語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【原発】「情報の価値」は「所有」か「共有」か

2012年07月16日 | 震災・原発事故
 マスメディア型とネット型には、情報の社会的移動をめぐる特性の相違があった。
 これとは別にもう一つ、マスメディア型とネット型との違いが、今回の原発事故をめぐって顕わになった。
 「情報の価値」の考え方が、両者で大きく異なっているのだ。

(1)マスメディア型=「所有」
 情報の送り手側は、社会的要請や社会的必要性によって情報を生産し、伝達する。
 (a)マスメディア型情報において、多くの場合、「情報の価値」は「所有」という原理に左右される。情報を独占し、所有することが「商品」としての「情報の価値」を高める、という基本的な原理だ。その原理の下に、情報は序列化される。そして、どの情報を発信するかが決定される。情報の生産も、基本的に資本の論理に従っている。
 <例>日本テレビ(の系列の福島中央テレビ)が撮影した福島第一原発1号機の爆発の映像は、他の局では一切放送されなかった。
 「情報の価値」は「所有」にあるとする原則により、他局がその映像を使用することを認めなかった。著作権法に従うかぎり、それは正当な判断だ。しかし、その映像は日本テレビが独占すべきものだったか。誰もが見ることができる公共財ではなかったか。
 (b)「所有」という「情報の価値」は、多くの場合、視聴率によって測られ、その数値によって、いかなる情報を発信するか、どのような形式で発信するか、が左右される。
 <例>①政治的な論争点の説明、②政治家の失言をセンセーショナルな伝達・・・・のうち②のほうが視聴率を上げる有効な手段となり、経済的にも有利、とテレビ局が判断すれば、テレビの報道は②に傾きやすい。
 (c)情報の生産と伝達は、①根本的原理(「伝えたいこと」「伝えねばならないこと」を伝える)と、②「情報の価値」を「所有」に定位する原理との間の微妙なバランスシートの上で実現される。マスメディア型の情報は、多くの場合、②に強く規定される。・・・・それは自明のことだ、と誰もが考えてきた。

(2)ネット型=「共有」
 (a)福島第一原発事故に係るネット上の情報生産は、これまでの常識を覆した。(1)とは、まったく異なる原理や理念に基づいていたからだ。「情報の価値」の「共有」、つまり情報を「分かち持つ」こと自体に置いていたのだ。
 <例>IWJの実践、OurPlanet-TVの活動、さまざまな分野の科学者の意見、海外のさまざまな専門家からのアドバイス、ジャーナリストの主張、市民からの現状報告や主張。
 これらは、情報を多くの人に知らせ、多くの人と情報を分かち持ち、共有すること、そのこと自身に価値を見いだす中で、情報の生産・移動・受容・補完が行われた。
 (b)そして、「共有」に「情報の価値」を置いたネット上の情報が、既存のメディアを圧倒するような存在感を示した。逆に、今回の原発事故報道をめぐってマスメディアが発信した情報が、「共有」されるべき価値のある情報だと見なされることはほとんどなかった。
 (c)テレビとネット/マスメディア型、ネット型/「モル的」コミュニケーションと「分子的」コミュニケーション・・・・という対立軸は、歴史的に依存してきたテクノロジーの相違や、巨大組織を基盤にした活動と小集団/個人を基盤にした活動・・・・といった違いとは位相を異にするもう一つの対立軸を伴っている。「情報の価値」をどこに置くのか、というもっとも根本的な差異だ。

(3)市民の価値意識の変化から挑戦を受けるメディア
 (2)-(c)の対立軸は固定的に考えるべきではない。マスメディアが発信した情報のなかにも「情報の価値」を「共有」において制作された番組は数多くある。それが口コミやネットを通じて評判になり、ネットの動画配信で繰り返し視聴され、「分かち合うべきもの」として多くの人々に「共有」される現象が見られた。
 <例>NHKのEYV特集「原発災害の地にて ~対談・玄侑宗久VS吉岡忍」(2011年4月3日放送)。放射能汚染の実態を報じようとせず、企画を通さなかったNHKの上層部からの圧力をはね返すなかで放送されるや、この番組は世論の支持を集めた。世論の支持は、その後の、衝撃的な汚染の実態を調査報道のかたちで剔抉した「ネットワークでつくる放射能汚染地図」の放送につなげた。この2つの番組は、ネットの動画サイトにアップされ、多くの人々の共感と支持を集めた。指示の輪は広がり、再放送された。「情報の共有」という点で、テレビとネットが相互にコラボレートした典型的な事例だ。
 マスメディアは、「情報の価値」を「所有」ではなく「共有」に置くことを積極的に求めて自らそれを実践する市民の価値意識の変化から、挑戦を受けている。
 新自由主義政策は、資本の論理を極端なかたちで進めた。行き着いた先が経済的・社会的格差と分断、貧困だ。これが現代社会の根底にある。そこから脱却するカギとなるのは、「COMMON=共有」にある、とアントニオ・ネグリは主張する。現代資本主義【注】のなかで、自己のアイデアや感情を、そして他者とのコミュニケーションを、文字どおり「他者と分かち合う」共同の営みとして実践し、「COMMON=共同」を実現しようとし、その先に「来るべき社会」の基本原理を彼は展望する。

 【注】ポストフォーディズムといわれる知識産業や情報産業そしてサービス産業へと転嫁し、アイデア、コミュニケーション、さらには気配りや表情といった感情的表現すら、高利潤を生み出す重要な資源としての資本の論理に組み込まれていく状況。

 以上、伊藤守『ドキュメント テレビは原発事故をどう伝えたのか』(平凡社新書、2012)の「第7章 情報の「共有」という社会的価値」に拠る。

 【参考】「【原発】社会的境界を横断するネット型の情報 ~3・11後の構造的変化~
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【原発】社会的境界を横断するネット型の情報 ~3・11後の構造的変化~

2012年07月15日 | 震災・原発事故
 従来、自然災害時にもっとも頼れるメディアはテレビだった。テレビがプラットホームとなって、それなりに信頼できるし品質の保証された情報を提供した。多くの市民がその情報を共有することで、事態に対応してきた。
 が、そのあり方が3・11の大震災と原発事故を境に、根本的に変化した。

 (1)ライフスタイルや文化の消費に関わる領域にとどまらず、災害や大事故といった社会の構成員全体に関わる事態においてさえ、「マスメディアを介して、マス=大衆がほぼ同一の情報を供給するという構造」が崩れ去った(歴史的転換)。
 (2)この構造的変化のなかに、従来のマスメディアがプラットホームとなった情報の生産・移動・受容とは異なる別の社会情報の回路が、萌芽的なものとはいえ、生まれた。その回路を基盤にして新しい知(「共同の知」/「集合知」)の付置の関係が生まれつつある。

 「集合知」(Collective Intelligence /Collective knowledge /Wisdom of Crowds)の概念は、異なる文脈で成立し、使用されてきたが、およそ2つの学問的系譜がある【注1】。両者には発想やアプローチに違いはあるが、個体あるは個人を前提として諸個人が相互に触発し合うことで、そこに創発的特性が生まれ、個人の能力の総和以上の集団的知性が生まれる、という仮説に立つ点で共通する。
 原発事故に対するネット上の情報発信、移動、情報の共有という事態には、「集合知」を彷彿させる知の形態の現代的な生成の萌芽をかいま見ることができる。日常的な活動の分野も違えば、専門も違い、立場も違う個人が、それぞれ自ら伝えたい情報を選択し、転送し、他の誰かに伝える。複数のさまざまな情報が無限のループを描くように折り重ねられた情報環境の成立だ。この環境にコミットする者たちにとっては、さまざまな知がネットワーク状につながり、そのバーチャルなデジタル空間上に「共同の知」/「集合知」が成立する。

 この「集合知」は、ジル・ドゥルーズのいわゆる「分子的な微粒子状」の情報の流れ【注2】、「分子的」コミュニケーションの生成と考えることもできる。
 (a)情報の生産が技術的にも経済的にも制約された段階(3・11の原発事故の初期段階)では、情報発信はマスメディアという企業体とその「専門家」集団によって担われ、そのプラットホームから伝達された情報を受容することで、オーディエンス(視聴者)は結果的に同じ情報を分かち持った(20世紀のマスメディア型社会の基本構造)。しかも、新聞・テレビなどマスメディアは、国境という境界を暗黙の前提にして情報を伝達した。
 (b)他方、ネットは、基本的にはボトムアップ型の情報の流れを構成し、社会的境界を横断し、国境すらやすやすと越境していく特性を持つ。その横断性が、異質な個人同士の接触、異質な意見や主張の相互接触を生み出すことで「集合知」が生成する基盤を構成していく。それは、従来のマスメディア型社会の知の配置(トップダウン型の情報流通によって結果的に同じ情報を分かち持つ)とは、まったくその様相を異にする。

 【注1】①細菌、動物からコンピュータまで、個体と他の複数の個体との会田の協調・協力・競争関係から、その個体が帰属する集団自体に一つの精神/知性が存在するかのように見える現象を Collective Intelligence ととらえる。②Wisdom of Crowds の Crowds は、19世紀後半にG・タルドやG・ル・ボンらが街頭デモや政治的蜂起・暴動に注目して呼んだ「群衆行動」の「群衆」に根ざし、「群衆」は感情的で非理性的存在と見なされた。が、それでもある条件が整えば、個々の思考が相互に作用して協調すれば構成できるところの、ある種の「叡智」だ。
 【注2】組織された集合体の内部の理路整然とした情報の流れ(「モル」的コミュニケーション)に対し、性、階級・階層、専門分野、国境といった境界領域を横断して情報が広範囲に、しかも予測不能な効果を生み出しながら移動する特性を持つコミュニケーション(「分子的な微粒子状」の情報の流れ)。

