はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

渋抜き

2015-11-10 20:31:53 | 岩国エッセイサロンより
2015年11月10日 (火)

岩国市  会 員   片山 清勝

今年も渋柿をもらった。皮を剥き、軒下にぶら下げ陰干しにして干し柿にする。この作業を始めると「熟すまで待つ」という祖母の渋抜きを思い出す。

木箱に、青く硬い柿を並べ、それをもみ殼で覆い隠し、蓋をしてそのままにしておく。年が明けると祖母は蓋を開ける。待ち遠しい一瞬だ。もみ殼を除くと、赤い熟し柿が姿を現す。

果肉のとろっとした口触り、その中に満ちていた甘さは今も覚えている。この技を受け継がなかったことを残念に思う。

10月から後期高齢者に。身についたいやな渋をどうして抜くか思案している。

  (2015.11.10 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載

トゲ

2015-11-10 05:49:30 | はがき随筆
 「トゲが刺さった」と太い腕を差し出す。「どれどれ」と私は針をあぶり、チクチクと取り出す。夫は元気で働き者だった。左官職人でブロック塀や壁塗りはお手の物。こて道具を操り、その手さばきは熟練の素手のなせる技。
 仕事の需要が減り、建築関係に従事した。体を動かすのが大好きな人だった。やはり素手の荒仕事。そんな汗の現場の男が気弱な顔を見せる。こんな小さなトゲにとおかしくもあった。毎朝、制服もさっそうと出かけて行く後ろ姿の頼もしかったこと。私の心に、未練のトゲは刺さったまま。
  出水市 伊尻清子 2015/11/10 毎日新聞鹿児島版掲載