【保健】学んで4時間後に運動すると記憶が定着 ~記憶術~」
「【保健】飲む抗癌剤で生存率改善へ ~膵臓癌の再発を抑制~」
「【保健】恐竜も腫瘍を患う ~癌は進化の宿命~」
「【保健】高血圧にはモーツァルト ~安静に寝ているより効果的~」
「【保健】塞栓症リスクが低いピルは?/エストロゲン量と黄体ホルモンで違い」
「【保健】悲しいと食べすぎる ~食べ放題は幸せなときに~」
「【保健】「夏の蚊対策国民運動」 ~ジカ熱対策~」
「【保健】2型糖尿病発症にも民族差/アジア系は「BMI23」でリスク」
「【保健】ジャガイモに高血圧リスク/ノンオイルでも要注意 」
「【保健】ADHDに「ゲーム療法」?/2製品が臨床試験へ」
「【保健】男性は運送業、女性は医療・介護 ~メタボになりやすい業種~」
「【保健】健康生活の王道は「食」 ~食事バランスガイドと死亡率~」
「【保健】眼底検査で何がわかるか ~眼疾患だけではない~」
「【保健】弾性ストッキングが効果的 ~エコノミークラス症候群対策~」
「【保健】マインドフルネスで腰痛改善 ~認知行動療法と同じ効果~」
「【保健】歯磨きが心血管疾患を予防 ~毎食後で発症リスクを軽減~」
「【保健】ガン=生存時代の就労支援 ~治療と仕事の両立に指針~」
「【保健】糖尿病患者の降圧目標値 ~140mmHgでよい?~」
「【保健】睡眠不足でスナック菓子を渇望、体重増加 ~大麻並みの快楽」
「【保健】コーラ1缶で薬の吸収率がアップ ~抗癌剤の薬効~」
「【保健】その一言で妻の2型糖尿病リスクが減少 ~「先に寝ていて」~」
「【保健】先進国では認知症が減少? ~予防の鍵は生活習慣の改善~」
「【保健】生活設計は長期戦か短期決戦か ~癌の臓器別・病期別生存率~」
「【保健】イチゴとオレンジはEDに効く ~米国の研究報告~」
「【保健】高齢者の服薬適正化にGL ~容易な多剤併用に警鐘~」
「【保健】朝食抜きに脳卒中リスク 阪大など調査 大規模調査で1.18倍高」
「【保健】下剤は脳・心血管疾患リスク> ~背景にストレスや運動不足~」
「【保健】高脂肪食でシナプスが消失? ~動物実験~」
「【保健】2型糖尿病とフライド・ポテトとの関係 ~ポテトは煮物で~」
「【保健】世帯の所得と健康リスクの関係 ~食習慣と飲酒習慣~」
「【保健】抗がん剤の価格差は最大4倍以上 ~WHOの調査~」
「【保健】より危険な睡眠時無呼吸 ~脳・心疾患のリスク増~」
「【保健】初日の出の心身的効果 ~鬱対策は光を浴びて~」
「【保健】日本人肥満男性の食事と運動 ~糖尿病予防~」
「【保健】適性な「降圧目標値」 ~120未満で関連疾患が3割低下~」
「【保健】自由な裁量権でスリムに ~ストレスでメタボ~」
「【保健】目の老化には赤と緑と橙色 ~加齢黄斑変性症の予防~」
「【保健】早期発見のためにエコーと併用 ~乳がん検診~」
「【保健】骨折予防はカルシウムのほかに・・・・」
「【保健】前糖尿病患者は食習慣の改善を ~全国糖尿病週間~」
「【保健】糖質制限より脂質制限? ~体脂肪を減らす~」
「【保健】受動喫煙が歯周病リスクに ~ただし男性のみ~」
「【保健】貧乏ゆすりが命を救う? ~マナーより健康~」
「【保健】「高収入の勝ち組」の健康リスク? ~50歳以上の有害な飲酒~」
「【保健】照明用白色LEDのブルーライトは安全か?」
「【保健】目の愛護デー ~緑内障による失明を予防~」
「【保健】長時間労働は脳卒中リスク ~週41~48時間でも上昇~」
「【保健】ほぼ毎日食べると、死亡リスクが14%減少 ~唐辛子~」
「【保健】水族館でリラックス効果 ~血圧・心拍数に好影響~」
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〈例〉「仕事に対する自信をなくし、職場復帰したいのに一日中家でふさぎこんでいる」患者がいる場合、BAの立場からは、その患者は職場で体験する嫌な状況や気分から逃れるため行動を抑制する「回避」状態にあると定義される。
回避行動は結果的に、「自発的な行動を増やして自己効力感を取り戻す」機会を減らしてしまう。
この悪循環を断ち切るには、「嫌な気分」や「やる気がでない」状態(うつ病の主症状)にとらわれず、職場復帰したいという本来の目的に近づく「接近行動」(〈例〉朝は起きる、顔を洗う、等を実行すること)が肝心だ。
毎日の生活で、嫌な気分に自分の行動を決めさせるのではなく、行動で気分を変化させるわけだ。つまり、「やっていれば、そのうち気分も乗ってくる」のだ。論理的に認知の歪みをリモデリングするCBTよりなじみやすい。
(3)エクセター大学の研究では、成人うつ病患者440人(平均年齢43.5歳)を①CBT群、②BA群に分け、12ヵ月後にうつ病重症度評価スコアを比較(登録時には①、②群とも中等~重症だった)。
治療の結果、①、②両群ともうつ病スコアが軽微~軽度に改善した。両群で効果の差はなかった。
BAのミソは、接近行動が次の接近行動を活性化する点だ。体調が悪いときに行動するのは辛いが、あきらめずに続けることで好循環が生まれ、治療効果が持続する。
秋冬は憂うつな季節だが、何はともあれ日々行動することだ。
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【参考】
「【保健】孤独リスクも欧米化する?/宴会文化が廃れた後は」
「【保健】茶カテキンによる肝障害でノルウェーがサプリメント含有量規制へ」
「【保健】学んで4時間後に運動すると記憶が定着 ~記憶術~」
「【保健】飲む抗癌剤で生存率改善へ ~膵臓癌の再発を抑制~」
「【保健】恐竜も腫瘍を患う ~癌は進化の宿命~」
「【保健】高血圧にはモーツァルト ~安静に寝ているより効果的~」
「【保健】塞栓症リスクが低いピルは?/エストロゲン量と黄体ホルモンで違い」
「【保健】悲しいと食べすぎる ~食べ放題は幸せなときに~」
「【保健】「夏の蚊対策国民運動」 ~ジカ熱対策~」
「【保健】2型糖尿病発症にも民族差/アジア系は「BMI23」でリスク」
「【保健】ジャガイモに高血圧リスク/ノンオイルでも要注意 」
「【保健】ADHDに「ゲーム療法」?/2製品が臨床試験へ」
「【保健】男性は運送業、女性は医療・介護 ~メタボになりやすい業種~」
「【保健】健康生活の王道は「食」 ~食事バランスガイドと死亡率~」
「【保健】眼底検査で何がわかるか ~眼疾患だけではない~」
「【保健】弾性ストッキングが効果的 ~エコノミークラス症候群対策~」
「【保健】マインドフルネスで腰痛改善 ~認知行動療法と同じ効果~」
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