 以上、伊藤守『ドキュメント テレビは原発事故をどう伝えたのか』(平凡社新書、2012)の「第7章 情報の「共有」という社会的価値」に拠る。
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【消費税】増税に対する10項目の構造改革的批判

2012年07月14日 | 社会
(1)経済対策
 (a)デフレ解消が先
 デフレでは財政再建はうまくいかない。OECD加盟国を1960年代から見ると、名目成長率が高くなった国が財政再建に成功している。名目成長率は翌年の基礎的財政収支と強い相関がある。増税の前に、名目成長率を先進国並みに4~5%にしてプライマリー収支を改善し、デフレから脱却しておく必要がある。日本のデフレはマネー不足でおきている。ちなみに、1997年に消費税率を3%から5%に引き上げたが、それ以来デフレが続き、税収は1997年度の水準を下回っている。

 (b)財政再建の必要性が乏しい
 日本の財政状況は、財政当局がいうほど悪くない。日本経済の潜在力や政府資産の大きさなどから、欧州の国ほど深刻でない。欧州で緊縮政策が否定されている中、日本が増税政策を採るべきではない。10年くらいで財政再建する必要性はあるが、急に行えばかえって財政再建自体ができなくなる。
 先進国各国の財政状態の深刻さは、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の数字(その国の国債の危険度に応じた数字)が一つの参考になる。米国0.4%、英国0.7%、日本1.0%、独国1.1%、仏国2.2%、伊国5.5%だ(6月11日現在)。ギリシャは100%に近く、事実上デフォルトだ。

 (c)迫る欧州危機時にやることでない
 欧州危機が迫っている中、日本で増税してはならない。
 リーマンショックの時、震源地でもない日本が世界最悪のGDPギャップを抱えてしまった。デフレを脱却していないにもかかわらず2006年3月に、日銀が量的緩和を解除してしまい、その半年後あたりから景気が下降局面に入っているときに、リーマンショックという外的ショックを受けたからだ。今回、まだ東日本大震災の傷がまだ完全には癒えていない。にもかかわらず消費税増税を強行するのは、経済政策として信じがたい。

(2)税理論
 (a)不公平の是正が先
 税率を上げる前に、税(保険料を含む)の不公平を直しておくべきだ。①今の不公平のうち大きいのは、社会保険料の徴収漏れだ。国税庁が把握している法人数と年金機構(旧社保庁)が把握している法人数は80万件も違う。労働者から天引きされた社会保険料が、年金機構に渡っていない可能性がある(推計10兆円程度)。②クロヨンといわれる所得税補足の格差、③インボイスを採用していない消費税の徴収漏れもある。税徴収の観点からみても今は「穴の空いたバケツ」だ。税率を上げる前に穴をふさぐのは常識だ。

 (b)歳入庁の創設が先
 不公平の解消のためには、①歳入庁(国税庁と年金機構の統合)、②消費税にインボイス方式の導入・・・・という先進国では当たり前のことをやれば、かなり解消でき、税・保険料も20兆円近く増収になる。
 税・保険料の徴収インフラとは、国税庁と年金機構が一体化する歳入庁だ。歳入庁は国民にとっても一ヵ所で納税と保険料納付が済むし、行革の観点からも行政の効率化になる。歳入庁による徴収一元化は世界の潮流と言ってよい。
 しかし、歳入庁の創設は財務省にとって都合が悪いらしい。国税庁は財務省の植民地になっており、国税権力を財務省が手放さない。安倍政権で旧社保庁を解体し、歳入庁を創設しようとした時にも激しく抵抗した。今の野田政権は、財務省のシナリオ通りに動くので、歳入庁が創設されるだろうか。

 (c)社会保障目的税化の誤り
 増税案では消費税を社会保障目的税化しているが、そうしている国はない。社会保障は所得の再分配なので、国民の理解と納得が重要だ。
 日本を含めて給付と負担の関係が明確な社会保険方式で運営されている国が多い。もっとも保険料を払えない低所得者に対しては、税が投入されている。ただし、日本のように社会保険方式といいながら、税金が半分近く投入されている国はあまりない。
 消費税の社会保障目的税化は、社会保障を保険方式で運営するという世界の流れにも逆行する(ドイツのように消費税引き上げの増収分の一部を、特定用途に使った国はある)。
 消費税の社会保障目的税化が間違いというのは、1990年代までは大蔵省の主張でもあった。しかし、1999年の自自公連立時に、財務省が当時の小沢一郎自由党党首に話を持ちかけて、消費税を社会保障に使うと予算総則に書いた。

 (d)消費税は地方税とすべき
 消費税は、地方分権が進んだ国では国でなく地方の税源とみなせることが多い。これは、国と地方の税金について、国は応能税、地方は応益税という税理論にも合致する。

(3)政治姿勢
 (a)無駄の削減・行革が先
 無駄の削減が不徹底だ。水面下の天下りを放置し、その上に現役出向というウラ技を正面から容認し、民間企業にまで現役天下りを拡大させてしまった。独立行政法人というシロアリの巣も手つかずだ。特別会計というシロアリへのミルクも温存されている。
 1981年から始まった土光臨調をまねて行革をやるというが、土光臨調は「増税なき財政再建」だった。だが、今回は「まず増税ありき」で、増税のためのアリバイ作りにすぎない。

 (b)資産売却・埋蔵金が先
 やっていない。

 (c)マニフェスト違反
 ①民主党は消費税を増税しないといって政権交代した。ちなみに、2009年9月9日付け3党連立政権合意書では「現行の消費税5%は据え置くこととし、今回の選挙において負託された政権担当期間中において、歳出の見直し等の努力を最大限行い、税率引き上げは行わない」と明言されている。
 ②今回の消費税増税法案は2014年4月に8%、2015年10月に10%に引き上げるので政権担当期間中の引き上げにならない・・・・というのは詭弁だ。
 ③民主党代表戦で野田佳彦総理が増税を掲げたので増税は正当化されている・・・・というのは、民主党内の身内の論理だ。
 ④消費税は社会保障に充てる・・・・というのは、社会保障目的税にするという会計操作を説明しているだけだ。2001~08年度の自公政権(リーマンショック時の麻生政権を除く)の平均歳出総額は83.6兆円。一方、2010~12年度の民主党政権の平均歳出総額は94.3兆円。その差は10.7兆円もある。消費税増税はその穴埋めと言ってもおかしくない。

 以上、高橋洋一(嘉悦大学教授)「6・13国会公聴会 私が述べた消費税増税反対の10大理由 ~俗論を撃つ【第41回】 2012年6月14日~」(DIAMOND online)に拠る。
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【震災】水木しげるとの対話:戦争と震災 ~生き残ることの意味~

2012年07月13日 | 震災・原発事故
 昭和16年12月8日の後、水木しげるの母は「日本は絶対に戦争に負ける!」と言って防空演習に一度も出たことはなかった【注】。
 水木しげる自身も、夜間中学で「先生! 戦争は満州まででエエんじゃないですか」と意見して、「非国民めっ」と教室から引きずりだされた【注】。
 この頃、水木は、長生きできんな、と自覚し、哲学書を盛んに読んだ。水木がわけても耽読したのは、岩波文庫の3分冊『ゲーテとの対話』だ【注】。
 歳月は移り、水木自身がゲーテの位置について、「水木しげるとの対話」を刊行する。
 
 --日本の社会に、寝つきの悪くなるような大きな自然災害が起きてしまいました。

 水木:大震災があったなあ。大変だ。

 --絶望感や喪失感がすっぽりと日本を包み込み、これから向かう先を未だに曇らせています。

 水木:津波にあったところの写真を見たときにはびっくりしたねえ。

 --水木さんは戦争を体験されているわけですが、それと重なって見えていたのではないでしょうか。自分ではどうしようもない、巨大な力になす術もなく飲み込まれていくしかないといったような・・・・。

 水木:被害を受けたところは大変だけど、現代の日本だから、まだモノがある。それに対して、戦争ではとにかくモノがない。
 それに戦争では、何もしなくても人が次々に死んでいきますから。戦争は怖い。敵がじわじわと、目に見えて近づいてくる。その怖さといったら、もう。

 --大震災では津波の後の原発事故で、目に見えない放射能の恐怖というものが具現化し、今の日本に刃のように突きつけられています。水木さんは、事故のリスク管理についてどう思われますか。

 水木:もう、起こってしまったことだからねえ。何とかならなかったのかねえ。

 --東日本大震災の被災地に、自殺者が増え始めています。復興が遅々として進まないことで、将来に希望が持てないことも大きな原因のひとつになっているのでしょうが、なかでも原発事故のあった福島県の方の自殺が増えているのはとても深刻です。
 自殺する人は、自分の思うように生きられない。それが大きいのでしょうか。

 水木:水木サンは、どんなときでも生きたかったから。自殺する人は、それが幸せだと思って死ぬんです。止める必要はないんじゃないですか。

 --実は、日本の自殺者は東日本大震災が起こるずっと前、1999年から12年連続して3万人を突破し、高止まりしていました。2011年は、さらに増える可能性が示唆されています。
 家族や親族だけでなく、仕事も、家も、地域や絆やつながりも、すべて根こそぎ持っていかれ、社会的な命が絶たれるという点は、戦争に召集された人の喪失感と通じるようなものはあるのでしょうか。

