はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

忘れられない日

2013-08-15 12:37:35 | はがき随筆
 熱い日、近くの丘でチャンバラごっこをしていて、ついサツマ芋畑に入ってしまった。その瞬間右足に激痛が走った。「くぎだ!」と叫び、人を止めた。
 当時、芋畑には泥棒よけに五寸くぎを打ち、逆立ててあったのだ。仲間が声を合わせて抜いてくれたのでうれしかった。
 痛いので四つんばいになって帰っていると、島原半島の先で「ピカーッ」と閃光が走り、もくもくと上がる雲がきのこ形になっていく。足の痛みも忘れて不思議な現象に見入っていた。それは長崎に残酷な原爆が落とされた時……。6歳で荒尾から見たピカドンは忘れられない。
  出水市 清田文雄 2013/8/15 毎日新聞鹿児島版掲載

蝉時雨

2013-08-15 12:31:53 | はがき随筆
 テレビ体操をし、「さう今日も」と5本指の靴下に力を込める。制服にアームカバー、深めの防止と紫外線対策はOK。在宅の介護に携わった約10年。
 いつも待っていてくださるご夫婦。ご主人は身なり整然と柔らかな物腰の紳士。睡眠中の奥様は「もう朝ですか」と笑顔。着替えを手伝うと「すみませんねえ、いつも」と陽気である。洗いものをしていると「私がやりますよ、ハハハ」と用意した食事を口にされる。遠目にご主人の視線が優しい。羨ましく切ない。
 外に出ると、全てかき消すような蝉時雨……。それぞれに限りある生命のドラマがある。
  出水市 伊尻清子 2013/8/14 毎日新聞鹿児島版掲載

トンボの姿が

2013-08-15 12:18:36 | はがき随筆


 あんなにいたシオカラトンボの姿を、最近はほとんど見かけなくなった。山地や湿地だけでなく、住宅地まであらゆる環境に適応してふつうに見られ、もっともなじみの深いシオカラトンボの姿がない。
 庭の一角に、二十数年も前に造ったメダカの池でよく見かけていたので、来たら止まりやすいように棒を立てて待つことにした。
 数日後、干し物をしていた妻が「来てるよ。止まってるよ!」と呼ぶ。しめた! 急いで写真に撮りブログに書いた。あんなにいたトンボだったのに写真を取る手に緊張を感じた。
  志布志市 一木法明 2013/8/13 毎日新聞鹿児島版掲載

「消せぬ記憶」

2013-08-15 12:05:31 | 岩国エッセイサロンより
2013年8月14日 (水)

岩国市  会 員   横山 恵子

恒例の錦帯橋花火大会。朝からすし等作り大忙し。昼ごろから妹夫婦たちが次々とやってきた。にぎやかな夕食後、歩いて花火見物に出かけた。近くの橋はもう人、人、人。夜空に七色の星、大輪の花が咲く。
 「ドドーン」という音は、例年にも増して胸に悲しく響いた。それは昨年、父亡き後の花火大会の日。「そういえば父さん、花火を見に行ったことなかったね」と言うと、母のいとこが「それはね、花火は手榴弾の音に似とるんと。それを聞くと思い出すから……」と。花火見物できる幸せは、戦争の犠牲の上にあることを忘れまじ。 

  (2013.08.14 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載