東洋経済9/11(日) 7:01配信
「グローバルな視点」で見た時、日本は他国に比べ、どのような国なのだろうか?
これに答えるのが、『最強の働き方』『一流の育て方』などのベストセラーでもよく知られる、著作累計70万部のムーギー・キム氏。京都に生まれ、日韓両国の文化の中で育ち、フランス・香港・シンガポールで学び働いてきた。
そのムーギー氏が「人生を通じて最も書きたかった1冊」という新著『そっか、日本と韓国って、そういう国だったのか。:文化・アイドル・政治・経済・歴史・美容の最新グローバル日韓教養書』が発売された。「韓国へのイライラ、日本へのモヤモヤが、同時に解消する」「両国の視点で、フェアに書かれている」「都合のいい部分ばかりつなげず、確かな学術論文に依拠している」と多方面で反響を呼んでいる。
本記事では、ムーギー氏が「『韓国人は、日本人と別人種』と考える人が陥りがちな超残念な深刻盲点」について解説する。
■日本人と韓国人は「DNAはほぼ一緒」という科学的常識
まず、エリザベス女王陛下が崩御されたことに、心から哀悼の意を表したい。私ですら悲しいのだから、イギリスの皆様の心痛はいかほどのものだろうか? 2週間以内に国葬の見通しとのことだが、国葬とはこのような方に対し、広いコンセンサスがあるなかで静かに執り行われるべきものであろう。
さて、日本と韓国「歴史問題がどうも決着しない」深い訳、「豊臣秀吉=虐殺者」韓国人がまだ許せない深い訳など、私が本連載のコラムを書くたびに、ヤフコメランキングや雑誌アクセスランキングでしばしば1位に輝くが、同時にコメント欄が激しく炎上し、焦土と化す。
気弱な私のハートにグサッとくる言葉でいえば「韓国人は日本人と違う人種だから、付き合わないほうがいい」。
しかし毎回「ちょっと待ってよ!」と思うのは、日本人と朝鮮半島の人々は人種的には同じ黄色人種、モンゴロイドである。DNA検査でも、ほとんど塩基配列が一緒だということはご存じだろうか?
言語や伝統的な宗教哲学、政治体制の違いと文化の違いから、「民族的には異民族」だが、日本と朝鮮半島で、人種は同じである。だからこそ両国を比較すると、人種はほぼ同じなのに、「日本のこのような独自の文化はどこから発達したのか」という興味深い問いへの答えが浮き上がるのだ。
今回は新刊『そっか、日本と韓国って、そういう国だったのか。』から、日本人のルーツに関する、(ネットの無責任な書き込みではなく)科学的・学術的な論文に基づく教養と国際感覚獲得の旅路にご案内しよう。
更新世末期(3万年~1万年前)の日本列島には、大陸系や南方系と考えられる人々が分布していた。
■DNA解析でわかった、日本人のルーツとは?
そんな先住民の子孫である縄文人と、その後に朝鮮半島や大陸からさまざまな経路で渡来してきた人々との混血により、現代日本人が成立したという「二重構造モデル」は、学術的には広く受け入れられている。
渡来してきた人々の移動開始時期は、紀元前2500年とも1000年とも500年とも言われる。
そしてとくに、長期にわたって主に朝鮮半島から鉄と稲作を持って渡ってきた人々と、その前からいた縄文人は一部混血をしたり、その文化を受け入れたりして、弥生人が形成された。
つまり弥生人には、主に朝鮮半島から渡来した人、縄文人との混血、そして新たな文化を受容した縄文人が含まれる。
弥生人に対しては、突然、日本列島に降ってきたか湧いてきたような認識の人が少なくないが、元をたどれば、総じてアジア大陸の影響を受けた民なのである。
一方、アイヌ系と沖縄系では混血があまり進まず、実際にも縄文人の遺伝子特徴を強く残すのは、北海道のアイヌの人々であることも、アカデミックの世界では常識である。
この意味で、「縄文人こそ日本のオリジナリティの証だ」と主張する方には特に、ぜひ北海道のアイヌ文化の保護に、より尽力してほしいところである。
(これをお読みの皆様にも、砂澤ビッキの作品をはじめとしたアイヌ文化の素晴らしい彫り物に、ぜひ触れてほしいところだ)
2012年、日本人類遺伝学会が編集する国際専門誌電子版に、「1人当たり最大約90万カ所のDNA変異を解析し、非常に高い信頼性で、先住民の縄文人と、朝鮮半島から来た弥生人が混血を繰り返して現在の日本人になったとする混血説が裏付けられた」と、総合研究大学院大学(神奈川県)などのチームが発表している。
■古代の倭国と、伽耶・百済の特別な関係
また、近年では2019年5月13日に国立科学博物館により発表された話だが、いまの日本人のDNAを全ゲノム解読できるようになった結果、縄文人由来のものは10%程度にすぎず、紀元前から朝鮮半島より渡来した弥生人と混血したことが示されている。
