先住民族関連ニュース

先住民族関連のニュース

衣類で伝える、先住民の歩み。「バンクーバー先住民ファッションウィーク」現地レポート

2025-01-15 | 先住民族関連

 

IDEAS FOR GOOD 1月 14, 2025 by 古川 紋

2024年11月20日から23日にかけて、カナダ・バンクーバーのクイーンエリザベス劇場にて、今年で4回目となる『バンクーバー先住民ファッションウィーク(Vancouver Indigenous Fashion Week)』(以下、VIFW)が開催された。

VIFWは、現代ファッション業界に、伝統的なカナダ先住民のデザインを捉え直す機会を提供する。北米全域から集まった30名以上の優れた先住民ファッションデザイナーたちの創造力と工夫、最新のデザインからインスピレーションを受けられる特別な場である。4日間にわたり日ごとに異なるコンセプトで構成され、ファッションだけではなく、ダンスや歌、楽器演奏などの多彩な文化的表現のパーフォーマンスもあり、観客を魅了した。

VIFWは、先入観や固定観念にとらわれず、先住民のファッションや文化への理解と敬意を深めることで、さまざまな課題の解決を目指している。また、持続可能なファッションの実践を広めることで、業界が環境や社会に与える影響への意識を高め、責任ある消費と生産を促しながら、より良い未来への変革を提案しているのだ。

本記事では、VIFWに参加した筆者が、現地で感じたカナダ先住民コミュニティのパワーやイベントの様子、ファッションショーの詳細をお届けする。

バンクーバー先住民ファッションウィークの歴史。文化と創造性が交差する舞台

バンクーバー先住民ファッションウィーク(VIFW)は、先住民文化と現代ファッションが交差する重要な舞台として、年々その存在感を高めている。2017年7月26日から29日にかけて、第1回VIFWがクイーンエリザベス劇場と人類学博物館(Museum of Anthropology)を会場に開催された。この初の試みでは、先住民のデザイナーやモデルたちが独自のコレクションを披露し、1日2回のショーが行われた。4日間にわたるイベントには4,550人の観客が訪れ、先住民文化の美しさと力強さがファッションを通じて表現された。

その後、2019年に第2回がオーフィウム劇場とクイーンエリザベス劇場で開催された。オープニング祝典が特に注目を集め、祝典ではカナダ全土で失踪または殺害された先住民女性や少女たちを追悼し、敬意を表する「レッドドレス・セレモニー」がオーフィウム劇場で執り行われた。深い悲しみと力強い祈りが込められたこのセレモニーは、観客に強い印象を残し、VIFWが単なるファッションイベントを超えて社会的なメッセージを発信する場であることを印象づけた。

続く第3回VIFWでは、北米大陸全域から32人の先住民デザイナーが参加し、クイーンエリザベス劇場で作品を披露した。それぞれのデザインには先住民文化の物語や伝統、自然との深いつながりが込められており、観客に鮮烈な印象を与えた。

第4回「バンクーバー先住民ファッションウィーク」のコンセプトと見どころ

1日目: Opening Night – Red Dress Event「暴力問題や失踪事件をなくす」

1日目に開催されたのは、「Red Dress Event」をテーマに、カナダ先住民の女性や少女への暴力問題や失踪事件に対する啓蒙のメッセージが込められたショー。赤いドレスは、彼女たちの存在を決して忘れないよう記憶し、敬意を表す象徴的なアイテムとして会場を彩った。この日は、観客にも赤のドレスコードがあり、会場中が赤く染まった。

初日のオープニングを飾ったのは、先住民ダンサー兼振付師のMadelaine McCallumによる「レッドスピリットダンス」だ。このダンスは、カナダ先住民女性や少女たちが直面してきた歴史的な苦難や喪失、そしてそこから立ち上がる力強い精神を象徴している。情熱的かつ魂を揺さぶるようなパフォーマンスは、言葉を超えたメッセージとして観客に訴えかけ、会場には涙を流す人々の姿も多く見られた。

2日目: All My Relations「コミュニティの繋がり」

2日目は「All My Relations」と題し、コミュニティの繋がりや先祖から受け継がれた絆を表現するデザインが特徴的であった。衣装には、伝統的な模様や素材が用いられ、家族や部族の絆が作品を通じて伝わってきた。伝統的な技法と現代的な美学が融合し、新進気鋭や熟練の先住民デザイナーたちによる壮麗な作品が披露された。

2日目のショーのトップバッターを担ったのは、シールスキンや革、毛皮などの天然素材を用いた独自のファッション作品で知られているブランド「Cheryl Fennell」。デザイナーCheryl氏は、カナダのイエローナイフ出身のデザイナーで、イエローナイフ・デネ族の血を引く。伝統的なデザインと現代的なアイデアをユニークな方法で融合させるのが得意である。彼女の作品は、自然素材の美しさと持続可能性を強調し、先住民の伝統と現代ファッションの架け橋としての役割を果たしているのだ。