 水木:そうかもしれませんね。戦死した人間は可哀想です。彼らは、生きたくても生きられなかった。命があれば、何とでもなるんです。
 水木サンは、なかなか人を励ましたり喜ばせたりするような言葉が出てこない。名言を発して、たったそのひと言で救って、というようにはいかない。
 復興には時間もかかるのでしょうが、根本的にはマネーがないとできないことでしょう。暮らしを支えるのにも、まずお金がないと。
 そう考えると、どんな言葉にも力はないですよ。マネーがないと、下手をすると心までなくなってしまう。
 長い人生の中で一度や二度、お金が足りない状況に陥るのならまだいいけど、ずっとマネーがないとなると、どこか別の世界に行こうか、ということになっちゃうんじゃないのかなあ。
 なかには、運がとことん悪くて、何をやってもダメ、という人もいるだろうし。そういう人が死にたくなるのかもしれない。何とかしようと思っても、マネーが入ってこなければ生きていくことができません。
 そこが大きな問題。

 --最低限の生きる支えがないと、何事も始まらないということですね。

 水木:金がないと、心が変になってしまう。だって、そもそも楽しさとか笑いとか、そのベースにあるのは金です。さらに、今は金がないと笑えない社会になっているからねぇ。『笑い男』という悲劇は、ストーリーとしてはどうでしょう。男がいて、笑おうとするのに心底笑うことができない。身を粉にして賢明に働くけども、どうしたって笑うことができない、というストーリーはおもしろいかもわからんねえ。笑いを渇望する男の話。

 --笑いを渇望する男、ですか。今の世の中の深層を突いていると思います。

 水木:腹の底からゲラゲラ笑える瞬間を持てる人というのは、日本の社会に1割くらいしかいないんじゃないか。笑いは「幸福の象徴」ですからね。幸福を感じることができないから、笑うことができない。
 また、笑いというのは不思議なもので、一度笑い出すと、余計おかしくなってくるものなんです。金をどうにか稼ごうと思って悪戦苦闘している様が続くとね、逆におかしくなってしょうがなくなってくるわけですよ。
 笑えるようにしていかないといかんねえ。少なくても、1割増し程度の笑いを手はじめの目標とするとか。

 (中略)

 --戦争が終わったときんは、どのようなことをお感じになったのでしょうか。

 水木:そりゃあ、本当にホッとしましたよ。戦争が終わるらしい、といった終戦の噂が流れただけでも、ホッとしていたですよ。
 私は最前線にいたから、いつも敵と接触していた。その状態での、いつ戦争が終わるかわからない不安は、言いようがなかったねぇ。じっとして不安を感じているのならまだいいけど、ばちばち殴られながらですから、かなわんですよ。

 --戦争の真っ只中にいては「ここまで」という線引きがまったく存在しないわけですから、不安は泥沼的に広がっていったのでしょうね。

 水木:今日も、無事生きていられたからっていう感じ。1日、そしてまた次の1日ごとに、今、この瞬間は生きているんだなという感じ。

 --生き残ったことの幸せと、日々かみ締めておられたように聞こえます。震災後の人々は、将来にとても不安を感じていますが、「いまを生きる」に尽きるということでしょうか。

 水木:そう、1日1日、瞬間・瞬間が大事ですよ。

 【注】水木しげる『神秘家水木しげる伝』(角川書店、2008)

 以上、水木しげる『水木さんの「毎日を生きる」』(角川SSC新書、2011)の「序章 幸せの仕組みを理解している人はごくわずか」および「第2章生きていることはすばらしい」から一部引用した。

     
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【原発】電力自由化はまず関電から ~関西のエネルギー地産地消~

2012年07月12日 | 震災・原発事故
(1)東京電力の株主総会
 東電の発行済み株式数の2.66%を保有する東京都から、猪瀬直樹・副知事が乗り込んだ。
 その提案・・・・経営の透明化、設備投資の発注先決定に競争入札、関係者専用の東電病院の売却など。
 「東電病院を一般人に解放していない」といった個別具体的主張は、マスコミが飛びつきやすい。
 しかし、「債務超過だから東電を法的整理せよ」といった抜本的改革案は出していない。法的整理を行えば、東電の株券は紙くずになり、株主である東京都も痛手を負うからか。

(2)関西電力の株主総会
 関電の発行済み株式数の8.92%を保有する大阪市から、橋下徹・市長が乗り込んだ。
 その提案・・・・速やかな原発全廃、国・自治体OBの受け入れ停止、役員報酬の個別開示、役員数の半減など。
 「速やかな原発全廃」は、国の原発政策に依存しすぎると関電の経営問題になる、という点を衝いている。株主として筋が一応通っている。
 しかし、どこか、主張に迫力を欠いていた。配当を少々得て、株主総会で3分間質問しても何も変わらない、ということが分かっていたからか。
 橋下市長は、株総終了後、関電売却も視野において検討する意向を明らかにした。

(3)東京電力
 国民が望むのは、東電の法的整理、電気料金値上げの回避だ。
 東電を法的整理すれば、株主責任や債権者責任を問えるので、少なくとも5兆円捻出できる。東電は、民間の電気料金を10%程度値上げしようと目論んだが、この5兆円の「財源」が確保できれば、10%の値上げを10年間抑制できる。
 にも拘わらず、民主党政権は昨年、「東電救済法」を成立させ、東電の法的整理への道をふさいだ。そして今年の民自公の密室談合による消費増税と同じく、庶民に負担を強いる道を選んだ。

(4)関西電力
 大阪市は、関電の株を売却するなら、大阪市民に売却して、市民に市民の目線で関電を監視してもらうとよい。
 大阪市と大阪府は、大阪「都」を経て、いずれ関西州の一部になるだろう。
 地方ごとにまったく違った政策を実行できるのが地方分権だ。
 電力の安定的供給、しかも安い料金にするべく、そしてエネルギーの地産地消のため、関電に対する監督・規制権を経産省から関西州へ移すのだ。株主であることに拘らずに。そして、発送電分離の電力自由化を関西から行うのだ。そうすれば、東京都より早くエネルギー問題を解決できる。

 以上、ドクターZ「電力自由化はまず関電から ~ドクターZは知っている~」(「週刊現代」2012年7月21・28日号)に拠る。
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【原発】立地自治体という「異質な空間」 ~待ち受ける廃炉の群~

2012年07月11日 | 震災・原発事故
(1)法的根拠のない手続き
 福島第一原発事故が起きて、原発立地自治体の「異質性」が浮かびあがってきた。あれだけの重大事故が起き、多数の避難者や放射能被害を生み出しているにも拘わらず、少数の例外を除いて、立地自治体の首長の多くがなおも原発再稼働を待っているからだ。
 極めて問題の多い大飯原発再稼働が、なし崩しに決まった。政府(しかも一部の大臣たち)が立地自治体の「同意」をもって原発を稼働する、という手続きに法的な根拠はない。しかし、政府と立地自治体の取引関係で原発再稼働が決まっていく事実の中に、オイルショック以来、日本が本格化させてきた原発推進政策の「構造」がそのまま再現されている。
 原発の建設を促進する政府は、経済成長のために「国策」の「犠牲」になって原発を受け入れる立地自治体を必要とした。政府の農業や地域の切り捨て政策の結果、経済的な「豊かさ」から取り残された過疎地が絶えず生まれてくるので、政府は、そこに原発を受け入れる「ご褒美」を与えて原発を立地させた。こうして日本中に飛び地のようにして「異質な空間」が次々と作られていった。
 この「ご褒美」は、過疎化で消滅しかねない地域にとって酸素吸入器のようなものだ。酸素を送るのを停止すれば、たちまち命が絶たれてしまう。政府は、原発に絶対反対しない「異質な空間」を、原発を推進する強固な基盤として築いてきたのだ。
 かかる基盤のうえに、野田佳彦・首相が原発なしには「国民生活は守れない」と述べ、西川一誠・福井県知事は被災地元になるかもしれない周辺自治体との協議を拒否し、あくまでも「消費地」としての理解が得られるようにと言い続けたのだ。
 野田首相と福井県知事とのエールの交換は、これまで進めてきた原発推進政策の「構造」を固定化したいという意思表明に他ならない。
 逆に言えば、大飯原発3、4号機の再稼働決定の背後に隠された「構造」を断ち切らないかぎり、最終的に脱原発は実現しない。

(2)原発依存財政の仕組み
 飛び地のような「異質な空間」は、どのようにして形成されてきたか。
 立地自治体にとって、原発から上がる収入は、
 (a)計画から建設段階まで・・・・電源三法交付金【注】が重要な収入源。
 (b)運転開始後・・・・固定資産税が主な収入源。
 固定資産税は、立地自治体の税収の7~9割を占め、市町村の全国平均44%を大きく上回る。財政力指数は、全国平均0.53に対し、原発が立地する市町村はほとんどが1を超える。この豊富な財源が「異質な空間」を作りだしている。
 ただし、固定資産税は、減価償却が進むと大幅に減る。原発の法定耐用年数15年(財務省令で定める)だ。固定資産財が交付金その償却資産価値は最初の5年で初年度の2分の1に下がり、営業開始から20年で残存簿価が5%に減る。
 原発から上がる収入は永続しない。(a)は原発建設開始後5年間で、(b)は20年間で切れる。立地自治体は、酸素吸入器が切れた状態に陥ってしまう。いったん膨張した財政規模を縮小することは難しい。そこで次の原発が欲しくなる。こうして「原発銀座」が形成されていった。

 【注】立地自治体への交付金制度。1974年に導入された。国が電気事業者の販売電気に電源開発促進税を課し、これを原資にして、立地地域への交付を行う仕組みだ。電源三法(電源開発促進税法・電源開発促進対策特別会計法・発電用施設周辺地域整備法)によって決められている。

