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グリーンランド パナマ運河 トランプ氏発言が現地で大きな波紋

2025-01-14 | 先住民族関連

 

NHK 2025年1月14日 2時31分

アメリカのトランプ次期大統領の発言が大きな波紋を呼んでいます。
デンマークの自治領グリーンランドの所有や、パナマ運河の返還を求める発言は、現地ではどう受け止められているのでしょうか。
NHKの取材班が現地に入りました。

住民「グリーンランドは売り物ではない」

グリーンランドをアメリカが所有すべきだというトランプ氏の主張について、中心都市ヌークで住民に受け止めをきいたところ、大半の人からは反対だという意見が聞かれました。

このうち、南部出身の30代の女性は「グリーンランドは売り物ではなく、誰も買うことはできない。長い間、私たちはデンマークのもとで安全だと感じてきた」と話し、現状維持でよいという考えを示していました。
ヌーク出身の60代の男性は「ここではアメリカもデンマークも必要ない。世界中が平和になって欲しいと思っているし、望みはそれだけだ」と話していました。
また、同じヌーク出身の50代の女性は「単に言ってみただけで冗談かもしれないが、ここグリーンランドでは深刻に受け止められていて、今後どうなっていくのか見守っている」と話し、事態の推移に高い関心を持っている様子でした。
一方、グリーンランドの将来を見据えた場合、アメリカとの協力関係は必要だという意見もあり、北部出身の20代の男性は「世界は変化していて私たちも変わる時が来ている。アメリカとの将来を考えるよい機会だと思う。経済的、そして、安全保障を強固にするのに役立つからだ」と話していました。

グリーンランド元首相「米が脅かすことは受け入れがたい」

トランプ氏の一連の発言について、2013年までの4年間、グリーンランド自治政府の首相を務めたグービック・クライスト氏は「トランプ氏が以前、グリーンランドの所有に意欲を示したのは2019年だったが、今回は深刻なことで、デンマークを含むNATO同盟国やカナダ、パナマに対し、アメリカが脅すことは受け入れがたい」と批判しました。
また、トランプ氏の意図については「現代を生きる私たちにとって地域とそこに住む人々を買うという考えは愚かだ。『美しいところだ』などと言っているが、全体としてはグリーンランドを支配したいと考えていると思う。『アメリカを再び偉大に』がモットーで、アメリカとアメリカ国民の安全だけを話し、この土地の人々にはほとんど触れていない」と述べました。
そのうえで「外交の道を探るべきだ。それが問題に対処する唯一の方法だ」と述べ、脅し文句ではなく外交を通じ平和的な手段でお互いの主張について意見を交わすべきだと強調しました。

グリーンランド議員「もっと民主的に協力すべき」

トランプ氏の一連の発言について、グリーンランド自治議会の議員からは冷静に受け止める声も聞かれました。

このうちドリス・イェンセン議員は、取材に対し「グリーンランドはグリーンランドの人たちのもので、私たちには独自の議会があり、1979年以来、独自の閣僚を抱え、私たちは民主的な価値観の中で生きている。人間を買うことは植民地主義的で認められない」と述べました。
一方で、イェンセン氏は「トランプ氏の反応に非常に恐れを抱いている人もいるが、パニックになる必要はないと思う。この機会を利用して私たちとアメリカは、もっと民主的に協力すべきだ」と述べ、グリーンランドのデンマークからの経済的な自立や安全保障などの面でアメリカと連携していく、よい機会になるという考えを示しました。

米はこれまでもグリーンランドに関心

アメリカは地政学的な理由などから、グリーンランドへの関心をたびたび示してきました。

1867年に当時のアンドリュー・ジョンソン大統領が帝政ロシアからアラスカを購入した際、グリーンランドの買収も画策したとされています。
第2次世界大戦中の1941年には本国のデンマークがナチス・ドイツに占領されたためアメリカ軍がグリーンランドを保護し、気象観測などのための基地を設けました。
また、戦後の1946年には、当時のトルーマン大統領がデンマークにグリーンランドを1億ドルで購入する案を示したと報じられています。
そして東西冷戦下の1951年、アメリカはNATO=北大西洋条約機構の防衛計画の一環としてデンマークと結んだ協定に基づきグリーンランドに基地の建設を進め、多いときは9つの基地がソビエトからの弾道ミサイルの早期警戒や爆撃機の発着拠点などとして運用されていました。
さらに一時期、氷床の中に大規模なトンネル網を建設し、ソビエト国内を攻撃できる核ミサイルを配備する計画をデンマーク政府にも秘密で進めていたことが明らかになっています。
現在、グリーンランドにあるアメリカ軍基地は北西部の「ビードゥーフィーク宇宙軍基地」の1か所で、2019年に当時のトランプ大統領が創設した宇宙軍が北極圏におけるロシアや中国の軍事活動の監視などに当たっています。

