(1)欧州では2015年から、意図的に一般市民を巻き込むテロが多発し、観光客の足が遠のく懸念が増している。
2015年の観光客数は前年比5%増えたが、テロが多発した2016年は2%増にとどまった。
今回のバルセロナのテロで、今後マイナスに落ち込む可能性もある。
(2)フランス・・・・
観光客が最も多い国で、2015年は8,400万人もの人が訪れた。
しかし2015年11月、パリ同時多発テロ事件が発生(犠牲者130人)。
2016年7月、「イスラム国」(IS)がニースで花火の見物をしていた人々の列にトラックで突っ込み、84人が死亡した。
この事件後、ニースのホテル予約は10%以上落ち込んだ【宿泊斡旋業者のエクスペディア】。
(3)チュニジア、エジプト、トルコ・・・・
(a)チュニジア・・・・ISの標的にされている欧州の国々に代わる観光地として注目されていたのが、地中海に面しているチュニジア、エジプト、トルコの3国だった。しかし2015年3月の博物館襲撃テロ(犠牲者22人、うち3人は日本人)、そのたった3カ月後に起こったリゾート地での連続テロにより、チュニジアの人気は途絶えた。2016年の観光収入は連続テロ前の2014年に比べると34.1%も減少した。
(b)エジプト・・・・宗教間の対立をもくろむISが、キリスト教を標的としたテロを相次ぎ実行している。2010年には観光で2兆3,000億円も稼いでいたのだが、2015年にはその半分に落ち込んだ。
(c)トルコ・・・・昔からくすぶっているクルド問題やテロに加え、エルドアン大統領の独裁に対する懸念が高まり、欧州の観光客はそっぽを向いている。
(4)これら3国を代替できる条件を備えたのがバルセロナだ。地中海に面し、文化的水準が高く、洗練されたバルセロナは、2015年に「永遠の都」ローマを抜き、ロンドンとパリに次ぐ観光都市となった。昨年の観光客数は9.2%も増え、観光業は約50万人の雇用を創出している。製造業やファッション関連とともに経済の大黒柱だ。
観光客の急増で、居住場所の減少、治安悪化、景観の俗化、買い物の不便(地元民のスーパーなどが店を閉じて観光客向けの店に替わる)など、地元民との摩擦もあった。他方、GDPの16%を担う観光業の発展により、スペインは南欧金融危機からいち早く立ち直り、一番多くの職を供給していた。
しかし今回のテロで風向きは変わるだろう。
(5)自然災害の影響の方がテロよりも長引くのがこの業界の常識だが、これだけテロが頻繁に、しかも身近で起きると話は違ってくる。
米国同時多発テロのような大掛かりな爆破テロは準備に手間がかかる。だからISは、バス・乗用車で通行人を轢いたり、ナイフで切り付けたりするような、「専門性」を必要としないけれども警察による制止が困難なテロに切り替えつつある。
また最近は「ソフト・ターゲット」(防御のできない一般人)を標的にしている。ISは戦場では追い詰められ、地盤がなくなりつつあるため、主戦場以外での活動を活発化するためにこのような戦術の変更を行っている。
このISの戦術転換は、欧州経済に大きな痛手を与えるだろう。テロには決して屈しない姿勢を持つ英国市民でさえ、観光スポット選択の第一条件として97%が「安全」を挙げているのだ。
□竹下誠二郎(静岡県立大学経営情報学部教授)「ISが戦術を転換/身近で頻発するテロで苦境に陥る欧州の観光業」(「週刊ダイヤモンド」2017年9月9日号)
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【欧州】総工費8兆円超の英高速鉄道プロジェクト ~高まる期待と漂う懸念~」
「【欧州】スペイン経済は大打撃、欧州金融危機の再来か ~カタルーニャ独立~」
「【欧州】のゴミ箱扱いに憤慨する東欧諸国 ~深まるEUの東西分裂~」
「【英国】の地政学的優位性がBrexitで喪失 ~領内で高まる独立気運~」
「【欧州】北欧も難民入国規制強化へ ~形骸化するシェンゲン協定~」