(3)なぜ酸素吸入器なのか
 原発が誘致されても、立地自治体の高齢化と人口減少傾向は止まらない。
 しかも、原発がいったん立地すると、その関連会社以外に企業も産業もなくなっていく。
 しばしば電源立地地域は、開発が終わると、それまでいた人口は急速に減少し、過疎地になってしまう。<例>福島県・・・・明治時代に盛んに行われた奥只見の水源開発。
 ダムを原発に置き換えても同じ問題が発生するが、原発はいずれ廃炉にしなければならないから、問題はより深刻だ。固定資産税が切れるたびに次々と原発を建設していけば、当面はこの問題を避けられるが、いずれに限界に突き当たり、廃炉過程に入った原発だけが多数残るからだ。この問題を避けるために、新たに設けられる40年廃炉規制を超えて老朽原発を動かそうとする動機が働く。それによって人口衰退のシナリオは先延ばしにされるが、代わって老朽原発を稼働する危険な状況を甘受しなければならない。
 いずれにせよ、廃炉過程に入った原発が残る。すると、原発からの収入も雇用もなくなる。その時、本当に人の住まない地域になる。
 いったん原発に染めた立地自治体は、できるだけ将来世代にツケを先送りにする。すると、ますます引き返せなくなっていく(悪循環)。立地自治体は、未来への展望を持てない。

(4)可視化された事故被害
 政府と「異質な空間」との取引によって成り立つ原発立地の仕組みは、福島第一原発事故によって明らかに限界が見えてきた。政府は、原発問題を「異質な空間」に閉じ込めることができなくなったのだ。
 福島県の県外への避難者は6万人を超え、県内外の避難者は16万人に及ぶ。にも拘わらず、政府が行ってきたのは安全基準の緩和だ。
 他方、政府は放射能被害に対して真剣に取り組んでいない。現段階では効果の薄い高圧洗浄や草むしりなどの手抜き除染しかせず、自然減衰に任せている。それは広範囲に及ぶ。除染事業汚染状況重点調査地域に指定された岩手、宮城、福島3県の53市町村は2011年度中に除染実施計画を提出したが、政府はほとんど承認していない。政府の不作為の背後にあるのは、東電の救済であり、財政負担の削減だ。
 (2)-(a)の交付も(2)-(b)の収入もない周辺自治体に放射能被害だけがもたらされ、しかもその対策が放置されている。
 かくて、多くの人々は、いったん原発に苛酷事故が起きた場合に何が起こるか、分かってしまったのだ。3・11の原発事故は、政府と「異質な空間」との取引関係だけで原発を建設したり運転することの正当性を失わせた。少なくとも、嘉田由紀子・滋賀県知事のいわゆる「被災地元」が、自ら原発再稼働に関わる権利を主張するのは当然だ。その正当性を裏づけるのは、原発再稼働を求める立地自治体の首長が利害関係者であることだ。<例>おおい町長も玄海町長もその長男が原発関連会社を経営している。
 彼らが「被災地元」を無視する発言をオウムのように繰り返しても、説得力はない。

(5)問題解決の糸口はどにこ
 解決策は3つあるが、いずれせによ脱原発の道のりはそう簡単なことではない。原発から生じる利益に群がる関係者は、経済界の中心にまだ君臨する電力会社、原子炉メーカー、建設会社など、巨大だ。彼らは「国民の生活」の安全や不安を無視しても「自らの生活」を守ろうと動く。その一番の根っこのところに「異質な空間」としての立地自治体が存在しているのだ。

 以上、金子勝(慶應義塾大学経済学部教授)「「異質な空間」の経済学 ~立地自治体から見た原発問題~」(「世界」2012年8月号)に拠る。
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【原発】福島県民はなぜ刑事告訴告発をしたか ~告訴団長は語る~

2012年07月10日 | 震災・原発事故
(1)福島 原発告訴団(武藤類子・団長)は、6月11日、福島地方検察庁に「福島原発事故の責任を問う」告訴を行った。告訴団員は、福島県民1,324人【注1】。

(2)被告訴・被告発人は、33人。
 東電・・・・15人。勝俣恒久・東京電力取締役会長(職名は6月11日現在、以下同じ)らのほか、吉田昌郎・東電元原子力設備管理部長/福島第一原発前所長も入っている。
 原子力安全委員会・・・・6人。斑目春樹・委員長ら委員全員のほか、鈴木篤之・前委員長も入っている。
 原子力委員会・・・・近藤駿介・委員長。
 原子力安全・保安院・・・・3人。寺坂信昭・前院長のほか、松永和夫・前経産事務次官は元院長の肩書きで告訴・告発されている。広瀬研吉・元院長も。
 文部科学省・・・・4人。栃東久美子・前生涯学習局長、山中伸一・前初等中等教育局長、会田隆史・前科学技術政策局長、布村幸彦・前スポーツ・青少年局長。
 学界・・・・4人。衣笠善博・東工大名誉教授と、福島県放射線健康リスク管理アドバイザーが、山下俊一・福島県立医科大学副学長以下、全員が告訴・告発されている。

(3)(2)の選定基準は、今回の事故に係る直接的責任を有する人だ。責任とは、地震や津波への安全対策を怠ってきた過失、事故発生後に被曝を拡大させた過失だ。政治家は、別の形で政治的責任を問うべきかと、対象から外された。
 (a)福島第一原発を運転していた東電の関係者。
 (b)(a)を監督していた政府の関係者。
 (c)SPEEDIの隠蔽、放射線基準緩和によって被曝を拡大させた文科省の官僚。
 (d)事故直後から放射線の危険性を軽視する発言を繰り返すことで、子どもたちを始め、被曝を拡大させた山下俊一ら福島県放射線健康リスク管理アドバイザー。

(4)放射能被害を受けている人々の生活は、困難を極める。毎日毎日、否応なく迫られる決断。逃げる、逃げない。食べる、食べない。子どもにマスクをさせる、させない。洗濯物を外に干す、干さない。畑を耕す、耕さない。なにかに物申す、黙る。・・・・毎日が苦渋の選択だ。こうした生活に追い詰められ、疲れ果ててしまった人も少なくない。
 被災者が被曝しながら除染作業を行わざるをえない不条理、家が、学校が、職場がそこにあるのに戻れない不条理。
 除染作業をしながら、こんなことをして何になるのだろう、とつぶやき、一時帰宅した自宅で自決した浪江町住民。
 告訴だけでなく、刑事告発も同時に行ったのは、憤りも悲しみも口に出して訴えることのできなくなった人たちの被害についても、その責任を問わなければならない、と告訴団は考えたからだ。

(5)武藤団長は、(2)の者に刑事責任があることは明らかだ、と言い、「人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律(公害犯罪処罰法)」第3条を援用する。
 武藤団長が刑事責任を問いたい気持ちに、満腔の共感を寄せる。ただ刑事責任を問いたいのではなく、彼らが何の反省もない現在の立ち居振る舞い(原発再稼働がその象徴)を問題にしている、という点にも同感する。
 しかし、法3条の「人の健康を害する物質」に放射性物質/放射能が含まれるか、武藤団長以下、告訴団の団員たちには気の毒だが、疑問の余地がある【注2】。
 弁護士が有能であることを願うばかりだ。

 【注1】「原発】福島県民、東京電力を集団告訴 ~勝俣東電会長の逃げ切りを阻止~
 【注2】「【震災】原発>古賀茂明の、放射性物質漏洩の罰則はない

 以上、武藤類子/聞き手・まとめ:熊谷伸一郎(本誌編集部)「原発事故を引き起こした人たちへ ~なぜ告訴告発をしなければならなかったのか~」(「世界」2012年8月号)に拠る。
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【社会保障】現実からズレている社会保障制度 ~「一体改革」の問題点~

2012年07月09日 | 医療・保健・福祉・介護
(1)現実からズレている制度
 もともと社会保障は予防主義だ。強制力によって社会を新自由主義的に鎮圧するのではなく、国民の生活を国家が責任をもって保障することにより、秩序の乱れを予防することを目的として社会政策は主張される。
 財政赤字は社会に危機があるから生じる。財政赤字を克服すれば社会の危機が克服されるわけではない。小泉政権時代、医療や介護をどんどん縮小したら、地方がガタガタになってしまった。格差が拡大し、貧困が増大し、危機がいっそう進行した。「失われた20年」になってしまった。
 不良債権処理をきちんとやらず、銀行が大量に不良債権を抱えているのに、量的金融緩和ばかりやっても信用が拡大するわけがない。そのうち格差と貧困が広がり、デフレの最大の原因になった。ものが買えず、雇用がないのだから。おまけに、家族解体、寝たきりや認知症の独居老人、母子世帯など、貧困も多様化している。お金をもらっても問題は解決しない。
 にも拘わらず、通貨を増やせばデフレは解消する、という主張がいつまでも唱えられる。貨幣数量式しか念頭にないのだろう。論理の単純化が極端に進み、格差や貧困の広がりという現実を見ていない。1970年代末に倦まれた新自由主義のイデオロギーが染みついて、論証不能な命題を繰り返している。そして、次のバブルの到来をひたすら待つ。それが格差を拡大させ、再分配を担う財政がだんだん崩壊していくから、ますます金融緩和に頼ることになる。
 1980年代から、完全に緊縮財政になっている。不況になると金融緩和だ。財政による景気回復でなく金融による景気回復は、格差を発生させ、拡大する。日本は「格差社会」だ、と1990年代には声高に叫ばれるようになった。
 こうした状況の下、生活保障機能を果たしてきた「日本的経営」が崩れていった。日本的経営の崩壊に対応した制度改革が全く追いついていない。現実と制度が完全にズレている。システム全体が壊れているのに、それに代わる新しいものができていない。
 <例1>教育は、それまで企業内教育が請け負っていたことを社会化しなければならないのに、そういう手当てがない。
 <例2>若年層の転職が当たり前、40代からリストラも当たり前、M&Aで企業も簡単に合併する。ところが、年金保険も医療保険も雇用も全部、一企業で閉じるようにできている。しかも、みな「標準世帯」モデル(サラリーマンの夫、専業主婦の妻、子ども2人)が前提になっている。 
 かくて、個人を守る制度は旧態依然のままポンコツになっていき、企業だけが好き勝手に米国型経営みたいなかたちで変わっていく。

