毎日新聞2016年8月19日 19時30分(最終更新 8月19日 20時49分)
【ベルリン中西啓介】ドイツで収蔵されているアイヌ民族の遺骨について、独政府は「連邦政府ではなく国の財団に所有権がある」とし、距離を置く姿勢を示している。遺骨返還が被害の補償要求につながる事例もあるためだ。ただ、専門家は遺骨返還に関する法律がないため、最終的には政府の政治判断が必要と指摘。返還要請には収集状況など詳細な情報の特定が必要で、交渉は長期化する可能性がある。
独国内にある17体の遺骨のうち11体は、国の機関「プロイセン文化財団」(SPK)が所有し、財団に属する政府系機関が管理する。独政府は返還について「政府の支援で作られた人体資料の取り扱い『指針』に基づいて、SPKが判断する」と取材に回答。SPKは「どのような解決策を目指すかによって、SPKの代表が決定するか財団理事会に諮ることになる」と答えた。理事会は中央政府と州政府の代表で構成される。
この取り扱い指針の策定に携わった弁護士のクラウディア・フォンゼレさんは「アイヌの遺骨返還は財団が単独で判断できる問題ではない」と指摘する。サハリンで収集された遺骨については、ロシアとの外交問題になる可能性があるなど、国の省庁間で異なる利害を調整する必要があるとみられるためだ。
ドイツでは近年、旧植民地の独領南西アフリカ(現・ナミビア)で、20世紀初頭に殺害された先住民の遺骨の存在が問題化した。当時は指針がなく、独政府は政治判断で返還を支持。所蔵する大学は2011年に遺骨を返還した。だが、返還でナミビアによる補償要求が強まり、現在も両国間の懸案になっている。
フォンゼレさんは「返還が不当行為の裏付けとされ、補償を求める声が強まった。独政府は用心深くなり、単純な返還はあり得ない」と説明する。骨など先住民の人体資料の返還は主に21世紀になってから国際問題化した。返還の法的枠組みがなく、国際的な交渉事例が少ないことも交渉長期化の要因になっている。
17体の遺骨のうち残る6体は民間団体が保管する。返還要請には国所有の遺骨同様、身元や収集状況の特定が前提だ。フォンゼレさんは日独の専門家による共同調査を先行させ、必要な情報の収集に当たることも有効と指摘している。
http://mainichi.jp/articles/20160820/k00/00m/030/025000c
【ベルリン中西啓介】ドイツで収蔵されているアイヌ民族の遺骨について、独政府は「連邦政府ではなく国の財団に所有権がある」とし、距離を置く姿勢を示している。遺骨返還が被害の補償要求につながる事例もあるためだ。ただ、専門家は遺骨返還に関する法律がないため、最終的には政府の政治判断が必要と指摘。返還要請には収集状況など詳細な情報の特定が必要で、交渉は長期化する可能性がある。
独国内にある17体の遺骨のうち11体は、国の機関「プロイセン文化財団」(SPK)が所有し、財団に属する政府系機関が管理する。独政府は返還について「政府の支援で作られた人体資料の取り扱い『指針』に基づいて、SPKが判断する」と取材に回答。SPKは「どのような解決策を目指すかによって、SPKの代表が決定するか財団理事会に諮ることになる」と答えた。理事会は中央政府と州政府の代表で構成される。
この取り扱い指針の策定に携わった弁護士のクラウディア・フォンゼレさんは「アイヌの遺骨返還は財団が単独で判断できる問題ではない」と指摘する。サハリンで収集された遺骨については、ロシアとの外交問題になる可能性があるなど、国の省庁間で異なる利害を調整する必要があるとみられるためだ。
ドイツでは近年、旧植民地の独領南西アフリカ(現・ナミビア)で、20世紀初頭に殺害された先住民の遺骨の存在が問題化した。当時は指針がなく、独政府は政治判断で返還を支持。所蔵する大学は2011年に遺骨を返還した。だが、返還でナミビアによる補償要求が強まり、現在も両国間の懸案になっている。
フォンゼレさんは「返還が不当行為の裏付けとされ、補償を求める声が強まった。独政府は用心深くなり、単純な返還はあり得ない」と説明する。骨など先住民の人体資料の返還は主に21世紀になってから国際問題化した。返還の法的枠組みがなく、国際的な交渉事例が少ないことも交渉長期化の要因になっている。
17体の遺骨のうち残る6体は民間団体が保管する。返還要請には国所有の遺骨同様、身元や収集状況の特定が前提だ。フォンゼレさんは日独の専門家による共同調査を先行させ、必要な情報の収集に当たることも有効と指摘している。
http://mainichi.jp/articles/20160820/k00/00m/030/025000c