じつは、ほかにもさまざまな人々が日本列島に渡って混血してきたという説も唱えられているが、その後も弥生時代から飛鳥時代にかけて、多くの人々が百済や高句麗などから渡来し、大和政権で大きな役割を果たしていたことはよく知られているとおりだ(この時代に大量に流入した東アジア系の人々を古墳人と呼び、現在の日本人の遺伝子と最も近いという研究も存在する)。
1984年、全斗煥(チョンドゥファン)大統領の初訪日時の晩さん会で、昭和天皇が、日本建国当時の朝鮮半島国家による役割について言及したのも検索可能なので、ご参照いただきたい。
なお、「朝鮮半島には人がおらず、日本列島から朝鮮半島に人が渡って百済などを建国してその後、日本列島に戻ってきた」という説を唱える人がいるが、さすがにこれは無理があるだろう。もとはといえばアフリカ大陸にいた私たちの祖先を、どれだけ不自然なルートで移動させるのだろうか。
実際のところ、中国の文献にも、朝鮮のほうが日本より何百年も前から登場している。また、百済のほうが倭国より上国として書かれており、百済から倭国に文化が伝えられたことも記載されているのである(ただこれは当然で、当時アジア文明の中心地であった中国に近いほど先進文化があるのは、当たり前のことだろう)。
ともあれ、日本と朝鮮半島南部(とくに伽耶と百済)との間では、何百年もの間、人の往来が盛んだったのは確かである。
■「純ジャパ」も「純コリ」も存在しない
このような人口移動や交流の歴史を考えると、よく聞く「純ジャパニーズ」という概念が、空想の産物であることがわかるだろう。
これまで述べてきたように、日本人の多くは、縄文系と朝鮮半島や大陸系の混血であり、また混血の程度は地域によってさまざまに異なるのだ。
もちろん朝鮮半島の人々の祖先も、もとから朝鮮半島にいたはずはない。その先祖には、たとえば北方民族だけでなく、ヒマラヤ山脈南の南方ルートで東南アジアを経て、いまの中国北東部から朝鮮半島に移り住んだ人々もいる。
また、韓国人の遺伝子には中国人に近い遺伝子や、モンゴル人に近い遺伝子も入っている。私もお風呂に入るときに鏡を見ると、モンゴル人力士に実に似ている。
ちなみに、『Genome Biology and Evolution』に掲載されている論文「The Origin and Composition of Korean Ethnicity Analyzed by Ancient and Present-Day Genome Sequences」によれば、これらの混血は、朝鮮半島への移住前から起こっていたとされている。
これらの研究が示唆するのは、「どこどこの国の人は、もとはといえば何人などと、ひとつの源流に遡ることなど不可能」だという事実だ。
中国人やモンゴル人に関しても、結局のところ、みんなアフリカからさまざまなルートを辿って巡り合った人と交配して子孫を残してきた。
自国の祖先は進化論やアフリカ起源を無視して、天から降ってきたか地から湧いてきたとでも言い張らない限り、これは動かせない事実である。
つまるところ、「純コリアン」というのも想像上の存在で、「純中国人」「純モンゴル人」にしても、またしかりなのである(ただ、自分のDNAや由来の一部を憎み蔑むという謎の習性は、多くの民族で見られる現象でもある)。
もちろん、国家や民族は、生物的DNAではなく、自分および自分が所属する集団は何であるかという主観的認識と、政治的プロパガンダに大きく左右される。また、どこの民族も「内集団バイアス」があり、隣近所より自分たちが優れていると思いたがるし、どこの国にもその起源を語る神話がある。
だからこそ、教養ある態度を身につけるには、歴史と神話の境を知ることが重要なのだが、2022年の今になっても、古代の神話と歴史を混同し、排他的アイデンティティをつくってしまった人たちが、ヤフコメなどで人種差別的な書き込みをしては、規約違反で消去されてしまうのである。
■あなたもムーギー・キムさんも、DNAはほぼ同じ!
ともあれ今回は、科学的なファクトに基づく数多くの学術論文をまとめた日韓の人種的共通性について、新刊『そっか、日本と韓国って、そういう国だったのか。』から抜粋して紹介させていただいた。
これを機に、「この記事を読んでいる自分と、ヤフコメ欄で黒焦げに炎上しているムーギー・キムさんのDNAは、ほぼ一緒かぁ……」と、私への親近感と好感度が爆上がりすることを、祈念する次第である。
ムーギー・キム :『最強の働き方』『一流の育て方』著者
https://news.yahoo.co.jp/articles/25cf90728a14319d3b4e59b65dace59afed90a59?page=1