(2)「一体改革」の問題点
 (a)「一体改革」の対象は、①年金の財政赤字(国庫負担分=2分の1)、②長寿医療制度の医療保険、③介護保険が中心だ。これだけで消費増税することに地方自治体から反発があったので、④子育て政策が追加されたにすぎない。

 (b)「一体改革」から漏れているものは、貧困問題/生活保護と障がい者福祉だ。
  ①貧困問題/生活保護
   (ア)高齢単身者・・・・かつて日本の貧困は「女性の貧困」)だった。60歳前後の女性単身世帯のほぼ4割が離婚者で、社会保障の権利がない場合が多い。男性が稼ぎ、稼ぎ主が社会保険に加入することが前提となっていたからだ。ところが、今では「男性の貧困」になった。婚姻経験のない単身者が増えてきて、60歳前後の男性単身世帯のほぼ5割だ。かかる男性は、女性を養える職業に就いてこなかった人が多い。加えて、その予備軍が30代に大量にいる。こうした状態で現状の年金制度や社会保障をそのまま続けたら、大量の生活保護受給者が生まれるのは確実だ。
   (イ)子ども・・・・離婚が増えたため、子どもの貧困が顕著に増大した。子ども時代から貧困の環境に措かれると、将来に対して希望や意思を持てなくなる。学力形成もできない。絶望しかない。その中で唯一の希望は「破壊すること」。
  ②障がい者福祉
   歳をとれば誰も障がい者になる(スウェーデンの考え方)。

 (c)日本の社会保障の特徴は、国際比較すると、
  ①欧州大陸諸国と比べて日本の社会的支出は非常に小さい。米国同様の「小さい政府」だ。
  ②年金=高齢者現金と疾病保険=医療保険=保険医療の2つの割合が日本では大きくて現物給付が北欧諸国に比べて立ち遅れている。欧州は、それ以外にも社会的支出が割かれている。
    (ア)「家族現金」=児童手当ないし子ども手当
    (イ)「高齢者現物」=介護サービスを含む高齢者福祉サービス
    (ウ)「家族現物」=育児サービス

 (d)年金制度そのものも完全に崩壊している。「一体改革」は神野直彦のいわゆる知識社会への移行に全く即していない。
  ①「標準世帯」モデルが現実とズレている。家族の解体(上の高齢世代と下の若年世代で単身化現象)は1980年代から始まっている。
  ②少子高齢化の急速な進行は1980年代から分かっていたのに、パッチワークでやりくりするだけだった。
  ③社会保障制度は、次の3つの変化によってニーズが大きく変化し、それまでの制度では対応できなくなり、制度が壊れてしまう。
   (ア)人口構成の変化
   (イ)家族形態の変化・・・・独居老人や母子世帯の増加。
   (ウ)雇用形態の変化・・・・国民年金の構成者だった自営業者と農業者が規制緩和のせいでどんどん潰れ、他方では非正規雇用の加入がじわじわ増えていった。現行の国民年金制度は納付率8割を前提としてできているが、今や未納率が4割だ。

 (e)国民健康保険制度にも、(d)と同様の問題がある。

 制度の分立が弱いところにしわ寄せする傾向が、明確に1990年代半ばから出始めて現在に至っている。放置しておくと、社会的弱者が吹き溜まってしまう。

 以上、金子勝/神野直彦『失われた30年 ~逆転への最後の遺言~』(NHK出版新書、2012)の「第2章 社会保障と財政」に拠る。
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【社会保障】福祉国家はなぜ壊れたか ~新自由主義~

2012年07月08日 | 医療・保健・福祉・介護
 「福祉元年」【注】が宣言された1973年、まさにその年に惹起したオイルショックが福祉後退の合図となった。どのように後退していったかは、さて措く。問題はなぜか、だ。
 事は、「社会保障と税の一体改革」に関わる。

(1)「社会保障と税の一体改革」と不良債権処理の類似性
 15年ほど前、金融危機の際にも、財政赤字が拡大する中、格差社会と少子高齢化の進行により社会保障制度の持続可能性が失われていった。今日、状況はもっと深刻だ。ところが、「高齢世代を現役世代何人で支える、増税するか歳出削減か」という選択肢、こういう問題の立て方1980年代以降、ちっとも変わっていない。
 社会保障制度は、人口構成の変化のほか、家族や雇用のあり方によって大きくニーズが違ってくる。これまでの社会保障制度では救えない人々が次々と生まれている。<例>非正規雇用、認知症の独居老人。
 しかるに、社会保障制度「改革」は、相変わらず標準家庭(夫:サラリーマン、妻:専業主婦、子ども2人)を前提とした架空の「計算」を繰り返している。制度の根本が揺らいでいるのに、単なる数字の辻褄合わせだけが行われ、本質的な問題に切り込んでいない。
 社会が危機にあるから、財政赤字に陥るのだ。財政赤字を削っても、社会の危機が解決するわけではない。だからこそ、「社会保障と税の一体改革」だったはずだ。しかし、当面の財政赤字を埋めるための消費増税が行われようとしている。要するに、ツケの先送りだ。
 問われているのは全体像なのだ。どんな社会と経済システムを選択するか、という本質的な問題だ。

(2)国民が増税案に納得するための根本的ポイント
 (a)地域分散型ネットワーク社会への道筋をきちっと示すこと。つまり、新しい産業構造と経済システムによって、日本が食べていく道筋を示すこと。
 (b)社会保障制度改革の体系的ビジョンを示すこと。つまり、生活の安全・安心をどのように確保していくのか、という将来像を提示すること。

(3)福祉国家
 福祉国家は、再分配国家だ。現金給付と税の組み合わせで再分配する。税は、所得税と法人税を基幹税とする租税制度だ。
 第二次世界大戦後に福祉国家が機能した重要な要件は、プレトン・ウッズ体制の固定為替相場制度だ。固定為替レートを維持するため、資本統制が容認された。資本が逃げないよう統制する権限があったから、財政による所得再分配が可能になった。

(4)福祉国家の崩壊と新自由主義の台頭
 1973年10月、第四次中東戦争が勃発し、これが第一次オイルショックを引き起こし、同時に米国を中心とした世界経済秩序(プレトン・ウッズ体制)が崩壊して変動為替相場制度へ移行した。世界は「相対的不安定期」に入った。
 福祉国家で国家に統制され、国家の壁の中で所得再分配されていた過剰資金は、国家の壁が崩れて以後、国境を超えて動くようになった。
 スタグフレーションは、過剰資金のいたずらによって生じる。新自由主義は、経済成長が落ちていることを福祉国家の所得再分配の失敗だ、と批判し、所得再分配による社会的セイフティー・ネットを外した。
 サッチャーやレーガンの政権下、経済成長率を高めるためには租税負担率は低いほうが望ましい、というイデオロギーが浸透し、「所得から消費へ」「広く薄い負担に」を合い言葉にして、直接税(所得税・法人税)中心主義から間接税(付加価値税)中心主義へとシフトしていく動きが出てきた。
 新自由主義政権は、福祉国家の諸制度を根底から否定した。福祉国家を「参加なき遠い政府による再分配国家」とすれば、新自由主義政権は「参加なき遠い政府」の側面を強めていきながら、「再分配国家」の側面だけを否定した。
 租税負担水準を引き下げるとインフレを抑えられない。そこで減税のための増税をしていかざるえなくなる。所得税・法人税の減税と、付加価値税を中心とする消費課税を増税を組み合わせることで、負担構造を変えていった。努力する者が報いられる社会になる、という論理が形成されていった。
 かくて、所得再分配課税を解体する一種の「小さな政府」が実現していった。同時に格差社会が到来した。
 日本でも、第二次臨調(1981年発足、翌年から第一次中曽根内閣)あたりから、社会保障の給付水準を引き下げ、負担水準を引き上げ、年金も開始年齢を引き上げていった。1986年、第3次中曽根内閣は売上税法の構想を発表し、1988年、竹下内閣は消費税法を成立させた(1989年施行)。

(5)新自由主義の正体
 サッチャー、レーガン、中曽根の新自由主義政権が登場したのは、第二次オイルショックが終わった1978年以降だ。「金融自由化を軸にして、ヒト、モノ、カネがグローバルに動く」というスローガンがこの時代を象徴する。国の景気を良くするため海外から資金を集めるべく、税金の負担を小さくしようとした。
 事実、1980年代あたりから景気循環のかたちが変わってきた。土地や株の値段が上がって景気が良くなる、という景気循環だ。バブルが膨らんで壊れると金融緩和で景気対策し、次のバブルを用意することが繰り返された。土地バブル(1980年代後半)、ITバブル(1990年代末から)、住宅バブル(2008年にはじけた)といった「バブル循環」は、従来の設備投資による8~10年サイクルの景気循環とは全く様変わりした。
 政府は不要、税金は低くする、という新自由主義によって、成長をバックに所得再分配する福祉国家のメカニズムが壊れていった。
 だが、新自由主義政権は、成功していない。英国で生産性は向上したが、生産性の低い企業が切り捨てられていったからにすぎない。サッチャー政権下で倒産件数や質所業率は悪化し、格差が広がり、社会的秩序が乱れて犯罪率が高くなった。その後の景気回復は住宅価格の上昇に支えられたものだ。
 当時のイデオロギーは「自己責任」だった。これが新自由主義の正体だ。
 ケインズ主義が行き詰まりスタグフレーションになる中、米国が柱にしていた石油文明を基盤にした産業構造は飽和し、キャッチアップされてしまった。そこで、金融とITで生きていこうとするグローバル化の論理が出てきた。その彼らがこだわるのは、「ルールをめぐる争い」だ。ルール圏やOSを握ろうとする戦略だ。<例>知的所有権に係るWTOの考え方、金融面ではさまざまな国際会計基準。
 自分たちの基準を国際化していこうとするのが、米国のグローバル戦略だった。
 かかるイデオロギーが、日本の閉塞感の中で強まっていった。大企業の中でマイホーム、貯蓄のある団塊の世代が私生活主義という守りに入った。その層が新自由主義を受け入れた。
 欧米の真似をして必死にキャッチアップしていた官僚は、高度成長が実現してキャッチアップするモデルがなくなった。彼らは、「グローバル・スタンダード」の名のもとに、再び英米に追随していく。再分配国家が壊れた後に新しく社会を統合しようとするシステムについて全くビジョンがないまま。従来の日本的土壌の上に立ったまま。

