毎日新聞2020年7月29日 東京朝刊
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宇梶静江(うかじ・しずえ)さん(87)
「ウタリ(同胞)たちよ、手をつなごう」。新聞の投稿欄を通じて仲間と呼びかけ、やがて半世紀。「分け合って生きる。生きることを楽しむ。追いつめない」。民族の精神性を唱え続ける姿が、医師で東京市長などを務めた後藤新平(1857~1929年)の「共生の理念と通じる」と評された。
過去の為政者が強いた同化政策。その屈辱に耐えかね「勉強して新しい道を」と二十歳で郷里の北海道浦河町を離れ、札幌の私立中学で学んだ。東京に移り、早稲田大学の近くの喫茶店で働き、27歳で建築士の和人(日本人)と結婚。子ども2人を育てながらアイヌとしての自分を詩で表現し、民族の復権運動に身を投じるようになった。
運動を始めた70年代、「自分はアイヌとして生きたいと思っているわけではない」と去っていく同胞がいた。寂しさに覆われ、アイヌの伝統刺しゅうの技法を基にした「古布絵(こふえ)」の創作に打ち込んだ。新たな力がわき、同じ志を持つ首都圏のアイヌらと文化の継承に力を注いだ。
多様性の尊重が叫ばれる中で20代、30代の同胞が元気になってきたと感じる。「自然を敬う先住民族の生き方は今の時代に必要なメッセージ。失ってはならない大切なものと気づき始めたのでしょう」。今月、東京であった祝賀会には長男で俳優の宇梶剛士さん(57)をはじめ孫やひ孫も集まった。「世界の先住民族と手を結んで自然をよみがえらせる努力をする。これからアイヌ民族が果たすべき役割は大きい」と目を細めた。<文と写真・明珍美紀>
■人物略歴
宇梶静江(うかじ・しずえ)さん
北海道生まれ。古布絵作家の活動が評価され2011年、吉川英治文化賞。今春、初の自伝「大地よ!」を刊行。
https://mainichi.jp/articles/20200729/ddm/012/070/094000c
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宇梶静江(うかじ・しずえ)さん(87)
「ウタリ(同胞)たちよ、手をつなごう」。新聞の投稿欄を通じて仲間と呼びかけ、やがて半世紀。「分け合って生きる。生きることを楽しむ。追いつめない」。民族の精神性を唱え続ける姿が、医師で東京市長などを務めた後藤新平(1857~1929年)の「共生の理念と通じる」と評された。
過去の為政者が強いた同化政策。その屈辱に耐えかね「勉強して新しい道を」と二十歳で郷里の北海道浦河町を離れ、札幌の私立中学で学んだ。東京に移り、早稲田大学の近くの喫茶店で働き、27歳で建築士の和人(日本人)と結婚。子ども2人を育てながらアイヌとしての自分を詩で表現し、民族の復権運動に身を投じるようになった。
運動を始めた70年代、「自分はアイヌとして生きたいと思っているわけではない」と去っていく同胞がいた。寂しさに覆われ、アイヌの伝統刺しゅうの技法を基にした「古布絵(こふえ)」の創作に打ち込んだ。新たな力がわき、同じ志を持つ首都圏のアイヌらと文化の継承に力を注いだ。
多様性の尊重が叫ばれる中で20代、30代の同胞が元気になってきたと感じる。「自然を敬う先住民族の生き方は今の時代に必要なメッセージ。失ってはならない大切なものと気づき始めたのでしょう」。今月、東京であった祝賀会には長男で俳優の宇梶剛士さん(57)をはじめ孫やひ孫も集まった。「世界の先住民族と手を結んで自然をよみがえらせる努力をする。これからアイヌ民族が果たすべき役割は大きい」と目を細めた。<文と写真・明珍美紀>
■人物略歴
宇梶静江(うかじ・しずえ)さん
北海道生まれ。古布絵作家の活動が評価され2011年、吉川英治文化賞。今春、初の自伝「大地よ!」を刊行。
https://mainichi.jp/articles/20200729/ddm/012/070/094000c