はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

昭和史に添えて

2015-11-11 21:29:22 | はがき随筆
 武蔵野の雑木林の中で育ったぼくは、空襲で逃げ惑う恐怖は知らない。焼け野原も、死屍累々の惨状を直視することもなかった。しかし、紙一重の場所では逃げ場を失った人たちが灼熱の中で息絶えた戦争。平和であれば、戦争さえなければと、困窮の中から一歩一歩歩んできたのがぼくの昭和史である。
 あのぼうぜん自失の一簿手前で不戦を誓ったはずだが、状況次第では戦闘も許さないと言いだした。国連要請の支援とは訳が違い、はっきり敵対関係を打ち出すという。憲法解釈をゴムのように伸ばして、悲しい平成史は書きたくない。
  志布志市 若宮庸成 2015/11/11 毎日新聞鹿児島版掲載

うらなり万歳

2015-11-11 21:09:14 | 岩国エッセイサロンより


2015年11月11日 (水)

岩国市  会 員   安西 詩代

「これ、うらなりだけどおいしいのよ」とミニトマトを夫に差し出した。夏は終わり葉も枯れてきたのに、枝の先にまだまだたくさんの実が色づいている。

 私は七兄姉の一番下。「どうせうらなりだから」と反抗すると、母は「うらなりはあなたみたいに大きくならないのよ」と答えた。10歳上の兄が戦後食料がなく、農家に毛布を持って行き、お米と交換してもらったそうだ。お陰で一度もひもじい思いをしたことはなかった。

 「うらなり」は一番得だった。

 うらなりトマトを食べた夫は「うまい!」と言った。私が褒められた感覚になった。

(2015.11.11 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載