はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

故郷忘じがたく候

2013-10-14 19:35:53 | ペン&ぺん


 「故郷忘じがたく候」はもちろん、「坂の上の雲」「竜馬がゆく」などで知られる作家、司馬遼太郎さん(1923~96)が、薩摩焼宗家十四代沈寿官さん(86)の生い立ちなどを描いた作品だ。68年に文芸春秋から発行され、今も文庫本で読まれている。
 400年前、朝鮮から連れてこられた初代沈家や今に至る一族の作品へのこだわり、日本人について、歴史観などを、わずかな時間で聞けるはずはないと分かってはいても、一度お会いしたいと思っていた。念願かなって、先日うかがった。
 十四代沈寿官さんが待つ日置市へ向かうと、ここは東郷茂徳・元外相(1882~1950)の出身地で、朝鮮の陶工の子孫であることを知った。
 お会いすると、日韓関係など時間の許す限り話してもらった。私の父と同じ1926(大正15)年生まれ。少年時代や戦前戦後の激流を生きてこられた。時代に翻弄され、境遇は筆舌に尽くしがたいものであったろう。
 早大を卒業し、郷里で薩摩焼を継ぐ旨の話を東京の知り合いに告げると「やっばり、鹿児島ですね。サツマイモを焼いて暮らしていくんですか」と、就職先を心配してくれたという。「当時、それくらい薩摩焼は知られていなかったのです」
 司馬さんの文章にもあるように、十四代沈寿官さんは多くをユーモアを交えて薩摩弁で話した。でも一つだけ険しい表情で「この道で生きていこうと決めた時、友人、知人に頼らないよう大学の卒業名簿や住所録を全て焼きました」と打ち明けた。まさに鹿児島で生きる決意、覚悟の強い表れだった。沈家の歴史と十四代沈寿官さんの半生はすなわなち、日本史だ。己の生き方や作品には厳しい目を持ちつつ、訪ねてくる他者へのまなざしは柔和だ。朝鮮、日本、薩摩でできたDNAは何て熱くて優しいのだろう。
  鹿児島支局長 三嶋祐一郎 2013/10/14 毎日新聞鹿児島版掲載

平和のバラ

2013-10-14 18:41:07 | はがき随筆




 前に読んだ名作「アンネの日記」に強い感動が残っている。アンネゆかりのバラがある、かのやバラ園へと出かけた。広いバラ園が眼下に広がる。学名スヴェニール・ドゥ・アンネ、通称「アンネのバラ」が鮮やかにかれんに咲いて哀惜の思いが。
 白いボードにバラの由来、歴史が詳しく説明されている。わずか13歳の少女が「今度生まれる時には世界平和に役立つ人に」と書き残し、強制収容所で消えた。遠いオランダの空から「私は死んでなんかいません。千の風になり、この風光明美なバラ園で生きています」との声が心の中に聞こえる思いがした。
  鹿屋市 小幡晋一郎 2013/10/14 毎日新聞鹿児島版掲載
写真はアンネのバラの教会写真集より

一人じゃないよ

2013-10-14 18:33:43 | はがき随筆
 何年ぶりだろう。訪れた食堂のガラス戸を押すと、少し固くなっていた。体が少し不自由な夫を待って中に入り、カウンターのメニューを見た。定食とレディース、肉と魚に分けた献立は日替わりで、手書きだった。
 二つ頼んで「お久しぶり」とあいさつ。目が合い、「ああ」との答えに「ホッ」。窓辺に並びお茶を取りにセルフサービス。料理もでき次第取りに行く。帰り際に顔見知りに会う。退職後一人になり昼食はここで取るという。「お大事に」。職場の食堂を時間をずらして使わせてもらい、庶民は誰にともなく感謝の気持ちに満たされる。
  鹿屋市 小幡由美子 2013/10/13 毎日新聞鹿児島版掲載

我が家の秋…

2013-10-14 16:19:29 | アカショウビンのつぶやき
我が家はフェィジョアの季節です。



昨年の強剪定いらい、実が少なく今年も例年の半分でしょうか。
実が少ないから、大きくなるだろうと期待したのですが…。
 
どうも例年通りのサイズのようです。
でも味と香りは満点!

