はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

孫育てを楽しむ

2015-11-08 21:38:30 | はがき随筆
 奈良の聖地から娘婿と晩遅く帰宅。一休みして中1の孫息子の明日の体育祭の弁当を作る。買えば楽だけど、ご近所にもあげることだし。手順は例年通り。娘とおしゃべりしながら作る。場所取りは婿殿の役目。
 高校球児で「平成の怪物」といわれる清宮幸太郎さんのお父様は元ラガーマン。文武両道で子育てをしておられる。「一生のうち15年しか子育てを楽しめない、その15年間を全力で楽しみましょう」と書いておられる。弁当作りも孫育てに一役。子らの成長ぶりがまぶしく、敬老席で目がウルウルした。
  鹿児島市 内山陽子 2015/11/8 毎日新聞鹿児島版掲載



秋が空き

2015-11-08 21:31:40 | はがき随筆


 秋峯さんの秋が来ましたねと言われてうれしかった。
 洗濯物を干しながら見上げると、澄み切った朝空に半月が白く浮かんでいる。庭にはシュウメイギクが風に揺れ、この花をくれた友を思う。ムラサキシキブの小粒の実も鈴なりになって艶やかに光っている。電線ではキキキッとモズが鋭く鳴いた。
 家の前は一面のソバ畑で白い花の海。小蜂やチョウが飛び交う。あっ、モクセイの香り。私の畑には9月初めにまいた大根、ホウレンソウ、水菜などが伸びてきて、軟らかく青い間引き菜はもう食べられる。草むらでは虫が思い思いに鳴いている。
  霧島市 秋峯いくよ 2015/11/7 毎日新聞鹿児島版掲載


屈辱

2015-11-08 21:15:53 | はがき随筆
 音楽というと、苦い思い出がよみがえる。高校入学時「選択科目」として美術・音楽・書道から、履修したい1科目を選ばされた。私は自信がある順に①美術②書道③音楽と記した。結果はあろうことか第3希望の音楽。しかも担当教諭はチョビひげを蓄えた気障を地で行く男。手始めに「野ばら」をドイツ語で歌うとおっしゃる。地獄の幕開けであった。ちなみに1学期の音楽の成績はなんと「赤点追試」という散々なもの。そんな屈辱的な過去にもめげず、最近チェロに挑戦したくなった。はてさて、どうなることやら。乞うご期待!
  霧島市 久野茂樹 2015/11/6 毎日新聞鹿児島版掲載

鼓川のせせらぎ

2015-11-08 21:15:22 | はがき随筆
 市内皷川の崖崩れの跡を見に行った帰り道、どうも迷ったようだった。先の方に交差点が見えたので行ってみると、そこは5差路になっていた。ますます分からなくなった。
 そばに5人の女子高生がいたので聞いてみた。「こっへ行けばどこに出るの?」「吉野ですよ」「こっちは?」「そっちは街に出るよ」
 あらまし目鼻がついてきた。「ああそうか、ではこの店は以前文房具店だったよね?」
 今度は生徒の方がとまどった。「それ何年前の事ですか?」
 いくらなんでも60年前とは言えなかった。
  鹿児島市 高野幸祐 2015/11/5 毎日新聞鹿児島版掲載

消えた恋人

2015-11-08 21:14:46 | はがき随筆
 大学に入学するとすぐ空手部に入部し、精神の鍛錬に徹し、朝に夕に求道的な練習をした。2年もすると全身は引き締まり、肉体は驚異的に発達したが、何故かむなしかった。
 その前兆は高校時代からあった。猛勉強して成績が良くても心底から喜べなかったのだ。
 そんな憂愁の日々の中、岡本太郎25歳の作〈傷ましき腕〉に遭遇した。衝撃が走った。拳を握り締め地面にうつぶした孤独なリボンの男は、オレと同じ心の傷に苦しんでいる! この傷は一体何なのか! それは消えた恋人を探すような果てなき旅の始まりだった。
  出水市 中島征士 2015/11/4 毎日新聞鹿児島版掲載



民具

2015-11-08 21:14:12 | はがき随筆
 「食生活から消えゆく民具」の題の講演を聴いた。講師は学生時代より民具調査をされ、学会報告されている女性の方だった。かつて実家にはザル、ショケ、ツボはもちろん、三角ナベシキ、イイナベまであった。そういえば亡くなった祖母がイイナベでお茶を煎っていた様子が目に浮かぶ。
 講師が、スリコギがミキサーに変わったように生活様式の変化で消えようとしている民具が多い旨説明された。亡き父がかつてワラで作っていたムシロが民具であると聞き、実家にある十枚ほどのムシロを後生大事にしようと誓った。
  鹿児島市 下内幸一 2015/11/3 毎日新聞鹿児島版掲載

同窓会

2015-11-08 20:52:15 | はがき随筆


 民宿を営む級友を頼って中学校のクラス同窓会が宮古島であった。国内外から参加者が一堂に会した。島内一週の観光では念願の伊良部大橋も渡った。白い砂浜に紺碧の空と海、水平線も一望できた。運良くウミガメにアオブダイも見られた。水中観光船にも乗船し、サンゴ礁や色鮮やかな魚群にしばしスキューバダイビングの気持ちに浸れた。夜は海の幸に舌鼓を打ち、病気自慢も加えて、掛け合い漫才のようなトーク。座は大爆笑で盛り上がった。当時は男子と口など利いたことなどなかったのだが、古希祝いでの再開を誓い、楽しい思い出に別れを告げた。
  鹿屋市 中鶴裕子 2015/11/2 毎日新聞鹿児島版掲載