専門家「発言の背景には中国・ロシアの存在感」

グリーンランドに詳しいデンマーク国際問題研究所のウルリック・プラム・ガッド上級研究員は、トランプ氏の発言の背景について「もしロシアや中国がアメリカに核ミサイルを放つ場合にはグリーンランドを通過することになる。アメリカはグリーンランドにレーダーを配備しており、ほかの超大国が足場を作らないようにしたいと考えている」と指摘します。
そのうえで「北極圏付近では氷がとけていて、海上交通が増えることになる。ロシアと中国が北極圏での船舶輸送で協力していることもわかっている。しかし、グリーンランドの東側の海域で何が起きているのか正確にはわかっていない」と述べ、アメリカは、デンマークに対しグリーンランド周辺の状況をよりしっかりと把握するよう求めてきたとしています。
一方、トランプ氏の発言は同盟国との国際協力にはマイナスだとしたうえで「私たちが本当に問題を解決したいのであれば、口論するのではなく、協力しあうことを確認する必要がある」と述べ、脅しではなく話し合いによって課題を解決すべきだとしています。

デンマークはグリーンランド周辺の防衛強化へ

デンマークの情報機関の報告書によりますと、ロシアはウクライナ侵攻以降も、グリーンランドの大部分が位置する北極圏での軍事力を維持していてロシアの予期せぬ行動が深刻な結果をもたらす可能性があると指摘しています。こうした中、デンマーク政府はグリーンランドの周辺を含む北極圏の防衛強化を進める方針を打ち出しています。

グリーンランドの中心都市ヌークには、北極圏の防衛を担当するデンマーク軍の司令部があり、港を訪れた日も周辺の海域を監視する船舶が停泊していて、翌日以降行われるパトロールに備え、ヘリコプターを船に格納するなど準備を行う様子がうかがえました。
欧米のメディアによりますと、デンマーク政府は先月、グリーンランドに関連する防衛予算を大幅に増額する考えを明らかにしています。

グリーンランド デンマークから独立の機運高まる

グリーンランドでは近年、デンマークからの独立の機運が高まっています。およそ5万6000の人口の9割を占めるのは先住民、イヌイットの人たちですが、18世紀はじめからデンマークの統治下にありました。

1979年に自治権を獲得し、いまでは外交や安全保障などの分野を除き、自治が認められています。現在は、独立を支持する住民が大半を占めるようになっていて、背景には▽1950年代に当時のデンマーク政府の方針でデンマーク本土に強制的に移住させられた子どもがいることや、▽1960年代に人口の抑制策として体内に避妊具を装着させられていた女性の存在が相次いで明らかになったことなどがあります。

自治政府のエーエデ首相は今月10日の記者会見で「私たちはグリーンランド人になりたい。そしてもちろんグリーンランドの人々が自分たちの未来を決めるのだ」と述べ、独立を目指す考えをあらためて強調しました。

グリーンランド自治議会で外交と安全保障を担当する委員会に所属するクノ・フェンカー議員は「トランプ氏の発言は、自由で完全に独立したグリーンランドへの道を開くかもしれない」と述べ、独立に向けた動きを後押しする可能性があるという見方を示しました。
フェンカー氏は「世界は不確実な状況だ。デンマーク政府はグリーンランドの防衛や安全保障、インフラについての優先順位が低すぎる。トランプ氏が、デンマークができないなら万が一の場合に備えアメリカが軍事力を使って島を守り北アメリカ大陸を守らなければならないと言っていることに同感する」と述べました。
そのうえで「グリーンランドが独立し、主権国家になることは交渉の余地がない。私たちはアメリカと協力する準備ができている。もし防衛と安全保障に関わる合意ができるならば、グリーンランドの政府と結ぶべきだ」と主張しました。

グリーンランドにはレアアース鉱床など

グリーンランドで地質調査などを行っている「デンマーク・グリーンランド地質調査所」のチーフ・コンサルタント、トーマス・バーミングさんは、資源の規模などは正確には分からないとしながらも「南部には最大のレアアースの鉱床があり、黒鉛や銅があるエリアも存在する」と明らかにしました。

そして、温暖化で氷がとけ始めている地域があると指摘し「以前は氷に覆われていた地域が今では氷のない地域になっている。こうした地域の一部には何らかの資源が埋まっている可能性もある」としています。
また、現状はカナダの企業による金の採掘などの鉱山開発が2か所で進められているということで、中国企業も別の事業に投資をしたことがあるとする一方、アメリカの企業はほとんど進出していないとしています。
そのうえで「グリーンランドで鉱山を設けるには資金調達が不可欠で世界に輸送するためにも費用がかかることを考慮しなければならない」と話し、採掘のための道路や港湾施設などのインフラ整備に必要な資金と時間が、大きな課題になるという認識を示しました。

なぜアメリカが買収? グリーンランドってどんなところ?