(6)新自由主義の矛盾
 新自由主義者も、「小さな政府」、財政縮小によって社会統合に亀裂が入るのは分かっていた。だから、サッチャーは家族や地域社会の絆(「ビクトリアの美徳」)を強調し、その絆の相互扶助によって社会崩壊を予防しようとした。人間をホモ・エコノミクスで競争的としながら、他方では利他的な人間像を予定しているのだから、矛盾している。
 これは日本でも同じだ。第二次臨調は、家族・隣人の助け合い、職場の助け合いの復活(「日本型福祉社会論」)を前提としたうえで、公的福祉の切り下げを狙い、社会保障改革を抑制し、地方分権は財政再建のための分権にとどめた。
 そもそも日本の福祉国家の社会保障は、もともとそう充実したものではなかった。家族・地域社会・企業福祉に大きく依存しつつ、政府は現金給付的社会保障をサボっていた。
 だが、産業構造が重化学工業から知識産業に変化するとき、女性も参加するから、家族・地域社会の機能は喪失する。
 「小さな政府」では社会崩壊を食い止められない。市場原理を社会で強めていけば、必ず貧困や格差を生む。共同体的な紐帯は切断され、社会的には犯罪を倦む。だから、家族の復活やナショナリズムなどを復古主義的に強調したり、警察機能や監視を強めないと社会秩序を保てない。新自由主義は、「強い政府」を支持し、夜警国家ではなく、警察国家を志向する。新自由主義の考え方は矛盾をはらんでいるのだ。

 【注】「【読書余滴】雇用崩壊と社会保障ミニ年表

 以上、金子勝/神野直彦『失われた30年 ~逆転への最後の遺言~』(NHK出版新書、2012)の「はじめに」および「第2章 社会保障と財政 ~「一体改革の危機~」に拠る。
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【原発】不良債権処理と原発事故処理の類似点

2012年07月07日 | 震災・原発事故
 15年ほど前に起きた(A)不良債権処理の問題と、今回の(B)原発事故処理の問題と、たくさんの類似点がある。

(1)(A)と(B)のいずれも、規制当局が国民の信頼を完全に喪失した。
 (A)では、1997年11月、「失われた10年」の真っ只中、北海道柘植銀行、山一證券など大手金融機関が破綻し、日本の金融機関は麻痺し、崩壊寸前の状態まで追い込まれていた。バブル崩壊に直面した日本経済は、金融システムのみならず格差や貧困が急速に拡大していった。ずるずると不良債権処理を続ける中、財政赤字が急激に膨張し、それとともに年金、医療、介護、雇用制度など社会的セイフティネットが次々と機能不全に陥った。
 (B)では、原子力安全・保安院も原子力安全委員会もメルトダウンやSPEEDIのデータを隠したこと、原子力の安全神話を作るため「やらせ」説明会を繰り返してきたことが暴露された。
 (B)では、また、電力会社と監督官庁・安全規制機関が「仲間うち」=原子力ムラで、誰一人責任をとらず、自分たちに都合のよいようにコロコロと安全基準を変えている。
 <例1>原発事故が発生したとたん、学校の校庭の被曝許容基準を事故前の年間1mSvから急に20mSvに緩めた。
 <例2>放射能の汚染された焼却灰や下水汚泥の埋め立て処理基準を100Bq/kgから8,000Bq/kgに緩和し、現在も除染の対象となる放射線量の基準をコロコロ変えている。

(2)(A)と(B)のいずれの状況も、非常によく似ている。
 (A)では、経営者と監督官庁が「仲間うち」でかばい合って誰も責任をとらず、不良債権の債権査定をごまかし続けていた。ために、皆疑心暗鬼に陥った。それが金融危機を一層深刻にした。
 (B)では、原発が不良債権そのものと化した【注】。
   ①使用済み核燃料の最終処分の先が決まらず、危険な放射性廃棄物を出し続けている。
   ②安全性が担保できず、危険で動かせない原発は、収益を生まない。その一方、多額の借入金返済と維持管理費用だけが襲ってくる。<典型例>マークⅠ型の格納容器を持つ原発、活断層の上にある原発、三連動地震の恐れのある浜岡原発、老朽原発など。
   ③危ない原発は「損切り」しなければならないが、そうすると、不良債権原発に依存する電力会社の経営は、たちまち行き詰まる。
   ④ゆえに、電力会社はツケを先送りにし、利益優先・安全無視で原発再稼働を急ぐ。
   ⑤当然ながら、これがまた、人々の不安を増幅させる。

(3)東京電力に対する公的資金注入は、何時か来た道、かつての不良債権処理の失敗例そのものだ。
   ①東電は、事実上債務超過に陥っている。原子力損害賠償支援機構から2兆5,000億円(事実上の「公的資金」)、「総合特別事業計画」に盛り込まれた公的資金が1兆円、計3兆5,000億円。
   ②今後、巨額の支払いが待ち受ける。賠償費用の残り2.5兆円(2012年5月現在)+α、事故処理費用1兆2,000億円+α。
   ③②には除染費用が加わるが、いまだに東電は一切数字を出していない。
   ④「総合特別事業計画」は、電気料金値上げと柏崎刈羽原発再稼働で賄おうとしているが、国民の反発は必至だ。そもそも、それで今後増加していく事故処理費用や賠償費用を賄えない。
   ⑤銀行は、当面の貸し手責任を問われるのを恐れ、追い貸しを続けている。このまま追い貸しを続けると、引き返せなくなる可能性がある。かつての不良債権処理と同じ構図だ。
   ⑥かつての不良債権処理と異なる点は、賠償費用や除染費用の支払いがままならないので、福島県民ら原発事故被災者が犠牲になっていくしかない、という現実だ。      
   ⑦不良債権処理の失敗を踏まえれば、発電会社と送・配電会社の分離、解体・売却が不可避だ。
   ⑧⑦の売却でも不足する資金は、原子力予算をバッサリ削って組み替え、捻出する以外、解決の道はない。
   ⑨しかし、政官財界が腐っているため、本格的な不良債権処理策をとれない。15年前と同じように。そして腐敗は、学界、メディアにも及んでいる。

 【注】「【原発】不良資産になってしまった原発 ~電気料金値上げの真の理由~
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【消費税】増税がなくても今年増える家計の負担20万円以上

2012年07月06日 | 社会
 4人世帯(会社員の夫、専業主婦の妻、中学生と小学生の子ども)、年収500万円がモデル世帯。

(1)子ども手当
 1人当たり13,000円が10,000円に減額。
  ⇒ 年間72,000円の負担増。

(2)扶養控除
 子ども2人の扶養控除が今年から無くなる。
  ⇒ 所得税が年間39,700円、住民税が年間66,000円、合計105,700円の実質増税。

(3)厚生年金保険料
 2017年まで毎年0.354%(本人負担は0.177%)ずつ引き上げられることが決まっている。
  ⇒ 世帯で、毎年8,000~10,000円ずつ負担増となる。

(4)健康保険料
 ここ3年間は立て続けに値上げしているし、2013年4月に再び値上げされる【注1】。

(5)電気料金
 東京電力の電気料金値上げが予定されている。
 東電は平均10.28%の値上げを申請していた【注2】。しかし、経済産業省電気料金審査専門委員会の審査の過程で、電力会社が企業向け料金を抑え気味にして、家庭向け料金で稼いでいることが明らかになった【注3】。 上げ幅は8~9%台になる見込みだが、消費者庁の点検チームや内閣府の消費者委員会は、過去に公的資金を受けた企業などは年収の30%を削減した(東電の削減は20%強)として、さらなる削減を求めている。再び動く見込みのない福島県内の原発維持費などの削減も【注4】。

(6)負担増のまとめ
 (a)(1)~(5)まで、1年間で、軽く見て20万円を超える。
 (b)給料は、ここ10年で50万円ほど減っている。いわば、年間5万円の負担増と見ることもできる【注5】。
 (c)消費増税が行われると、年収500万円の場合、年間16万円の負担増になる【注6】。
 (d)消費増税は今年はまだ行われないが、仮にこれらを合計してみると、(a)+(b)+(c)=51万円以上となる。

 【注1】「【社会保障】実質増税を説明しない政府 ~健保「総報酬割の導入」~
 【注2】記事「原発費の料金転嫁、焦点に 東電の電気料金値上げ審査」(朝日新聞デジタル記事2012年6月23日03時00分)
 【注3】記事「大半が家庭から…電力利益「偏り是正を」 審査委方針」(朝日新聞デジタル記事2012年7月4日03時00分)
 【注4】記事「東電の家庭用値上げ9月以降 上げ幅8~9%台で認可へ
 【注5】1年を通じて勤務した民間給与所得者の平均年収は、1997年(ピーク)から2007年(ボトム)まで61万円減少した。【「【社会】異常な日本の賃金減少 ~公共サービスの雇用の非正規化~」】
 【注6】世帯年収ごとの負担増は、300万円で10.7万円、500万円で16.76万円、800万円で25.0万円、1,000万円で29.02万円、1,500万円で41.55万円、2,000万円で52.12万円だ。【記事「増税、家計はどうなる?〈教えて!消費税〉」(朝日新聞デジタル記事2012年6月8日03時00分)】 

