漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

紛らわしい漢字「朿シ」「刺シ」と「束ソク」「剌ラツ」

2018年01月12日 | 紛らわしい漢字 
  「朿シ」と「束ソク」の違いは、木のあいだに「朿シ」は冂が入り、「束ソク」は口が入っていることである。冂と口の意味の違いが、この両字の違いになる。

        シ <とげ>
 シ・セキ  木部

解字 甲骨文は矢の形が含まれているもの(第一字)があり、武器の一種の象形。先が尖った武器であろう。[甲骨文字辞典]によると、意味は①武人、②軍事攻撃や狩猟、③軍事駐屯地など。金文もほぼ同じ形だが、篆文で木が含まれる形に変化したので、後漢の[説文解字]は、木のトゲと解釈した。武器の意味は、古代文字が「朿(武器の一種)+貝(財貨)」である責セキに含まれるが、音符「朿シ」のイメージは「とげ」で解釈できるので(同音代替をのぞく)、意味も「とげ」であることから、刺(さす・とげ)の原字としてさしつかえないと思う。部首は木部。
意味 とげ。草木のとげ。のぎ(芒)。
覚え方 の中にとげ()がはえた、(とげ)  朿の筆順
 ※冂ケイは、とげの意味はないが、朿では字源からみてトゲ(武器の尖った先)の一部を表している。

イメージ 
 「とげ」
(朿・刺) 
 「同音代替(サク)」(策)
音の変化  シ:朿・刺  サク:策
と げ
 シ・さす・ささる・とげ  刂部
解字 「刂(刀)+朿(とげ)」の会意形声。とげのようにとがった刀。この刀でさすこと。また、トゲの意味で用いられる。
意味 (1)さす(刺す)。つきさす。ささる(刺さる)「刺客シカク」(暗殺をおこなう人)「刺激シゲキ」「刺繍シシュウ」「刺青シセイ・いれずみ」 (2)相手の弱みをつく。そしる。なじる。「風刺フウシ」 (3)とげ(刺)。とがったもの。はり。「有刺鉄線ユウシテッセン」 (4)(刺して)様子をさぐる。「刺探シタン」(漢方で針を刺して病気の所在を探る)「名刺メイシ」(①名前や来訪目的を木竹簡に書いて玄関で渡し面会を探るもの。②姓名・住所・職業などを印刷した紙片)「刺を通ず」(名刺を渡して面会を求める)「刺謁シエツ」(名刺を渡して目上の人に会う)
同音代替
 サク ・むち・ふだ・はかりごと  竹部
解字 「竹(たけ)+朿(サク)」の形声。サクは、A :責(サク・セキ)、B: 冊(サク・サツ)に通じる。
A:「竹+サク(責サク・セキ:せめる)」で、竹で馬を責める。むちの意。また、竹のむちが転じて、つえの意ともなる。
B:「竹+サク(冊サク・サツ:ふだ)」で、竹のふだ、竹簡・文書の意。
意味 
A:(1)むち(策)。むちうつ。「策馬サクバ」(馬をむちうつ) (2)つえ。つえをつく。「散策サンサク」(杖をついて散歩するようにぶらぶら歩く) 
B:(3)ふだ(策)。ふみ。書きつけ。「簡策カンサク」(手紙)「対策タイサク」(相手の策(ふみ)に対応する。転じて、相手や事件の状況に応じてとる方法) (4)はかりごと(策)。「策略サクリャク

        ソク <木をたばねる>
 ソク・たば  木部

解字 甲骨文字から現代字まで、木の枝と根本のあいだに〇や口を描き、(複数の)木を縄などでたばねるさま。甲骨文字では2か所をたばねるものもある。木以外にも、糸や髪などを紐などでたばねる意となる。
意味 (1)たばねる(束ねる)。たば(束)。ひとまとめに括ったもの。「束髪ソクハツ」「束縛ソクバク」「束子たわし」 (2)つなぎとめる。「拘束コウソク」(自由に行動させない) (3)[国]つか(束)。①指4本を握った幅。②短い時間。「束の間」③短い木材。「束柱つかばしら」(床の下などに立てる短い柱)

イメージ 
 「たばねる」
(束)
 束ねるとき「引き締める・つめる」(速・勅)
音の変化  ソク:束・速  チョク:勅
引き締める・つめる
 ソク・はやい・はやめる・はやまる・すみやか  之部
解字 「之(ゆく)+束(引き締める・つめる)」 の会意形声。行く行程で、かかる時間を引き締める(つめる)こと。時間を短くすることから、はやく行く意となる。
意味 (1)はやい(速い)。すみやか(速やか)。「速達ソクタツ」「速断ソクダン」 (2)はやさ「速度ソクド」「速力ソクリョク
[敕] チョク・みことのり  力部
解字 「力(ちから)+束(引き締める)」 の会意。力を込めて引き締めること。旧字は敕で「攵(うつ)+束(引き締める)」 で、打って引き締める意。「勅」は、もと「敕」の俗字として用いられていた。
意味 (1)いましめる。「勅戒チョッカイ」(いましめ) (2)みことのり(勅)。天皇のおおせ。「勅命チョクメイ」「勅語チョクゴ」(3)天皇に関係する物事に添える語。「勅撰チョクセン」「勅使チョクシ

        ラツ <はげしい>
 ラツ  刂部          

解字 「束ソク+刂(刀)」の会意。束はものをしっかり束ねている形。そこに刀が付き、「まとまっていたものが切り離される」「統制がとれない・そむく」意となる。
意味 (1)もとる。たがう。そむく。 (2)勢いよくとびはねるさま。「溌剌ハツラツ
注意 「刺」(さす)と間違いやすいので注意。

イメージ 
 まとまっていたものが「とびちる」(剌・溂・喇)
 飛び散る様子から「はげしい」(辣)
音の変化  ラツ:剌・溂・喇・辣
とびちる
 ラツ  氵部
解字 「氵(水)+剌(とびちる)」の会意形声。水のしぶきがとびちるさま。勢いのよいさま。
意味 勢いのよいさま。「溌溂ハツラツ」(魚が勢いよくはねるさま。生き生きと元気なさま=溌剌)
 ラツ  口部
解字 「口(くち)+剌(とびちる)」の会意形声。口から勢いよく言葉が出ること。
意味 (1)おしゃべり。はやくち。 (2)外国語の音訳字。「喇叭ラッパ
はげしい
 ラツ  辛部
解字 「辛(はり・からい)+剌の略体(はげしい)」の会意形声。辛は針の形で、針が舌をさすような辛さの意。辣は、はげしいからさを表わす。また、物事がきびしい意。
意味 (1)からい。ぴりっとからい。「辣油ラーユ」(からい調味料。ラの発音は現代中国音) (2)きびしい。はげしい。むごい。「辣腕ラツワン」(うできき。すご腕)「辛辣シンラツ」(手厳しい)
覚え方 らばで向かおう、腕家ラツワンカには辛シンラツに (「漢字川柳」を参考)
<紫色は常用漢字>

参考 音符「朿シ」
    音符「束ソク」


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 紛らわしい漢字 「旋セン」... | トップ | 紛らわしい漢字 「矢シ」 ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

紛らわしい漢字 」カテゴリの最新記事