
2013年10月21日 (月)
岩国市 会 員 山下治子
新聞を取りにドアを開けると、朝の透けた風と共に、思いっきり甘い香りが飛び込んできた。玄関脇のキンモクセイが満開だ。三十数年前、産院の窓からふわっと漂ってきたのが、この香りだった。「ようこそ、すてきな季節に生まれてくれて」と授乳しながら、母になれた至福の思いに浸ったあの日を懐かしむ。
その子は元気でさわやかに育ったが、10年前の事故で人生が変わり、思いに任せぬ障害を道連れにしながら、社会の波に戻ろうとゆっくり頑張っている。今朝も弁当をかついで出かけた。キンモクセイの香りが後を追う。
(2013.10.21 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載