パナマ運河めぐる発言でパナマにも反発広がる

トランプ氏の発言を受けて、パナマの市民の間でも反発が広がっています。

太平洋と大西洋をつなぐ、世界の海上輸送の要衝、パナマ運河は、1914年に開通し、アメリカが管理してきました。
パナマで運河の返還を求める声や反米感情が高まったことを受けて1977年に当時のアメリカのカーター大統領とパナマのトリホス将軍が合意した条約に基づいて1999年末、パナマに返還されました。

トランプ氏は先月22日「パナマから請求される料金はばかばかしく、不当だ。わが国に対するぼったくりは、直ちにやめるべきだ」と述べて運河の通航料が高すぎると不満を示し、適切な扱いを受けられなければ、パナマ政府に運河の返還を求めると主張しました。
またトランプ氏は、パナマ運河について「パナマに返還したのであって、中国に渡したのではない」と述べたほか、先月25日にはSNSに「違法ではあるが、愛情を込めてパナマ運河を運営しているすばらしい中国の兵士たちを含むすべての人たちに、メリークリスマス」と投稿するなど、運河の運営を中国が担っていると主張しています。
さらに、トランプ氏は今月7日、グリーンランドとパナマ運河を得るために軍事的、経済的な圧力を行使しないかと記者団から問われると「いや、(軍事力・経済力を)使わないとは保証しない」と答えました。
こうしたトランプ氏の主張について、パナマのムリーノ大統領は先月22日に声明を発表し「パナマ運河とその周辺地域は隅々に至るまでパナマのものであり、今後も変わらないと明確に表明する。わが国の主権と独立に交渉の余地はない」と述べて反論しました。
さらに、ムリーノ大統領は「運河は直接的にも間接的にも中国やEU、アメリカ、ほかのいかなる国にも支配されていない。パナマ人として、この現実を誤解させるような発言を強く拒絶する」と述べています。
トランプ氏の一連の言動については、相手の譲歩を引き出して実利を得るための交渉術の一環だという見方がでています。

また、アメリカのメディアは運河の管理と運営はパナマ運河庁が担っているため中国が運営しているとするトランプ氏の主張は誤っていると指摘する一方、香港に拠点を置く企業が太平洋と大西洋の出入り口にある2つの港を管理していることについて、アメリカ政府は安全保障上の懸念をもっているとも伝えています。
前のトランプ政権時の2017年にはパナマが台湾との外交関係を断絶して代わりに中国との外交関係を樹立し、関係が緊密になっていて中南米諸国に中国が影響力を拡大させていることに神経をとがらせているものとみられます。

パナマで抗議デモも

発言の翌日の先月23日、首都パナマシティーでは抗議デモが行われ、参加者たちがトランプ氏の写真やアメリカの国旗を燃やして「祖国を売ることはない」などと声をあげました。主催したのは12万人の組合員を抱えるパナマ最大の労働組合で、今後、パナマ政府に対して断固とした態度をとるよう求めていくことにしています。

労働組合のサウル・メンデス書記長はNHKの取材に対し「(トランプ氏の発言は)世界の人たちにとって受け入れがたい帝国主義的な妄想だ。パナマには人々が平和に暮らし自分たちで物事を決め、主権を行使する権利がある。国民の生活の発展を妨げようとする、トランプ氏のような外国の干渉に対し、われわれは拒否する権利を持っている」と訴えていました。
NHKの取材班が街なかでも話を聞いたところ、全員がトランプ氏の発言に強い不快感を表しました。
このうち80代の男性は「どうでもいい発言だ。パナマ運河の返還なんて起こり得ないからだ」と話していました。
また中心部に住む女性は「パナマ運河はパナマのものだ。アメリカは何かを求める時に常に軍隊を使うのを得意としているが、今回はラテンアメリカの多くの抵抗にあうだろう」と話していました。
特に年配の世代の中には、1989年に当時、独裁政権を率いていたノリエガ将軍を追放するためにアメリカ軍がパナマに軍事侵攻したときのことを思い出す人たちも少なくありません。

マヌエル・バリオスさん(77歳)は、当時暮らしていたアパートの近くにアメリカ軍が侵攻してきたときのことを鮮明に覚えていると言います。
バリオスさんは「外をのぞいてみると、銃で狙われたので、すぐに隠れた。アメリカ軍は動くものを見ると銃を向けてきた。家の近くの病院に大勢の人々がたどり着き、爆撃で苦しむ人、泣き叫ぶ人や亡くなる人など、あらゆる人たちがいた」と述べ、数百人から数千人の市民が犠牲になったとされるアメリカの行動は決して忘れてはならないと話しました。
そのうえで「もしトランプ氏が武力を行使しようとするなら、強引にでもやるだろう。アメリカがかつて行ったような侵攻になるだろう。しかし今は状況が違うのだ。パナマはすでに安定していて、平和があるのだから」と話し、たとえ交渉のためだったとしてもトランプ氏の発言は許されないと訴えました。

ロシアメディアがプーチン大統領側近の懸念を伝える

グリーンランドをアメリカが所有すべきだというトランプ次期大統領の主張について、ロシアメディアは13日、プーチン大統領の側近のロシアのマトビエンコ上院議長が「このような発言の背景には、北極圏におけるプレゼンスを強化したいというアメリカの思惑がある」と指摘したと伝えました。
その上で、マトビエンコ議長は「ロシアにとって北極圏は戦略的にも地政学的にも重要であり、このような不可解なアプローチを懸念している。北極圏への進出にあたってアメリカによる国際法違反が起きないとも限らない」と述べ、トランプ氏の発言に懸念を示したということです。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250113/k10014691911000.html

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