はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

桜の季節に

2015-03-28 22:02:27 | ペン&ぺん
 


全国のトップを切って21日、鹿児島で桜(ソメイヨシノ)の開花が発表された。春本番だ。
 この季節になると、鹿屋市で開かれる特攻隊の戦没者慰霊祭を思い出す。戦争末期、海軍の鹿屋航空基地から多くの特攻機が出撃し、南海に散った。戦後は海軍から海上自衛隊の航空基地となり毎年4月に小塚公園の慰霊塔で営まれている。20年前、私は鹿屋通信部の記者で慰霊祭を取材。家族らが参列する公園上空を海自の航空機が慰霊飛行したのが忘れられない。特攻機も眼下の桜を見て、沖縄方面に向かったのだろう。遺族の高齢化は当時から顕著で父や兄弟を失う悲しみ、戦争の非情さを語り継ぐ人たちが少なくなっている。MBCテレビでドラマ「永遠の0(ゼロ)」が放送されたこともあって、娘2人を連れ、鹿屋市にある海自の鹿屋航空基地資料館を訪ね、零戦の復元機や戦死した若者らの遺影、家族宛の手紙などを見た。生きていれば89歳で、敗戦の年に20歳だった私の父と多くの特攻隊員が同世代。18歳の長女は「私と同年齢の人やおじいちゃんと同級生ぐらいの人が大勢いたよ。死ぬ前にこんな立派な手紙は書けない」と信じられない様子だった。
 選抜で神村学園は強豪校の仙台育英(宮城)に破れたが、最後まで諦めず、高校生らしいプレーを見せてくれた。県外から「鹿児島の神村」を志して進学してくる選手も多い。毎日新聞社が「選抜」の主催者だからではないが、選手らは取材に対し、誠実に受け答えした。鹿児島の皆さんの応援や協力があったからこそ、甲子園の土を踏めたのだと感謝している。今大会は、本来の実力を出せなかったが、夏の甲子園も、来春の選抜もある。
 この春、受験で失敗した人も、進路の希望がかなわなかった人も、悔しさをバネに、努力を忘れず、大きな夢に向かって再び挑戦してほしい。
 鹿児島支局長 三嶋祐一郎 2015/3/25 毎日新聞鹿児島版掲載

昭和19年戦死

2015-03-28 21:53:18 | はがき随筆
軍港だった佐世保の宿に面会に行ったのは、私が4歳になる少し前の3月か。面会でごった返すその日のことはぼんやりと覚えている。「母ちゃんのげたを履くな」とよその子に言ったとか。2人並んで座るように父と母をくっつけたとか。一緒に行った伯母がよく話してくれた。だからか、その日のざわめきは耳に残るのに、父の顔も姿も声も思い出せない。もうこれが最後だろうと父ははっきりと言ったという。その時の父の気持ちを思うと切ない。父の乗っていた艦は3月25日に出航。6月8日に南洋で敵の雷撃に沈没。2日後に父は戦死した。
  霧島市 秋峯いくよ 2015/3/25 毎日新聞鹿児島版掲載

毎日俳壇年間賞

2015-03-28 21:44:39 | はがき随筆
 例年のごとく本紙に平成26年度毎日俳壇年間賞が発表されました。小川軽舟先生選<ポケットの外は教室雨蛙>の私の句が選ばれたのです。
 「やったあ、万歳!」。4年前の受賞に続き、2度目の快挙です。思い起こせば、俳句も短歌も川柳も誰彼の師事を受けるでもなく、7年前に手探り状態で始めたのです。
 本来なら句会や歌会などにも足を運び、幅広く研鑽を積まなくてはいけないのでしょうが、無手勝流を通しています。どうかお許しください。賞金はそっくり妻にプレゼント。再び私の旅は続きます。
  霧島市 久野茂樹 2015/3/24 毎日新聞鹿児島版掲載

浄土への入り口

2015-03-28 21:37:35 | はがき随筆
 昨年1月、私は腹部大動脈瘤の手術で全身麻酔をしました。背中の下の方にチクリチクリと針で刺したような感触、そのうちに脳の方に麻酔が効いてきて、何も感じなくなりました。
 「済みましたよ」との看護師さんの声に目を開けると、そこは病室のベッドの上でした。私は記憶をたどろうと一生懸命考えましたが、何も思い出せません。完全な無の世界の4時間、夢も見ていませんでした。
 もし手術に手違いでもあって死ぬことがあったとしたら、その時花園が見えたでしょうか。いいえ何も見えません。「千の風」も吹いていませんでした。
  鹿児島市 野幸祐 2015/3/23 毎日新聞鹿児島版掲載

通知表

2015-03-28 21:30:51 | はがき随筆
 実家で中学の通知表を見つけた。1年生のもので、担任は理科の山口重夫先生。40代のおおらかな先生で、生意気盛りの私たちは伸び伸びと勉強できた。
 当時、私の身長は133㌢、体重が27㌔。通知表には虚弱体質を心配されたのか「夏休み中に鍛錬をするように」。学習面では「読書は思考的な読み物を心掛け、点数に拘泥せず実力をつけるように努力しなさい」と。きれいな文字で書かれている。
 先生は2年間、担任をされたが、卒業後一度もお会いすることはなかった。六十数年ぶりに出会えた通知表。先生に感謝し、大切にしまっている。
  鹿児島市 田中健一郎 2015/3/22 毎日新聞鹿児島版掲載

僥倖

2015-03-28 21:22:26 | はがき随筆
 揺るぎなき幸福などありえない。日々の営みの中で私たちにもたらされるささやかな幸せは、時にもろく、時にはかない。それはこの世に生を受けたもの全てにつきまとう、運命。
 「いつ、何時、何があるかわからない」幾多の災厄の度に人々が感じる畏れ。だからこそ願う「恒久の平和」。
 どんなに大切に守り、育んでも、いつかは失われてしまう運命にあるこの世の命たち。私たちはこの命の輝きによってのみ、真の幸せを知る。
 生きとし生けることの幸せ。それこそがまさに僥倖。天から与えられた賜物(ギフト)。
  鹿児島市 奥村美枝 2015/3/21 毎日新聞鹿児島版掲載

便秘

2015-03-28 21:14:33 | はがき随筆
 9年前に炊事軍曹を引き受けて、私は野菜をほとんど出さなかった。それまでも便秘がちな母が「出ない、全く出ない」と朝、大騒ぎを始めた。
 母は93歳になる。今更と思いつつも、3食にサラダを付け、緑の野菜も付けた。20日も過ぎた頃、「ちっとじゃが、出たよ」と喜ぶ。1ヶ月経過した朝、「でた、出た……」と。母の歓声がボロ家をゆする。
 あまりにも早い効果に、母は目をパチクリしてはしゃぐ。もっと早く、野菜中心の食事にしなかったのか。炊事軍曹は臍を噛む。「難儀をさせて、ごめんなさい」
  出水市 道田道範 2015/3/20 毎日新聞鹿児島版掲載