はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

絵夢の会

2013-03-30 11:56:49 | はがき随筆
 「絵夢の会」というのがあり、妻はその会員です。50歳以上の貴婦人(?)6人で構成される霧島地区の油彩画の会です。彼女たちは一昨年、東京銀座の画廊を借り切ってグループ展を催しました。妻は早くから費用を積み立ててやる気満々。長いこと会えなかった学生時代の友人たちにいそいそとインビテーションカードを送りました。茨城の孫の家にも泊めてもらいました。普段、小言でうるさい私が留守番を買って出たので、ノンビリと羽を伸ばすこともできました。「会員のみなさん、展覧会の成功、心からおめでとうございました」
  霧島市 久野茂樹 2013/3/30 毎日新聞鹿児島版掲載

のんきでいいよ

2013-03-30 11:40:34 | 女の気持ち/男の気持ち
 隣に住む小学5年生の孫娘はのんきで、母親やじじばばをハラハラさせたり、驚かせたりする。
 大事な通知表やランドセルを教室に忘れはするわ、下校中友だちと遊びに夢中になり、外した眼鏡を置き忘れるわ……。あきれることが多すぎる。特にびっくりしたのは2年生の時、水泳の後にスカートの下はノーパンで帰宅したことだ。心配したが、本人は気持良かったのか、ケロリとしていた。
 彼女は学校が大好き。7時前には家を出る。冬は懐中電灯を照らしていくので笑ってしまう。苦手な教科は算数と理科。原因の一つは居眠りらしい。そのため学校が長期休暇に入ると補習授業を受ける。
 「先生も大変だね」と皮肉ると「友達が何人も来るし、先生もうれしそうだよ」と答え、走って学校に向かう。
 絵が好きな孫はよく賞を取るが、はしゃぐことはない。温和な性格と絵の才能は9年前に亡くなった父親の遺伝子を受け継いでいるのだろう。習字も好きで、2月14日には鹿児島面の「墨跡観望」に「火の用心」が掲載された。家族は喜んだが、当人は平然としていた。
 その日はバレンタインデー。クッキーを作って友だちの家を自転車で配って回った友だち思いの孫──。
 のんきでいい。勉強はほどほどできればいい。今のやさしい心で働く母親を支え、成長してくれればうれしい。
  出水市 清田文雄 2013/3/29 毎日新聞の気持欄掲載

ホワイトデー

2013-03-30 11:27:47 | はがき随筆


 退職したら義理チョコすらも、もらえないという情けない笑い話を耳にした。
 「おじさん、これ、昨日作ったの」と、キティちゃんの柄の袋を小6の女の子が手渡した。2月15日の朝、小学校校門前での保護活動中のことである。心根のきれいなその子の行いがうれしかった。
 何物にも代えがたい、行く末が楽しみな子がまた一人増えた。早速、ホワイトデーのことを考えた。 世界中で日本にしかないこの儀式、老いても華やぐのである。商魂とはいえ日本人も粋なことを考え付いたものである。
  いちき串木野市 新川宣史  2013/3/29 毎日新聞鹿児島版掲載

コゲラとの遭遇

2013-03-30 11:14:58 | はがき随筆


 コゲラを初めて間近に見たのは、平等院から宇治神社へ行く途中の宇治川の中州。5年前の雪のちらつく寒い日のことで、数羽のコゲラがしきりに木をつつく音が辺りに響いていた。旅の思い出の一コマだ。先日、近所の医院に検診に出かけた。川沿いの道を歩いていると、まだ固いつぼみの桜の枝をつついている1羽の小鳥に気付いた。「えっ、まさか」コゲラがうちの近所にいるとは。興奮を胸に収めて検診を受け、家に戻るや図鑑を引っ張り出す。全国の広葉樹林に生息とある。近くの山にもいたということかと驚き、うれしくなった。
  出水市 清水昌子 2013/3/28 毎日新聞鹿児島版掲載

遠い私

2013-03-30 11:02:57 | はがき随筆
 「お母ちゃん、どこ?」「ここだよ」「もっと近くに来て」。私はベッドの中のお父ちゃんにぐっと顔を近づけた。「これでいい?」「いや、まだ遠い気がするよ」。私はお父ちゃんの肩をぐっと抱きしめた。「でも、まだ遠い気がするよ……」。6年前に脳出血で倒れ、重度の半身まひ、2年前には脳梗塞で再び倒れ、右半身も一時的にまひし、胃ろうもつけるようになった夫が、そう言った。元気な自分が申し訳なく思った。その日は、ずっと手を握ってなるべく側にいた。遠い私がお父ちゃんのすぐそばに帰ってくるように祈って。
  鹿児島市 萩原裕子 2013/3/27 毎日新聞鹿児島版掲載

寒稽古

2013-03-30 10:45:49 | はがき随筆


 何十年も前、中学校で寒稽古大会があり、自分は柔道を選択して1勝2敗に終わり、残念な記憶がある。
 1月の大寒の頃、通学路の田んぼは霜が降り、真っ白な景色の中、一層肩をすぼめながら歩いたものだった。
 その気分を味わおうと、山仲間たちとテント泊まりの登山を企画した。
 テントを担いで出かけた高隅山系の山中では、大寒波と重なり、明け方は眠れないほどであった。
 久しぶりに5㌢ほどの霜柱を見て、寒稽古の頃を懐かしく思い出した。
  鹿児島市 下内幸一 2013/3/26 毎日新聞鹿児島版掲載