 以上、萩原博子「家計にとっての「負担増」が目白押し 夏のボーナスは「貯金」するしかない ~幸せな老後への一歩 第292回~」(「サンデー毎日」2012年7月15日号)に拠る。
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【原発】不良資産になってしまった原発 ~電気料金値上げの真の理由~

2012年07月05日 | 震災・原発事故
(1)原発という不良資産
 (a)東電を除く電力9社の連結決算(2011年4~12月)は、7社で純損益が赤字となった。
  各社の財務状況を見ると、原発を持たない沖縄電力が、減益とはいえ黒字を出している。電源開発も同じだ【注1】。

 (b)燃料費値上げの影響が、ないわけではない。しかし、家庭向け電力に関しては、「(燃料費)調整額」という名目で、経産省令によってほぼ自動的に料金が引き上げられてきた。昨年も複数回引き上げられ、上昇した燃料費の少なくとも半分は吸収されている。燃料費値上げで問題になるのは、電力が「自由化」されている企業など大口利用者向け分だけだ。

 (c)重要なのは、原発が早く停止した電力会社ほど赤字傾向にある、という事実だ。
  安全性が担保できない原発は不良債権(不良資産)だ。これが問題の本質だ【注2】。
  原発は、1基につき3,000~5,000億円の建設費がかかる。何基も建てると兆単位の借金を負う。しかも、原発は普通の機械と違ってメインテナンスに莫大な費用がかかる。停止した原発は、借金がかさむだけの不良資産と化してしまうのだ。

 (d)(c)の本質的問題を隠すために、原発擁護派は根拠の曖昧なキャンペーンをいくつも繰り広げて、原発の再稼働を急いできた。例えば「原発が動かないと停電になる」と脅した。では一体何基の原発が必要なのか、と訊いても根拠となる数字は一切示さない。
  夏に原発が動かないで電力が足りると、原発がなくてもよいことが明らかになり、すべて不良債権になってしまう。だから、電力会社は夏までに原発を再稼働しようと焦ったのだ。

 (e)電力会社が焦る余り、
   ①電力会社自らがストレステストを実施。
   ②電力会社の仲間うちの、福島第一原発事故で信頼が地に堕ちた原子力安全・保安院と原子力委員会がそれをチェック。
   ③事故前の古い安全基準で再稼働。
  ・・・・といったことをやっているから、原発の安全性、信頼性はますます疑われてしまう。電力会社は、危機管理の原則がまったく分かっていない。

 (f)ここまで原発再稼働を急ぐ背景には、民間の電力会社が原発を運営する場合、減価償却が終わった原発ほどもうかる、という構造的な問題も隠されている。老朽原発ほど運転コストしか負担せずにすむから、すべてを再稼働したくなるのだ。

(2)再処理施設
 原発という不良債権の根は深い。
 六ヶ所村再処理施設は、当初7,600億円だった建設費が、今では2兆2,000億円に膨らんだ。それでもまだ稼働していない。
 総合資源エネルギー調査会電気事業分科会(2003年)において、電気事業連合会はバックエンド費用の試算18兆8,000億円という数字を出した。ところが、いつまでたっても再処理施設が稼働しないために、複雑な会計処理が行われるようになった。
  (a)日本原燃(六ヶ所村の再処理施設を経営)は、1兆円もの銀行借り入れをしている。しかも、電力会社に債務保証をつけさせている(稼働の見込みの立たない再処理施設は担保物件として意味がない)。
  (b)電力会社は、電気料金に上乗せして再処理費用への引当金を積む。この引当金のなかから前受け金として、日本原燃に10年返済で1兆円を貸し付けている(日本原燃は、電力会社の変則的な貸し付けなしには成り立たない存在と化した)。
  (c)(b)に加えて、日本原燃は2011年3月期に4,000億円の増資をし、またもや電力会社がそれを引き受けた。電力会社は自己資金(つまり国民の電気料金)を使って引き受けたのだ。にもかかわらず、国民に対して十分な説明はない。それどころか、日本原燃は、2010年10月期から有価証券報告書の開示をやめてしまった。稼働の見込みの立たない事業がますます不透明になった。
  (d)電力会社の引当金の一部は、15年間かけて原子力環境整備促進・資金管理センターの積立金に移し、電力会社はこの積立金を取り崩して日本原燃に支払っている。ところが、稼働していないにもかかわらず、減価償却や燃料プールの貯蔵などの名目で、すでに1兆6,000億円あまりお積立金が取り崩されて日本原燃に支払われている(機械は動いていないのに減価償却している)。
 稼働のため改めて更新投資すれば、明らかにコストオーバーになる(積み立て不足が生じる)。だからと言って、六ヶ所村の再処理施設が動かなければ、これまでに投じた12兆円もの電気料金が烏有に帰す。
 かくのごとく、六ヶ所村の再処理施設は電力会社と一連託生だ。六ヶ所村再処理施設は、つぶすにつぶせない巨大な不良債権となっている。

 【注1】第3四半期だけをみると、原発依存度の低い中国電力も黒字だ。【金子勝/神野直彦『失われた30年 ~逆転への最後の遺言~』(NHK出版新書、2012)】
 【注2】「【原発】継続的な被害調査の必要性 ~岐路に立つ原発「賠償」(2)~
    「【震災】原発>東電にメスを入れる東京都(その2) ~子会社の整理~
    「【震災】原発>賠償・除染の費用を出せなくなる東電 ~債務超過~
    「【震災】原発>なぜ東京で電力は余ったのか? ~原発の不良資産化~

 以上、金子勝「「脱原発」が国民負担を増す大いなるジレンマ」(週刊朝日臨時増刊「朝日ジャーナル」」2012年3月20日号)に拠る。
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【原発】傾斜が見つかった福島第一原発4号機 ~5、6月~

2012年07月04日 | 震災・原発事故
(1)1号機
 2012年6月27日、福島第一原発1号機の建屋内の圧力抑制室外側で、10.3Sv/hが検出された。
 1号機建屋の地下1階には汚染水が溜まっている。東電が水面の直上の放射線量を測定したところ、この数値が出た。人間が浴びると即死するレベルだ。
 1号機の中心は、もはや人間が立ち入れないレベルまで汚染されている。

(2)4号機
 4号機の外壁に、これまで発見されなかった大きな傾きが生じていたことが分かった。
 5月、東電による4号機外壁調査の結果、原子炉建屋の西側に、水素爆発の影響で生じた傾きが確認された。
 6月、東電が改めて詳細な調査を行った結果、前月の調査よりもさらに広い範囲で傾きが確認された。
 東電は、この傾きは建築基準法の定める制限値を下回り、耐震性に問題はない、と報告した。
 だが、(a)原子炉建屋は、建築基準法の規定を適用するだけで終えて済むのか。(b)そもそも4号機の地盤が不安定になっている(専門家の指摘)。
 東電は4号機の耐震工事を行ったので震度6強まで耐えられる、としている。しかし、先の原発事故で4号機がどこまで壊れたのか、正確には分かっていない。日々新しい損傷が発見されているような有様だ。「耐えられる」などと言えるわけがない。【桜井淳・技術評論家/日本原子力研究所出身】
 仮に建屋が地震で倒壊しなくとも、別の問題がある。地震による冷却システムのパイプ損傷だ。4号機の貯蔵プールには、使用前・使用後のものを合わせて1,500体の核燃料が保存されている。水を循環させていることでこれらを冷却しているが、水を循環させるパイプは仮設のもので、どの程度揺れに耐えられるのか、東電はもちろん、誰にも分からないのだ。
 万一、このパイプが壊れたら、冷却が止まり、核燃料が剥き出しになる。だが、これを修理するための人材確保や指揮系統確立を東電はまったく行っていない。
 万一、このパイプが壊れて冷却が止まったら、いかなる惨劇が起こるか。 
 剥き出しになった核燃料の温度が上がり、崩壊熱によって放射性物質を格納している容器が燃え出す【注1】。すると、昨年の事故の10倍の放射性物質が放出される【注2】。放射能に汚染される地域は、昨年の事故で汚染された地域の10倍になる。首都圏3,000万人に影響が及ぶ【注3】。【桜井淳】

(3)使用済み核燃料
 4号機をめぐる状況は最悪だが、なぜ危険な核燃料が原発施設内に保管されているのか。
 他に持って行く場所がないからだ。
 政府は、各原発で大量に発生する核燃料は青森県六ヶ所村で再処理し、再利用するという方針を進めている。
 しかし、六ヶ所村ではたび重なる事故・トラブルのため、再処理実験が完全にストップしている。6月18日から再処理実験が再開したが、基本的な技術面で問題が指摘され、今後うまくいく見通しは暗い。【宮永祟史・弘前大学大学院教授】
 核燃料サイクル計画は破綻している。六ヶ所村再処理工場は、ただの使用済み核燃料貯蔵地に化している。そして、六ヶ所村も、保管可能容量の97%が埋まってしまった。これ以上、使用済み核燃料を受け入れられない。ために、使用済み核燃料は核原発施設内の貯蔵プールに保管しておくほかはない状態なのだ。
 今や、多くの原発施設で貯蔵プールの容量が満杯に近づいている。大飯原発69%、伊方原発63%、玄海原発78%、柏崎刈羽原発79%だ【2011年9月現在、内閣府の資料】。
 六ヶ所村が保管する核燃料、国内最大の2,860トンのうち、わずか1%(30トン)が再燃焼し、放出されただけで、北海道から首都圏まで、急性障害を引き起こすほどの放射性物質が撒き散らされる。
 少なくともダメージが深刻な4号機の使用済み核燃料は、今すぐ何処か別の場所に移さなければならない。それをやらないまま原発を再稼働することは、国を殺めることになりかねない。【北澤宏一・福島原発事故独立検証委員会委員長】

