Web東奥 2017年4月23日(日)
1855(安政2)年に風間浦村易国間出身の能登伊助が奉納した絵馬=風間浦村易国間の大石神社
青森県風間浦村易国間の大石神社には、和人とアイヌ民族が地引き網漁を行う様子を描いた古い絵馬がある。どこの風景を描いたものか分かっていなかったが、北海道博物館(札幌市)の学芸員・山田伸一さん(48)が、絵馬は樺太南部の西海岸・エンルモコマフ(現ホルムスク)を描いた可能性が高い-とする調査結果をまとめ、同博物館研究紀要に発表した。絵馬は、村教委が5月に村指定文化財に指定する予定。
絵馬は1855(安政2)年、易国間出身で蝦夷地域で漁場を監督する「惣番人」や戸長を務めたとされる能登伊助(のといすけ)が奉納した。作者は、幕末期に松前を中心に活動した絵師・早坂文嶺(はやさかぶんれい)。漁の様子のほか、山や川、神社、アイヌの伝統家屋「チセ」など集落の様子が丁寧に描かれている。
同博物館の前身・北海道開拓記念館の学芸員、林昇太郎さんが書籍の中で絵馬を取り上げ、「どこを描いたか」や「何を捕っているのか」を調べていたが、解明できぬまま、林さんは2006年に49歳で亡くなった。
「林さんが残した宿題をずっと気にしていた」という山田さんは昨年秋、書籍「大日本古文書 幕末外国関係文書 附録之七」を何げなくめくっている際に、絵馬とよく似た光景を描いた絵を見つけた。絵は、函館奉行に任じられた村垣範正(むらがきのりまさ)が1854(安政元)年に蝦夷地を巡見した際に描いたとされる写生画の一つで「エンルモコマフ」と記されている。
山田さんは「なんか似た絵だな、と思った。結果的に『やっぱり違うよね』となってもいい。念のために白黒はっきりさせようと思った」と語る。そこで、56年(同3)年に樺太を旅した北方探検家・松浦武四郎の「エンルモコマフ図」や「エンルモコマフ眺望の図」と照合した。
絵馬を含めた4枚の絵は、それぞれ細部には相違点があるものの、全体の共通点が多いことから「大石神社の絵馬は樺太のエンルモコマフを描いたものだと考える」と研究紀要(2017年3月発行)に記した。
山田さんは「能登伊助とエンルモコマフの関わりを示す文書を探したが、今のところは見つかっていない。そもそも絵馬に本当の風景を描くものなのか、描かれているものは何を意味するのか…疑問は尽きない。もともと自分の専門は近現代史で、絵馬は専門外の分野なので、今後の研究の進展に期待したい」と話している。
http://www.toonippo.co.jp/news_too/nto2017/20170423024542.asp
1855(安政2)年に風間浦村易国間出身の能登伊助が奉納した絵馬=風間浦村易国間の大石神社
青森県風間浦村易国間の大石神社には、和人とアイヌ民族が地引き網漁を行う様子を描いた古い絵馬がある。どこの風景を描いたものか分かっていなかったが、北海道博物館(札幌市)の学芸員・山田伸一さん(48)が、絵馬は樺太南部の西海岸・エンルモコマフ(現ホルムスク)を描いた可能性が高い-とする調査結果をまとめ、同博物館研究紀要に発表した。絵馬は、村教委が5月に村指定文化財に指定する予定。
絵馬は1855(安政2)年、易国間出身で蝦夷地域で漁場を監督する「惣番人」や戸長を務めたとされる能登伊助(のといすけ)が奉納した。作者は、幕末期に松前を中心に活動した絵師・早坂文嶺(はやさかぶんれい)。漁の様子のほか、山や川、神社、アイヌの伝統家屋「チセ」など集落の様子が丁寧に描かれている。
同博物館の前身・北海道開拓記念館の学芸員、林昇太郎さんが書籍の中で絵馬を取り上げ、「どこを描いたか」や「何を捕っているのか」を調べていたが、解明できぬまま、林さんは2006年に49歳で亡くなった。
「林さんが残した宿題をずっと気にしていた」という山田さんは昨年秋、書籍「大日本古文書 幕末外国関係文書 附録之七」を何げなくめくっている際に、絵馬とよく似た光景を描いた絵を見つけた。絵は、函館奉行に任じられた村垣範正(むらがきのりまさ)が1854(安政元)年に蝦夷地を巡見した際に描いたとされる写生画の一つで「エンルモコマフ」と記されている。
山田さんは「なんか似た絵だな、と思った。結果的に『やっぱり違うよね』となってもいい。念のために白黒はっきりさせようと思った」と語る。そこで、56年(同3)年に樺太を旅した北方探検家・松浦武四郎の「エンルモコマフ図」や「エンルモコマフ眺望の図」と照合した。
絵馬を含めた4枚の絵は、それぞれ細部には相違点があるものの、全体の共通点が多いことから「大石神社の絵馬は樺太のエンルモコマフを描いたものだと考える」と研究紀要(2017年3月発行)に記した。
山田さんは「能登伊助とエンルモコマフの関わりを示す文書を探したが、今のところは見つかっていない。そもそも絵馬に本当の風景を描くものなのか、描かれているものは何を意味するのか…疑問は尽きない。もともと自分の専門は近現代史で、絵馬は専門外の分野なので、今後の研究の進展に期待したい」と話している。
http://www.toonippo.co.jp/news_too/nto2017/20170423024542.asp