秋辺デボ×藤岡千代美
PRISM 2025.01.23
AKIBE DEBO
アイヌ文化継承者 / プロデューサー
秋辺デボ(秋辺日出男)
FUJIOKA CHIYOMI
札幌ウポポ保存会所属 / アイヌ刺繍作家・デザイナー
OVERVIEW
プリズムが2023年〜企画・演出および映像コンテンツ制作からオペレーションまでを統括している、『2025 さっぽろ雪まつり(第75回)』大通西8丁目「雪のHTB広場」にて行われる、世界平和祈念をテーマとした一夜限りのスペシャルコラボ・ダンスパフォーマンス。
2023年の『六花の祈り』、2024年の『Frost Flowers』に続き、3年目となる今年は『ミナミナ』というタイトルで2月7日(金)に公演を迎えます。
これまでにもメインキャストとして参加いただいているアイヌの伝承者、秋辺デボ氏を演者兼プロデューサーとして迎え、アイヌ舞踊とコンテンポラリーダンスのコラボレーションに、プロジェクションマッピングが演出として加わる新たな試みです。
これまでに2回メインキャストとして参加いただいた秋辺デボ氏と、今回が2度目の参加となる藤岡千代美氏に、これまで参加した感想や今年のパフォーマンスへの意気込みを聞きました。なぜ、このパフォーマンスは特別なのか、ぜひ本公演と合わせてお楽しみください。(インタビュー実施日:2024年12月)
Prism:
この企画は雪まつりステージイベントの事前インタビューということで、いくつか質問にお答えいただけたらと思います。まずは簡単に自己紹介をいただけますか。
デボ:
北海道の阿寒湖温泉で生まれ育った、アイヌ民族の秋辺デボです。アイヌの踊りや歌関係の演出、木彫り、最近は役者や歌手活動も行っています。アイヌ文化を、観光の側面や、舞台芸術としてどう活かすかということを考えて近年活動しています。
直近の活動でいうと、東京五輪の際に結成した60人ほどのアイヌの舞踊チーム「チームパラル」が出演する大阪万博の準備を手伝っていて、生活拠点は阿寒湖ですが、最近は札幌、白老、東京と、あちこち飛び回っています。
Prism:
ありがとうございます。今年(2024年)は映画にもご出演されましたね。
デボ:
映画「ゴールデンカムイ」に出演させていただき、アイヌ文化のアドバイザー、監修もやっています。WOWOWの連続ドラマ版にも少し出演させていただいていますね。
藤岡:
藤岡千代美と申します。札幌生まれ札幌育ちです。元々アイヌの歌や踊りをやりたくて、札幌保存会を母体としてずっとアイヌのことに携わってきました。
そのなかで、踊りや歌を通じてアイヌをより多くの人に知ってもらいたいという思いが深まり、先ほど話に出た「チームパラル」にも参加しています。様々な活動のなかで得られた多くのアイヌの方々や文化との出会いが、今の自分の糧になっています。
ずっとアイヌ刺繍をやってきていて、本当は工芸がやりたいのですが、今はその暇がない(笑)。元々は受注生産で、伝統衣装とは違った現代的なリメイクをベースに、アイヌ刺繍をしたものを制作しています。工芸を通じて文化を知ってもらいたいという思いも強いですね。
Prism:
2024年の雪まつりステージ『Frost Flowers』に参加されたご感想を教えてください。
藤岡:
雪まつりのステージに参加させていただいたのは今年が初めてだったのですが、アイヌではないバレエダンサーの針山愛美さんたちとのコラボレーションを通じて、新たな形でのアイヌ文化の発信ができたことは大きかったと思います。冒頭の儀式を通じて伝統的なものもお客様にお見せできましたし、伝統衣装は着つつも、アイヌ舞踊ではない踊りを他のダンサーの方々と踊れたことも良い経験になりました。周りからもよかったよ、と声をかけてもらえました。
2024『Frost Flowers』
デボ:
藤岡さんが全部言ってくれた(笑)。
2023年『六花の祈り』でケント・モリさんとやったときに、ケントとなら感覚でクロスオーバー出来るということが証明できたと思う。ただ今年の針山さんとのバレエコラボに関しては、藤岡さんに演出の協力をかなり仰いだんですよ。というのも、アイヌの踊りというのは誰かとコラボしても、伝統的な舞踊と歌唱というものを変えないから平行線になってしまうことが多い。ただ、今回はそこを変えたかった。それぞれの踊り方の基本は変えずに、どうクロスオーバーさせるかをかなり事前から打ち合わせし、リハもしっかりとやったことでうまくいったと思う。
『六花の祈り』のときから「祈り」というテーマは外せないと思っていて、今年の針山さんのときには、ウクライナから避難してきているダンサーたちも来てくれた。やはり重要なテーマとしてあるのは「平和」ですよね。単にステージでパフォーマンスをするということに俺はあまり意味を見出せなくて。やはりアイヌ民族が伝統的に大事にしてきた、自然との調和、人間との調和。その調和を積み重ねていくと平和になるということ。その平和の想いを舞台の上で何か表現できないかなと思ったときに、アイヌの祈りの儀式を行い、そこに針山さんもいてくれるところからスタートしたいと思ってやった。そういうことを地道に重ねていくことが大切なことだなと思っていて。祈るということは人間に与えられた最大の武器であり、一番地味かもしれないけど、それは世界共通のことであって。現状がどうだっていうこと以上の人間が持っている想い、やはり戦争は嫌だよ、というところから今年はスタートできたと思っています。
2024『Frost Flowers』
Prism:
そもそも、ステージ参加のきっかけはなんだったのでしょうか?