 民主党野田政権は、日本を殺しかねない大飯原発再稼働を決めた。

 【注1】燃料の間隔は30cm以上空いているし、空焚きになって水がなくなるし、ホウ素はあるので爆発はしない。【「福島4号機を考える1 爆発までの時間(1)核爆発」、武田武彦(中部大学)】
 【注2】「【原発】4号機が「爆発する危険」の可能性
 【注3】「【震災】原発>250km圏内は避難対象 ~機密文書「近藤メモ」~


 以上、記事「福島第一原発4号機が再び傾きだした 大飯原発再稼働 使用済み核燃料が燃え始める」(「週刊現代」2012年7月14日号)に拠る。
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【消費税】「増税は社会保障のため」は真っ赤な嘘 ~財務省の完勝~

2012年07月03日 | 社会
 6月25日、ついに消費増税法案が衆議院を通過した直後の記者会見で、野田佳彦・総理は、今回の増税の目的が、
 「社会保障を持続可能なものにする」
 「すべて社会保障に還元される」
と述べた。しかし、これは真っ赤な嘘だ。その理由は、

 (1)おカネには色がついていない。だから、増税分は社会保障にしか使わない、という議論は空虚だ。増税で楽になった分、他のバラマキが増える可能性が高い【注1】。

 (2)法案に書いてある。
  (a)消費増税法案には次のような趣旨の「景気条項」が入っている。
    ①2011年度から10年間の平均経済成長率を名目3%、実質2%程度を目指して必要な措置を講じる。
    ②経済状況を増税間に点検し、必要なら増税を停止する。
   民主党は、「ただでさえ景気が悪いのに増税でもっと景気が悪くなる」という批判に対して、②を引用し、「本当に経済状況が悪ければ執行停止できるようにした」と説明してきた。しかし、②はそれのみではなく、①の「成長のために必要な措置を講じる」との関連も重要だ。
   「成長のために必要なことをやる」の解釈はいろいろだが、成長のためと称するバラマキが予定されているのではないか、と指摘されていた。3党修正協議で自民党と公明党の要求を民主党が呑み、追加した条項は、その懸念が当たっていたことを明らかにした。追加条項の趣旨は次のようなものだ。
    ③税制の抜本的改革で財政に多少ゆとりができるので、成長戦略や「防災、減災」などの分野に資金を重点的に配分する。
   要するに、消費増税で楽になった分を「社会保障」ではなく、「防災、減災」という名の公共事業バラマキ予算に振り向ける、ということだ。「コンクリートから人へ」は、マニフェストが実現される前に、早くも「コンクリートからコンクリートへ」に化けてしまった。

  (b)自民党は、「国土強靱化基本法案」を国会に提出している。そのバラマキ規模は、驚くべし、10年間で200兆円だ。その理屈として出しているのが「防災」だ。(a)-③と揆を一にする。大震災を理由にした悪のりだ。自民党長老が民主党にすり寄ってバラマキ利権のおこぼれにあずかろうと必死なのが、ひしひしと伝わってくる【注2】。

  (c)財務省は、(b)の動きを見越し、自民党は絶対に賛成に回る、と読んでいた。と言うより、そうなるように誘導していた。
   ・・・・ということを財務省の幹部があちこちで話したことに、谷垣禎一・自民党総裁が怒った【注3】。消費増税は、もともと自民党が主張していたのだ【注4】。谷垣総裁、図星を指されては身の置きどころがない。
   自民党がいかに必死であるかは、「歳入庁創設」に係る修正に歴然としている。「歳入庁創設のために本格的な作業を行う」という趣旨の文言を削除し、歳入庁創設を事実上棚上げにする修正を行った【注5】。財務省の歓心を買ったのだ。
   かくて、消費増税法案をめぐる衆院の闘いは、財務省の完勝に終わった。

 【注1】「増税は社会保障のため」という説明はトリック、あえて品のない言い方をすればペテンだ。増税分の使途の限定化や目的税化は、可能なことは可能だ。例えば、このたび新たに需要ができた復興に係る支出だ。ところが、社会保障3経費は、すでに存在し、しかも消費税以外の財源によって手当されている経費だから、ペテンになるのだ。【「【経済】「消費増税は社会保障に充てる」という説明のトリック」】
 【注2】「大角連合」が復活しつつある。【「【政治】小沢一郎、妻からの「離縁状」の波紋 ~古い自民党の復活~」】
 【注3】記事「谷垣氏「財務省、私をなめるな」 消費増税賛成へ秋波で」【朝日新聞デジタル記事2012年6月10日03時00分】
 【注4】「【政治】野田佳彦・ザ・財務省の傀儡、民主党の来るべき凋落 ~歴史はくり返す~
 【注5】財務省は、「歳入庁創設」に最も強く抵抗していた。国税庁を切り離されては、最大の権力の源泉を失うからだ。

 以上、古賀茂明「「増税は社会保障のため」は真っ赤な嘘 ~官々愕々第25回~」(「週刊現代」2012年7月14日号)に拠る。
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【消費税】増税すると得する大企業 ~輸出還付金~

2012年07月02日 | 社会
 消費税が上がると、利益が膨らむ企業もあるのだ。事実は小説よりも奇なり。

(1)「輸出戻し税」
 輸出に係る消費税はゼロで、輸出で稼ぐ大手企業に得な制度だ。

 <事例1>売上高1,000億円、仕入額800億円の企業
    売上高×5%-仕入額×5%=納税額
    1,000億円×5%-800億円×5%=50億円-40億円=10億円

 <事例1-2><事例1>の企業の海外売上高比率が50%の場合、計算式は次のように変わる。
    (国内売上高×5%+海外売上高×0%)-仕入額×5%=25億円-40億円=▲15億円
     ⇒15億円は「輸出還付金」として企業に還付される。

 大企業上位10社の還付金は、合計8,698億円【注】にのぼる。【湖東京至・税理士/元静岡大学教授】
 消費税が上がれば、輸出還付金も増える。税率8%なら24億円、10%なら30億円になる。
 経団連が消費増税に前向きなのは、輸出還付金の増加が見込めるからだ。

 ●問題点・・・・大企業は本当に下請け企業に消費税分を払っているか。1997年に消費税率が3%から5%に上がった時、大手業者との力関係のため増税分を転嫁できなかった中小企業(売上高5,000万円以下)が6割もあった(日本商工会議所の調査)。転嫁できなければ、還付金は大企業向けの輸出補助金でしかない。

 【注】2010年度有価証券報告書に基づく湖東税理士の推計。ただし、キャノンは12月決算のため2010年のもの。
   ①2,246億円(トヨタ自動車)
   ②1,116億円(ソニー)
   ③987億円(日産自動車)
   ④753億円(東芝)
   ⑤749億円(キャノン)
   ⑥711億円(本田技研工業)
   ⑦633億円(パナソニック)
   ⑧618億円(マツダ)
   ⑨539億円(三菱自動車)
   ⑩346億円(新日本製鐵)

(2)事業者免税点制度
 中小企業にも有利な制度がある。

  (a)売上高1,000万円以下の事業者 → 免税
  (b)資本金1,000万円未満、かつ、設立2年以内の事業者 → 免税

 免税事業者でも、客から消費税を徴収してよい、という点がミソだ。客から見れば、どの業者が(a)~(b)なのか、わからないからだ。

 <事例2>売上高800万円、仕入額360万円の事業者
    売上高×5%-仕入額×5%=納税額
    800万円×5%-360万円×5%=40-18=22万円
     ⇒差引22万円が国庫に入らず、事業主のポケットに入る(「益税」)。

 ●問題点・・・・(b)を悪用し、零細な子会社の設立と解散を2年ごとに繰り返し、課税逃れを図る業者がいる。

(3)簡易課税制度
 もうひとつ、中小企業に有利な制度がある。
 売上高5,000万円以下の事業者には、業種ごとに50~90%が一律に「みなし仕入れ率」が認められているのだ。
 <例>保険代理店・飲食店は仕入れ率60%、不動産業・理髪店・弁護士などのサービス業は50%。

 <事例3>売上高3,800万円、実仕入額1,400万円の保険代理店
    3,800万円×5%-2,280万円【みなし仕入れ率適用】=80万円・・・・納税額
    3,800万円×5%-1,400万円【みなし仕入れ率不適用】=120円・・・・簡易課税制度を適用しない場合の納税額
     ⇒差引40万円が国庫に入らず、事業者のポケットに入る(「益税」)。

 ●問題点・・・・「みなし仕入れ率」は、ほとんどの業種で実態との乖離が大きく、実際の仕入れより過大に設定されているため、税として客から徴収する分の一部が利益となる。だから、例えばドイツは簡易課税の対象を、日本よりぐんと狭い、年間売上高650万円以下の企業に限定している。政府は、みなし仕入れ率引き下げを検討しているが、業界団体は見直しに抵抗している。
 (2)と(3)とを合わせると5,000億円に達する、と言われている。消費税収0.5%分に相当する巨額だ。【佐藤光一・税理士/元国税専門官】

 以上、谷道健太(ジャーナリスト)「増税でトクする人々 輸出還付金を得られる大企業 「簡易課税」が駅用になる中小事業者」(「サンデー毎日」2012年7月8日号)および本田靖明(編集部)「消費税こんなに不公平」(「AERA」2012年7月2日号)に拠る。
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