フェイジョアのファンが、「まだ?」
と首を長くして待っています。



まず初物は夫に供えて…



フェイジョアの開花は5月ですが、あでやかで美味しい花です。



こちらでは、萩とるりまつりが競演です。



これから

2013-10-14 16:12:37 | はがき随筆
 検査を受けると、結果は検査で再検査となる。79歳で元気なつもりの私も、検査は苦痛である。「異常なし」の結果はうれしいが、10年このかた検査方法に改善はない。
 ぽっちゃ型という体脂肪、筋肉質で、分からない標準。栄養は野菜を取ることとの指導。おっしゃる通りの野菜を買い、具たくさんのみそ汁を日に3杯準備するにはこのご時世、高い野菜を買わねばならない。それらを思うと病気になりそう。
 それも一人暮らしの年金生活者。もらったお菓子をおいしいと食べ、普通の食事をしたら先々迷惑かけますか?
  鹿児島市 東郷久子 2013/10/12 毎日新聞鹿児島版掲載

運動会の弁当

2013-10-14 16:03:18 | はがき随筆
 子どもたちの小学校の運動会には徹夜で弁当を作り、親戚や近所にも配っていた。近年は孫達の運動会に少し作るだけで、随分楽になっていた。
 今年も運動会が近まり、小学1年生の孫に「運動会のお弁当は何がいい?」と聞いてみた。「コンビニのおにぎり」と即答であった。返す言葉もなく、唖然としていると、「巻きずしやら何やらいらんど、おにぎりと魚の塩焼きでよかど」と夫のでかい声が、背後から追い打ちをかけた。
 長年作り続けた私の弁当作りも残念ながら、卒業の秋となりそうである。
  出水市 塩田きぬ子 2013/10/11 毎日新聞鹿児島版掲載

ウッチャンかよ

2013-10-14 15:56:14 | はがき随筆
 妻の姉が今春亡くなった。葬儀後も妻は、12㌔離れた自宅と実家を何度となく往復した。住む人がいなくなった家の、部屋の整理や水道、ガスなどの停止、公共料金の支払いのためだ。
 そんな「残務整理」もやっと落ち着いた夏、1通の転送封筒が自宅に届いた。電話会社からの請求書だった。実家の5月分の使用料の延滞利息払いを求めていた。
 ウッチャンこと内村光良のネタに、10円を集金するため飛行機で訪問するコントがあった。封書にある請求金額4円を見たとたん、妻と私は「ウッチャンがきた」と同時に声を上げた。
  鹿児島市 高橋誠 2013/10/10 毎日新聞鹿児島版掲載

甚平さん

2013-10-14 13:04:59 | はがき随筆


 昨年の夏から引き続き手掛けていた甚平さん作り。今年は息子の娘、孫2人にと生地選びにはじまり、教本から型紙作りへと重い腰を上げ、やっとの思いで出来上がった。焦る私を尻目にミシンの調子は悪くなるわ、夜に縫おうとすると眠気が襲って来るわで大変。秋祭りに着てもらうしかないと気持ちだけが先走る。
 どうにか縫い終え、即刻送った。翌日、お嫁さんからお礼の電話がきた。ただし「ひもがついてるけど左右のどちらが上?」という。「内側にひもがあるでしょう」と私。やっぱし現代っ子、さもありなん。
  鹿屋市 中鶴裕子 2013/10/9 毎日新聞鹿児島版掲載
写真は中鶴さん提供

H空港で

2013-10-14 12:57:37 | はがき随筆
 緑の森の中に大小の湖が水玉模様のようだ。針葉樹に囲まれた赤い屋根の家々はおとぎの国のよう。ミラノへの乗り継ぎのために飛行機の中から見たヘルシンキ(Helsinki)空港周辺の落ち着いた美しさ。
 ユーロ圏の最初の国への入国審査は厳しい。特に一人旅は。白人男性の審査が長引いている。それを見た若い日本人女性が話し掛けてきた。ツアー客に紛れ込みたいかのように。
 1週間かけてフィンランドを回るという。彼女の勇気に感心しつつ、お互いさまではあるが、旅の安全を祈らずにはいられなかった。
  霧島市 秋峯いくよ 2013/10/8 毎日新聞鹿児島版掲載