デボ:
2023年、雪まつりをやるずっと前の夏に、プリズムの新谷社長がなんでか、ケント・モリを秋辺デボに会わせたいから、阿寒湖に連れて来たいとなった。俺は伝統的なダンスも含めてアイヌのことを色々とこだわってやってきているんだけど、そんな俺と合わせたら、何かが起きるんじゃないかと。俺はケント・モリが誰だか知らなかったんだけど、実際に会ってちょっと踊らせてみたら、大した上手いんだこれが。そこから、マイケル・ジャクソンに認められたとか、マドンナのバックで踊っているとか、何やらすごい人だっていうのがわかった。まあ、すごい人だろうがすごくなかろうが、良いひとならいいんだけど、ケントは良いひとだなと思った。
そこで思い立って、「おい、湖の淵いくぞ」とケントを誘って、広場にいた女性の仲間たちにも「着物着て湖いくぞ、ケントと俺が踊るから歌ってや」ってみんなで湖に行ってパッと場所も決めて、二曲やったかな。ほんとに即興で、いいパフォーマンスができたと思うよ。それでケントも俺も味をしめたんだな、もっとやりたいなこれって。それを見ていた新谷社長が、これを雪まつりでやったら面白いだろうって発展的に考えたと。
ケントが阿寒湖にきたことがきっかけで、それが雪まつりのステージになった。
2023『六花の祈り』
Prism:
今年のバレエに続いて来年はコンテンポラリーダンスですが、異なるジャンルとのコラボはどうつくっていくのでしょうか。
デボ:
実は阿寒湖では、5年前からコンテンポラリーダンサーとコラボしてダンスをつくっているんですよ。そのうちのひとりが、今回一緒に踊ることになった品田彩さん。コンテンポラリーとひと言でいっても幅があって、ストリートダンスだったり、品田さんのようなちょっとクラシックに寄った踊りだったりするんだよね。相手が誰であろうと、きちっと相手に合わせるんだ、合わせてもらうんだ、というアイヌの真摯な気持ちがあればうまくいくと思う。
品田さんも今回のコラボを快く引き受けてくれたんだけど、実際のところ、普段彼女がどんな踊りをオリジナルで踊っているかというのは阿寒湖では見たことがなかった。それで、資料を送ってもらって観たら素晴らしいダンサーで、彼女が持ち込むであろう音源も、うちの劇場で今やっている『満月のリムセ』の中でダンサーが踊る音源も使えるなと。それぞれを組み合わせても違和感がないし、そこにアイヌの伝統の歌が被ってもうまくコラボできそうだなと、そんな見込みがあります。
デボ:
今回、品田彩さんに出演をお願いしたいと思ったのは、北海道で活動している人なのさ。残念ながら、ケント・モリさんや針山さんとは雪まつりのステージ以降一緒に何もできていない。せっかくこれまでのふたつのステージをうまくやったと思っているんだけど、その次がないのはもったいないなと。
それであれば、地元のアーティストとアイヌとのコラボにして、継続してほかのステージでも一緒にできる状況を是非つくりたいということを新谷社長と深津会長に伝えたんですね。俺はここに一番大事なポイントがあると思っていて。ステージを観た地元の人が、あの人昨年もいたよね、一昨年もいたよね、でも昨年よりいいよね、来年はもっと面白くなるよね、こういう新しい文化活動もあるんだよね、と思えるようなものになれば、北海道から世界への発信になるような面白いものに育てていけるんじゃないかと期待を込めている。きっと楽しいと思うよ。
Prism:
藤岡さんは普段制作活動をされていますが、他ジャンルとのコラボに抵抗感はありましたか?
