はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

長生きしてよ

2015-11-20 22:52:22 | 岩国エッセイサロンより
2015年11月20日 (金)

岩国市  会 員   貝 良枝

早朝、電話が鳴る。出られなかった。また鳴る。出ると切れた。

 父も義母も亡くなった知らせは早朝だった。そう思うとやっぱり気になる。着替えもそこそこに、母の家に急ぐ。

近ごろ、顔が小さくなったなアと感じていた。昨日は足がむくむと言っていたなア。

鍵は開いている。声をかけたが返事はない。

「お母ちゃん!」

 洗面所から驚いた様子の母がのぞく。

 「お、おはよう」。電話は母ではなかったようだ。ひとり胸をなでおろす。母87歳、一人暮らし。

    (2015.11.20 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載

はがき随筆10月度

2015-11-20 17:30:55 | 受賞作品
 はがき随筆の10月度月間賞は次の皆さんです。

【優秀作】25日「蝸牛」堀之内泉=鹿児島市大竜町
【佳作】1日「置きみやげ」竹之内政子=垂水市田神
▽6日「防止帽子」門倉キヨ子=鹿屋市串良町


 「蝸牛」は、カタツムリの観察が実に細やかです。文章は観察であると言ったのは島崎藤村でしたが、鋭い歯や殻の入り口の薄い膜など、普通は気づきません。その観察を支えているのは、「露払い」とか「晴耕雨読」などの比喩の巧みさです。結びに昆虫(自然)と人間との共生の難しさに触れているところは考えさせられます。
 「置きみやげ」は、地域とのつながりを大事にした高校の校長が、彼岸花を校庭に植えることを提案した。十数年がたった今、彼岸花は確実にお彼岸ごろに咲き、見ていると肉親を思い出す。それを植えた先生に報告したいという内容です。先月も触れましたが、確かに彼岸花は懐かしい花ですね。
 「防止帽子」は、以前転倒したことがあったが、それを心配した知人が手のひらに5個も載るくらいに小さな手編みの帽子を贈ってくれた。どうも転倒防止(帽子)のシャレらしい。あちこちに付けてマスコットにしている。読んでいて温かい気分になる文章です。この他に3編を紹介します。
 高橋誠さんの「ミイバア」は、近くの雌猫が食事どきになると食事をしに来る。食べ終わると「あいさつもせず(?)」に自宅へ帰っていく。人間でいえば後期高齢者にもあたろうか、顔を見ると愛嬌があるので、「ミイバア」と読んで夫婦で可愛がっている。傍若無人は言い過ぎかもしれませんが、猫の態度が目に見えるようです。
 年神貞子さんの「いとおしき虫たち」は、年々、小鳥や虫が少なくなる。季節には菜園で見かけたアオイトトンボもハグロトンボもトカゲも見なくなった。理由はどこにあるのだろうか。風呂場の窓のヤモリだけがいとおしいという、現代版の「虫愛づる姫君」です。
 武田静瞭さんの「花の名で脳トレ」は、美しい花を楽しんでいても、その名前がなかなか思い出せない。パソコンで調べて思い出したが、1時間もたつとまた忘れた。夫婦で花の名を当てっこして脳トレに励んでいるという、微笑ましい内容です。
  鹿児島大学名誉教授 石田忠彦 2015/11/19 毎日新聞鹿児島版掲載

夜明けの鶴

2015-11-20 17:29:06 | はがき随筆
 庭に出ると、夜明け前の満点の星が美しい。車を出して鶴の越冬地に行ってみた。クワッ、ピヨッ、クワー。遠くねぐらの水が細く光るほかは何も見えない。双眼鏡をのぞくと水の上に鶴が黒く見えた。しばらくしてひときわ高く見える紫尾山の尾根の後ろから明るくなると、鶴は餌を求めてだろう飛び立った。
 辺り一面二番穂が垂れ、あちこちに降りて行った。なんと優雅な夜明けの風景だろう。まだ鶴の飛来も少なく、幼鳥の鳴きが可愛い。ちょうど高尾野中学のクラブのカウントで350羽だそうだ。今年も万羽鶴を期待しながら帰路に就いた。
  出水市 年神貞子 2015/11/19 毎日新聞鹿児島版掲載