「【スウェーデン】文化多元主義の限界 ~移民問題~」
2015年の観光客数は前年比5%増えたが、テロが多発した2016年は2%増にとどまった。
今回のバルセロナのテロで、今後マイナスに落ち込む可能性もある。
(2)フランス・・・・
観光客が最も多い国で、2015年は8,400万人もの人が訪れた。
しかし2015年11月、パリ同時多発テロ事件が発生(犠牲者130人)。
2016年7月、「イスラム国」(IS)がニースで花火の見物をしていた人々の列にトラックで突っ込み、84人が死亡した。
この事件後、ニースのホテル予約は10%以上落ち込んだ【宿泊斡旋業者のエクスペディア】。
(3)チュニジア、エジプト、トルコ・・・・
(a)チュニジア・・・・ISの標的にされている欧州の国々に代わる観光地として注目されていたのが、地中海に面しているチュニジア、エジプト、トルコの3国だった。しかし2015年3月の博物館襲撃テロ(犠牲者22人、うち3人は日本人)、そのたった3カ月後に起こったリゾート地での連続テロにより、チュニジアの人気は途絶えた。2016年の観光収入は連続テロ前の2014年に比べると34.1%も減少した。
(b)エジプト・・・・宗教間の対立をもくろむISが、キリスト教を標的としたテロを相次ぎ実行している。2010年には観光で2兆3,000億円も稼いでいたのだが、2015年にはその半分に落ち込んだ。
(c)トルコ・・・・昔からくすぶっているクルド問題やテロに加え、エルドアン大統領の独裁に対する懸念が高まり、欧州の観光客はそっぽを向いている。
(4)これら3国を代替できる条件を備えたのがバルセロナだ。地中海に面し、文化的水準が高く、洗練されたバルセロナは、2015年に「永遠の都」ローマを抜き、ロンドンとパリに次ぐ観光都市となった。昨年の観光客数は9.2%も増え、観光業は約50万人の雇用を創出している。製造業やファッション関連とともに経済の大黒柱だ。
観光客の急増で、居住場所の減少、治安悪化、景観の俗化、買い物の不便(地元民のスーパーなどが店を閉じて観光客向けの店に替わる)など、地元民との摩擦もあった。他方、GDPの16%を担う観光業の発展により、スペインは南欧金融危機からいち早く立ち直り、一番多くの職を供給していた。
しかし今回のテロで風向きは変わるだろう。
(5)自然災害の影響の方がテロよりも長引くのがこの業界の常識だが、これだけテロが頻繁に、しかも身近で起きると話は違ってくる。
米国同時多発テロのような大掛かりな爆破テロは準備に手間がかかる。だからISは、バス・乗用車で通行人を轢いたり、ナイフで切り付けたりするような、「専門性」を必要としないけれども警察による制止が困難なテロに切り替えつつある。
また最近は「ソフト・ターゲット」(防御のできない一般人)を標的にしている。ISは戦場では追い詰められ、地盤がなくなりつつあるため、主戦場以外での活動を活発化するためにこのような戦術の変更を行っている。
このISの戦術転換は、欧州経済に大きな痛手を与えるだろう。テロには決して屈しない姿勢を持つ英国市民でさえ、観光スポット選択の第一条件として97%が「安全」を挙げているのだ。
□竹下誠二郎(静岡県立大学経営情報学部教授)「ISが戦術を転換/身近で頻発するテロで苦境に陥る欧州の観光業」(「週刊ダイヤモンド」2017年9月9日号)
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【欧州】総工費8兆円超の英高速鉄道プロジェクト ~高まる期待と漂う懸念~」
「【欧州】スペイン経済は大打撃、欧州金融危機の再来か ~カタルーニャ独立~」
「【欧州】のゴミ箱扱いに憤慨する東欧諸国 ~深まるEUの東西分裂~」
「【英国】の地政学的優位性がBrexitで喪失 ~領内で高まる独立気運~」
「【欧州】北欧も難民入国規制強化へ ~形骸化するシェンゲン協定~」
「【スウェーデン】文化多元主義の限界 ~移民問題~」