はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

「手作りかしわ餅 故郷の山の香り」

2013-08-07 23:33:15 | 岩国エッセイサロンより
2013年8月 7日 (水)

岩国市  会 員   横山 恵子

毎年夏になると、叔母夫婦が田舎から送ってくれた手作りの餅粉で、かしわ餅を作っている。かしわの葉は、家の裏にある線路の斜面から取ってくる。
 餅粉とお湯を混ぜて耳たぶくらいの硬さに練り、適度な大きさにちぎる。それで手作りあんを包んで、15~20分蒸す。このとき、葉を蒸し器に入れておくと、やがて心地いい香りがしてくる。
 私にとって、それは山あいの故郷の香りそのものだ。亡き祖母も、私にかしわ餅を作ってくれた。なつかしい山々や、レンゲ畑を走ったり川で泳いだりした幼いころの思い出もよみがえってくる。 
 先日孫たちと一緒に葉を摘んで餅を作ったら、喜んで食べてくれた。大人になったとき、かしわ餅を思い出してくれたらうれしい。

   (2013.08.07 読売新聞「気流」掲載)岩国エッセイサロンより転載






「8月、鎮魂歌」

2013-08-07 07:09:17 | 岩国エッセイサロンより

2013年8月 6日 (火)

岩国市  会 員   吉岡 賢一  

若い頃、田舎相撲で大関を張ったこともある元気印。健康に対して自信過剰の医者嫌い。そんな父が「夏風邪を引いたようだ」と珍しく弱音を吐いた。半分けんか腰で病院行きを勧めたが、頑として聞かない。食欲は落ちる一方。サイコロ状のスイカを口に押し込んで水分補給させる容体に、鳥肌の立つ危機感を覚えた。明朝緊急入院の手はずを整えたその夜、我が意を貫いたまま74歳の生涯を閉じた。発症から7日目、悔いの残る見送りとなった。

 あれから40年を経た今も8月が来ると、息子としての責任を果たし得たのか、複雑な思いが胸に迫る。

  (2013.08.06 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載