藤岡:
いや、全くなかったです。私はずっとアイヌだけとの関わりよりも、さまざまな方たちと自分の工芸が関わったことによって羽ばたいていくことが多い環境にいたので。もしまた再来年以降も携わらせていただけるなら、アイヌの舞踊をよりコンテンポラリーにするなど、さらにアレンジして発信していきたいという考えが強いです。
Prism:
雪まつりステージの変わらないテーマは「平和の祈り」ですが、祈りは踊りのひとつの起源かもしれないですね。今回はどのようなステージにしたいですか。
デボ:
観てくれた人を感動させたいね。最低限、関心をひくような舞台にしたい。まずはそれが目標だよね。俺はどんな舞台にも、メッセージは絶対に必要だと思っている。メッセージがない舞台というのはありえない。「平和の祈り」は3年目だけど、残念ながら世界中で戦争をやっているよね。それを見て見ぬふりができるほど俺は神経が強くないんで、いち早くなくなって欲しいっていうのは、いつも思うことだ。それで、おおらかで平和そうにみえる日本に住んでいて何ができるのっていったら、メッセージを発することだ。平和のために特定の人を非難するのもださいし、どこどこがんばれっていうのもださい。それよりも、アイヌの伝統に則った祈りを世界に発信することのほうが、巡り巡って良い波が起きるというふうに、俺は信じているので。そういう舞台をやりたいと思っている。
Prism:
藤岡さんはどういうふうに演出を考えていますでしょうか。
藤岡:
平和の祈りを語るには個人的な話しかできないですが、まずはデボさんが考えた演出を、演じてもらうメンバーに動きとして伝えていく役割を大事にしたいです。
デボ:
たとえばアイヌの伝統の弓の踊りだけど、阿寒とか釧路に伝わるものは歌詞にはあまり出てこないけども伝承が一緒に伝わっている。ある狩人が山奥深くに入っていくと白い美しい鳥がいて、それに一旦矢を向けたけど、枝から枝へ飛び移っている様子を見て、その様子があまりに美しいので、この鳥はカムイ、神の化身であって、私に舞を踊ってくれているんだ、というふうに受け取っちゃうわけよ。村に帰ってその話をしたことが元となって生まれた踊りなんだよ、というエピソードが一緒に伝わっている。それで、踊りを子どもたちや新しい人に教えるときには、必ずその伝説も一緒に教えないと踊りができない。
振り付けを覚えるだけが踊りではないということと一緒で、舞台というのはメッセージが必要だというのは、「ここに立って移動して、くるっと回ってポッと立ってね」という行動様式だけでは、どう動くかという指針がない。まず、メッセージがあって、それに向けてどう動くか、ということがあってはじめて「振付」ということになる。なので、藤岡さんはいつも俺が何をいいたいのか、何を表現したいのか、というのを読み取って演者に伝える役割なんだけど、動きに伴っている意味をみんなが理解して立つと、踊りとして、舞踊として成立する。そこに最後は、どこに魂をもってくるか、それぞれの心に湧き出てくるものをどう引き出すかっていうのは俺の仕事。ただ、俺はやることがいっぱいあるから、一人ひとりにあっち立ってこっち行ってとかの指示はやってられない。役割分担が違うんだね。
Prism:
アイヌの中で舞踊をやるときは、みんな内容を理解したうえで観ていると思いますが、たとえば雪まつりでは、演者が何をやっているか解らないで観ている方もいらっしゃると思います。それに対しての説明は必要だと思いますか。
デボ:
説明が必要な場合と、説明すると失敗する場合と、舞台のあり方による。ない方が良いときもある。雪まつりはない方が良いと思う。たとえば昨年の瀕死の白鳥を見て、何をやってるかわかんない人はいないわけだ。弓と矢をかまえて、何を狙っているかはわからなくても、何かを狙っているのがわかれば十分なわけさ。ところが、アイヌだけの古式舞踊のときにはみんな何やっているかを知りたがるよね。それはナレーションでいれるのか、司会で入れるかっていうのは、みんなかなり苦労している。ナレーションでとか、前もってパンフレットでとか、あるいは舞台の映像で字幕を入れるとかなんだけど、どっちかというと俺はあんまり説明したくないほうだね。
Prism:
雪まつりの舞台というのは、ほかと違うと感じますか。
デボ:
ちょっと疑問とか持ったまま帰ってもらったほうがいいだろうな。映画でもドラマでも、全部説明したらださいんですよ。セリフの端々にヒントがあって、観る人がそれを考えるというのが昔はあったけれども、今はよそ見しててもわかるようになっているのが多い。映画館ではみんな集中して観てるからそれはやらないけどね。我々の舞台はドラマじゃない、アートだと思ってる。観てわからない人は、わからないまま帰っても、楽しいかもしれんよ。別に裸の王様になろうとかそんな傲慢な態度じゃないんだけど、やっぱりどこかにヒントは散りばめたいよね。
Prism:
最後に、来てくれる方に意気込みやメッセージをお願いします。
藤岡:
今回は彩さんとのダンスということで、また1回目2回目とは違ったデボさんの演出が楽しみです。これから練習なので、感動・平和のメッセージが伝わる舞台にしたいなと思っていますので、ぜひ観にきてください!
デボ:
ぜひ会場に来てください。先着100名様に景品をご用意しておりますので。
藤岡:
本当に?(笑)
デボ:
違ったっけ?(全員笑)
Prism:
デボさんの自腹になります(笑)。
デボ:
みんなで祈ることができる、良い舞台になるんじゃないかと思ってます。ご期待に応えられるようにがんばります。舞台が完成するのはお客様がいらしてのことですので、完成させるんだという想いでぜひ会場に来てください。よろしくお願いします!
プロジェクト『ミナミナ』について、詳細はプロジェクトページの特集記事をご覧ください。
https://www.eizou.com/dialog/2694/