語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【北朝鮮】が自力で製造? ~西側先進国で使用禁止の猛毒ミサイル燃料「悪魔の毒液」~

2017年09月30日 | 社会
 (1)8月29日に続いて9月15日に北朝鮮から発射され、日本上空を通過して太平洋に落下した弾道ミサイル(ballistic missile)に使われたとみられる液体燃料が「悪魔の毒液(Devil's Venom)」だ。
 正式には「非対称ジメチルヒドラジン(unsymmetrical dimethyl hydrazine=UDMH)」と呼ばれている。猛毒で爆発しやすいロケット燃料(highly poisonous and explosive rocket fuel)であり、俗称の「悪魔の毒液」で語られることが多い。
 あまりに危険であることから、西側先進国ではかねて使用禁止になっている。米航空宇宙局(NASA)は早くも1966年に「毒性推進剤の危険性」と題したビデオを制作し、UDMHの使用に警鐘を鳴らした。

 (2)米ニューヨーク・タイムズ紙は9月17日、独自の調査に基づいて北朝鮮がUDMHを中国から入手しているばかりか、自力で製造する能力を身に付けている可能性を指摘した。同紙の取材に、ティモシー・バレット・米国家情報局(DNI)報道官は次のように語っている。
 「北朝鮮は明らかに科学技術分野で前進しているし、しかもミサイル開発を最優先している。UDMHを自力で製造するようになっていてもおかしくない」
 これを受けて英米のタブロイド紙上にはセンセーショナルな見出しが躍った。
 〈例〉英デイリー・エクスプレス紙。見出しは「明らかにされた北朝鮮の秘密兵器--金正恩が中国から輸入する『悪魔の毒液』」。

 (4)UDMHを「悪魔の毒液」と形容したのはロシア人だ。1960年の旧ソ連で、大陸間弾道ミサイル(ICBM)が試験発射中に爆発し、軍人や技術者ら100人以上が犠牲になる大事故が発生した。「ニェジェーリンの大惨事(Nedelin Catastrophe)」だ。爆発したICBMの燃料に使われていたのがUDMHだ。

 (5)北朝鮮は主要貿易相手の中国からUDMHを調達してきたようだ。ニューヨーク・タイムズは「北朝鮮は長年にわたり、中国からUDMHそのものに加えてUDMHの原料、製造技術、製造装置を輸入してきた」と伝えている。

 (6)国連安全保障理事会は9月11日に北朝鮮に対する追加制裁(additional sanctions)を決議し、同国への原油輸出制限を盛り込んだ。米国は原油の全面禁輸を求めていたが、輸出に上限を設ける内容で譲歩した。中国とロシアの支持を得られないと判断したためだ。
 米国は早くも効果が出ていると主張している。同月20日にレックス・ティラーソン国務長官は記者会見で「北朝鮮は国内で燃料不足に直面しつつある」と指摘。その数日前にはドナルド・トランプ大統領が「北朝鮮のガソリンスタンド前は長蛇の列。お気の毒に!(Long gas lines forming in North Korea. Too bad!)」とツイートした。
 だが、仮にそうだとしても、北朝鮮のミサイル開発に打撃を与える効果はどのくらいあるか。北朝鮮がUDMHを自力で製造できるとしたら、同国は原油に頼らずに弾道ミサイルを発射できるのだ。

□牧野洋(ジャーナリスト兼翻訳家)「Devil's Venom(悪魔の毒液) /西側先進国で使用禁止の猛毒ミサイル燃料、北朝鮮が自力で製造? ~Key Wordで世界を読む No.160~」(「週刊ダイヤモンド」2017年10月7日号)
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 【参考】
【米国】アマゾンのベゾス氏の資産800億ドル突破 ~世界一の大富豪ゲイツ氏に肉薄~
【スウェーデン】の実験 ~1日6時間労働 six-hour workday~
【米国】保育危機 child care crisis ~保育費が大学授業料を超える~
【米国】トランポノミクス ~ドナルド・トランプの経済政策~
【IT】米IBMはもはや「コンピューターの巨人」ではない ~Medium Blue~
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【本】IT革命、コミュニケーションの変容、家族の繋がりが希薄化 ~『「サル化」する人間社会』~

2017年09月30日 | 批評・思想
★山極寿一『「サル化」する人間社会』(集英社インターナショナル、2014)

 人類は、進化論的にまずゴリラと分岐し、その後にサルと分岐した。そのような人類は、両者の特徴を併せ持って進化してきた。ゴリラの世界が平和な家族中心なのに対して、サルの世界はボスを頂点にいただくピラミッド型の競争社会。そして人類は、その組み合わせを実現してきた。
 ところが、近年、IT革命によるコミュニケーションの変容で家族特有の繋(つな)がりが希薄化し、人類がサル化しているという。世界中で所得格差が極端になる中で、むき出しの競争社会の摩擦が生じるようになった今日、家族と社会の在り方を考える上で極めて示唆に富んだ本である。著者は京都大学の総長で、ゴリラ研究の第一人者。若干、学術的で難しい箇所もあるが、最後の2章だけでも読む価値十分だ。

□松元崇(国家公務員共済組合連合会理事長)「繋がりの希薄化を考える ~名著未読・再読~」(「週刊ダイヤモンド」2017年10月7日号)を引用
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