(1)「一線都市」(北京や上海など)の不動産価格が家計年収の10倍をはるかに超え、北京や上海の住宅は高根の花となっている。一方、「新一線都市」(地方の省都)へUターン・Iターンをする動きが出ている。
大卒の就職先は、北京や上海はなお人気だが、成都、武漢など内陸地方の省都なども人気が出ている。一線都市を目指していた就職が変化しつつある。
(2)北京では、中心部の不動産価格は1平方メートル当たり10万元(160万円)、標準的な住宅の価格は1,000万元(1億6,000万円)だ。大卒であれば若い夫婦でも家計年収20万~30万元は珍しくないが、それでも1,000万元は高価だ。郊外に行けば安価な物件もあるが、通勤は不便になる。
そうした中、給与水準が低くとも、職場があり、都心部近くにマンションを購入できる「新一線都市」が人気となっている。
新一線都市とされるのは、天津、杭州、寧波、南京、重慶、青島、成都、武漢、蘇州、西安、長沙、瀋陽、鄭州、大連、厦門(福建省)、東莞(広東省)だ【新一線都市研究所】。北方の有名な省都がリストから外れる一方、南方の地方都市がリストに入る(「北少南多」傾向)。成都や武漢の位置づけが高く、内陸へのシフトも見られる。
(3)こうした状況が生じている理由は、一線都市の不動産価格が高くなる一方、新一線都市では、都心からさほど離れていない所でも200万元程度の物件があり、ちょっと外れた所に行けば半額の100万元以下の物件も珍しくないからだ。若者や若い夫婦にとって生活設計が立てやすい。
(4)2010年代的といっていい幾つかの理由もある。
Uターン・Iターンが増えてきた背景としては、
(a)高速鉄道や高速道路の整備に続いて地方都市のインフラが整備された。
(b)メッセンジャーアプリの微信(WeChat)や、電子決済サービスの支付宝(Alipay)などによって、情報格差が急激に縮小し、電子商取引がほぼ完全に普及した。
(c)それによって、一線都市と地方都市の生活の差がほぼなくなった。
(d)新一線都市がそれぞれの企業誘致や産業支援を進めつつ、人材誘致も強めている。・・・・優秀な人材に対して戸籍、賃金補助、住宅補助などを与え、人の量だけでなく、地域産業の高度化とそれを支える人の質を高める人口政策が、新一線都市で採られている。〈例〉成都・・・・国家レベルの専門家に最高300万元を提示。厦門・・・・超一流の人材や企業に最高1億元を提示。
(5)中国は国土が広く、全人口の1割、2割が集中するような大都市圏ができない。今はしかし、交通や情報、生活において、北京や上海に近い都市生活を地方都市でも実現可能になった。
日本では、交通網の整備が東京への人口集中を招いた。しかし、中国では日本とは逆に、地方に人を分散させる。新一線都市がかつての日本の理想を実現するか、が注目される。
□鈴木貴元(丸紅(中国)有限公司経済調査総監)「地方の生活水準が向上/手頃な住宅が手に入る「新一線都市」が人気」(「週刊ダイヤモンド」2017年9月16日号)
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【欧州】総工費8兆円超の英高速鉄道プロジェクト ~高まる期待と漂う懸念~」
「【欧州】スペイン経済は大打撃、欧州金融危機の再来か ~カタルーニャ独立~」
「【欧州】のゴミ箱扱いに憤慨する東欧諸国 ~深まるEUの東西分裂~」
「【英国】の地政学的優位性がBrexitで喪失 ~領内で高まる独立気運~」
「【欧州】北欧も難民入国規制強化へ ~形骸化するシェンゲン協定~」
「【スウェーデン】文化多元主義の限界 ~移民問題~」
大卒の就職先は、北京や上海はなお人気だが、成都、武漢など内陸地方の省都なども人気が出ている。一線都市を目指していた就職が変化しつつある。
(2)北京では、中心部の不動産価格は1平方メートル当たり10万元(160万円)、標準的な住宅の価格は1,000万元(1億6,000万円)だ。大卒であれば若い夫婦でも家計年収20万~30万元は珍しくないが、それでも1,000万元は高価だ。郊外に行けば安価な物件もあるが、通勤は不便になる。
そうした中、給与水準が低くとも、職場があり、都心部近くにマンションを購入できる「新一線都市」が人気となっている。
新一線都市とされるのは、天津、杭州、寧波、南京、重慶、青島、成都、武漢、蘇州、西安、長沙、瀋陽、鄭州、大連、厦門(福建省)、東莞(広東省)だ【新一線都市研究所】。北方の有名な省都がリストから外れる一方、南方の地方都市がリストに入る(「北少南多」傾向)。成都や武漢の位置づけが高く、内陸へのシフトも見られる。
(3)こうした状況が生じている理由は、一線都市の不動産価格が高くなる一方、新一線都市では、都心からさほど離れていない所でも200万元程度の物件があり、ちょっと外れた所に行けば半額の100万元以下の物件も珍しくないからだ。若者や若い夫婦にとって生活設計が立てやすい。
(4)2010年代的といっていい幾つかの理由もある。
Uターン・Iターンが増えてきた背景としては、
(a)高速鉄道や高速道路の整備に続いて地方都市のインフラが整備された。
(b)メッセンジャーアプリの微信(WeChat)や、電子決済サービスの支付宝(Alipay)などによって、情報格差が急激に縮小し、電子商取引がほぼ完全に普及した。
(c)それによって、一線都市と地方都市の生活の差がほぼなくなった。
(d)新一線都市がそれぞれの企業誘致や産業支援を進めつつ、人材誘致も強めている。・・・・優秀な人材に対して戸籍、賃金補助、住宅補助などを与え、人の量だけでなく、地域産業の高度化とそれを支える人の質を高める人口政策が、新一線都市で採られている。〈例〉成都・・・・国家レベルの専門家に最高300万元を提示。厦門・・・・超一流の人材や企業に最高1億元を提示。
(5)中国は国土が広く、全人口の1割、2割が集中するような大都市圏ができない。今はしかし、交通や情報、生活において、北京や上海に近い都市生活を地方都市でも実現可能になった。
日本では、交通網の整備が東京への人口集中を招いた。しかし、中国では日本とは逆に、地方に人を分散させる。新一線都市がかつての日本の理想を実現するか、が注目される。
□鈴木貴元(丸紅(中国)有限公司経済調査総監)「地方の生活水準が向上/手頃な住宅が手に入る「新一線都市」が人気」(「週刊ダイヤモンド」2017年9月16日号)
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【参考】
「【欧州】総工費8兆円超の英高速鉄道プロジェクト ~高まる期待と漂う懸念~」
「【欧州】スペイン経済は大打撃、欧州金融危機の再来か ~カタルーニャ独立~」
「【欧州】のゴミ箱扱いに憤慨する東欧諸国 ~深まるEUの東西分裂~」
「【英国】の地政学的優位性がBrexitで喪失 ~領内で高まる独立気運~」
「【欧州】北欧も難民入国規制強化へ ~形骸化するシェンゲン協定~」
「【スウェーデン】文化多元主義の限界 ~移民問題~」