3日目: Indigenous Futures「先住民文化と現代的なデザインを融合」

先住民文化と現代的なデザインを融合させた革新的なコレクションが披露された。先住民の主権を提唱するストリートウェアのデザインが紹介された。先住民の芸術的表現、現代的な物語、そしてポップカルチャーが融合した一夜となった。未来への希望や可能性を感じさせる、斬新でエネルギッシュな作品が多く、多くの観客を魅了した。

4日目: Spirit of the West Coast「地域の美しさと自然との共生」

最終日は「Spirit of the West Coast」と題し、西海岸の雄大な自然や多様な文化にインスパイアされたショーが行われた。広大な海岸線や深い森林、先住民の伝統文化など、西海岸ならではの風景や歴史が随所に表現されている。自然との共生やサステナビリティの精神を反映した作品が並び、この土地と人々が持つ独自の魅力や価値観が際立つデザインが披露された。

最終日のアンカーを務めたのは、2024年ミス・ユニバース・カナダに輝いたAshley Callingbull氏だ。彼女は先住民として初めてミス・ユニバース・カナダのタイトルを獲得した象徴的な存在であり、その堂々たる姿は観客の視線を一瞬で引きつけた。

彼女が纏ったのは、デザイナーHimikalas Pam Baker氏のブランド「Touch of Culture」によるドレス。伝統的な要素と洗練された現代的なデザインが融合したその一着は、先住民文化の誇りと美しさを見事に表現していた。ランウェイを優雅に歩くAshley氏の姿は、ファッションを超えて、先住民コミュニティの力強さと希望を象徴する瞬間として多くの観客の心に刻まれた。

観客もショーの一部として参加?会場の熱気と一体感

今回強く感動したのも、会場の熱気だった。終始エネルギーに満ち溢れ、観客と出演者が一体となる熱気が漂った。観客には先住民コミュニティの人々も多く、ショーが進むごとに歓声や拍手が沸き起こり、何度もスタンディングオベーションが見られた。互いを称え合い、支え合う姿勢と情熱は、カナダ先住民コミュニティの強固な絆と誇りを象徴するものだった。

さらにファッションショーの前半と後半の間には、先住民の背景を持つミュージシャンやダンサーたちによるパフォーマンスが行われ、観客たちが席を立ち踊る光景も見られた。筆者自身、これまでファッションショーといえば観客が静かに座り、拍手を送る程度のものというイメージがあった。しかし、VIFWでは観客もショーの一部として参加しているような感覚があり、その一体感と活気に大変新鮮な印象を受けた。

逆境を乗り越えてきたカナダ先住民の強さと魅力、ファッションが社会に及ぼす影響

カナダ先住民のコミュニティは、長い歴史の中で抑圧や悲しい過去を経験してきた。

命と向き合う狩人、カナダ先住民の狩猟に5日間同行して学んだこと

「食べるなら狩る、食べないなら狩らない」命と向き合う狩人、カナダの先住民ファースト・ネーションズ。歴史と伝統に根ざした「狩猟の旅」に同行したなかで感じたことは?

WordPress への埋め込み HTML での埋め込み

https://ideasforgood.jp/2024/11/05/hunting-first-nations/

埋め込むにはこの URL をコピーして WordPress サイトに貼り付けてください

しかし、彼らは過去がありながらも、文化や伝統を守りながら、新しい形でその価値を世界に発信している。VIFWは単なるショーに留まらず、彼らの強さと魅力を世界に示す重要な場であると感じた。

彼らのデザインは美しいだけでなく、それぞれに深い物語やメッセージが込められており、観る者に強い感動を与える。悲しみを力へと昇華させ、前進し続けるその姿は、多くの人々にとって大きなインスピレーションとなるだろう。

そしてファッションは、自身のアイデンティティや場所、個人的な創造性を表現する強力な手段である。歴史を通じて、人々は衣服やジュエリーを身につけることで象徴や美しさ、帰属意識を探求し、自らを表現してきた。時代とともに生活様式や表現方法が進化する中で、ファッションは常にその役割を果たしてきた。

VIFWは、そうしたファッションが先住民の価値観、知恵、歴史と深く結びつき、彼らのエネルギーと回復力を育む手段となっていることを象徴している。また、先住民と非先住民の人々の間で理解を促進する媒介としての役割も果たしている。先住民復興の過去、現在、未来を繋ぎ合わせる架け橋となっているのだ。

【参照サイト】VIFW
【参照サイト】Cheryl Fennell
【参照サイト】Alicia’s Designs

Edited by Erika Tomiyama

https://ideasforgood.jp/2025/01/14/vancouver-indigenous-fashion-week/

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« トランプ氏のグリーンランド... | トップ | 令和8(2026)年度 国立文化財... »
最新の画像もっと見る

先住民族関連」カテゴリの最新記事