漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「矛ム」(やりほこ) と 「戈カ」(おのほこ)「戍ジュ」

2020年06月10日 | 漢字の音符
 国語辞典で「ほこ」と引くと、「矛・戈・鉾」などの漢字のあとに「両刃の剣に長い柄をつけた武器。刺突用。(以下略)」と書いてある。後に個々の「ほこ」の説明があるのだが、この部分だけ読むと、槍のような先の尖った武器を連想する。しかし、おおきく分けると漢字の「ほこ」には2種類ある。ひとつは先がまっすぐな槍のかたち。もうひとつは先が柄と直角についているオノ(斧)の形である。やり形の「ほこ」には矛・鉾ボウ・ムがあり、おの形の「ほこ」には戈がある。
 この違いは当座に理解できても「ほこ」という同じ読み方をすると、いつまでたっても区別しにくい。そこで私は両者を区別するために「やりほこ」と「おのほこ」という言い方を提唱したい。おの(斧)は皆さんご存知だろう。木を伐ったり割ったりする道具である。鉄の刃は柄の先に直角に付いている。「おのほこ」は刃が直角に付いている「ほこ」である。


    やりほこ(矛ム)
 ム・ボウ・ほこ  矛部
銅矛穂先(弥生時代後期)東京国立博物館蔵

解字 金文は穂先をつけた槍のような武器の象形。上の曲線が刃先、途中の半環状のものは、飾り紐をつける耳といわれる部分と思われる。この下に柄がつく。篆文から大きく形が変わり、これを受け継ぎ、隷書レイショ(漢代)が成立、現代字へとつづく。矛は部首となるが、「ほこ」の意で音符ともなる。篆文以降、形が変化したので、「予(われ)+ノ」と覚えると便利。
覚え方 よ()の()ほこる(ほこ)は、盾を突きぬけ矛盾なし 「予+ノ=矛
意味 ほこ(矛)。長い柄の先に両刃の剣をつけた武器。「矛盾ムジュン」(①ほことたて。②つじつまの合わないこと:矛と盾を売る男が、この矛はどんな盾でも突き通す、この盾はどんな矛でも突き通せない、と言って売っていた。ある人が、それでは、その矛でその盾を突いたらどうなるか、と問われて答えられなかった話から)「矛戟ボウゲキ」(ほこの意。戟は二つの刃枝のあるほこ)
参考 矛は部首「ほこへん・むのほこ」となる。この部に属する字は非常に少なく、主な字は部首の矛以外に、矜キョウ・務ム・矞イツ、ぐらいしかない。このうち、務ム・矞イツ、は音符になる。
矛の音符字 ム:矛・務・霧  ボウ:茅

   おのほこ(戈カ)
 カ・ほこ  戈部
 戈 カ ウィキペディア「青銅器」より
左上が穂先、左下が柄尻、右が全体像。
 
刃の付き方はオノ(斧)に似て柄に直角。


解字 甲骨文字は長い柄を持ち、先端に柄と直角に両刃の穂先が取り付けられた武器の象形。穂先の後部が柄の反対側に出ている。柄の先端の右横線は写真にみえる柄頭の冠の一部か。また柄尻は誇張して描いている。金文は柄尻を三本足にした。篆文は柄頭に反転したLがつき、下部は三本足⇒ノに変化、現代字は上の反転L⇒点になった戈。
意味 (1)ほこ(戈)。長い柄の先端に両刃の穂先が横についた武器。「戈甲カコウ」(ほことよろい)「偃戈エンカ」(戈をふせる。戦争をやめる) (2)いくさ。戦争。「戈船カセン」(いくさ船)
は、どう使ったのか?
戦車の上で戈を持つ戦士(篠田耕一著『武器と防具 中国編』の表紙より)
 戈は、江戸時代の消防用具のトビのような形をしている。実際にどう使ったのであろうか。篠田耕一著『武器と防具 中国編』には、「中国の戦車は3人乗りで両側の2人が戈を使った。戈を両手で使い戦車がすれちがうときに敵の戦士に向けて、その刃を打ち込むか引っかけて斬る方法で使用した。戦車がすれちがって闘う場合、矛で直線的に突くより戈のほうが命中の機会が多く、戦車のスピードも利用できるためだった」と書かれている。また、「しかし、漢になって戦車がすたれると、戈は戦車戦にあまりにも適した特性のため、すたれてしまった」という。
 上の絵画は同書の表紙絵で戈を持つ戦士が描かれている。しかし馬車は4頭立であり(通常は2頭)、右の戦士は弓を持っているので、上記の文章と異なり誇張されている。しかし、当時の戦場の雰囲気を感じ取ることができる。
参考 矛は部首「戈ほこづくり・かのほこ」になる。漢字の旁つくり(右辺)について、武器や武器を用いた行動を表す。『新漢語林』では、49字が掲載されている。主な字は以下のとおり。
 戈カ(部首):戍ジュ・戎ジュウ・戌ジュツ・成セイ・我・戒カイ・或イキ・戔セン・戚セキ・戯・戠ショクなど。このうち、戍ジュと戯以外はすべて音符となる。戈の部首字は音符の宝庫である。

イメージ 「ほこ」(戈・戍)
音の変化  カ:戈  ジュ:戍
ほこ
 ジュ・まもる  戈部

解字 「人(ひと)+戈(ほこ)」の会意。人が武器のほこを背負っているかたち。軍隊や兵をあらわす。
注意 「戌ジュツ」とは別の字。
意味 まもる(戍る)。国境や城をまもる。およびその兵。「戍卒ジュソツ」(国境や城砦を守る兵卒)「衛戍エイジュ」(衛も戍もまもる意。軍隊が長く一つの土地に駐屯すること)
<紫色は常用漢字>




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