はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

毎日はがき大賞に山下さん

2018-06-05 21:17:19 | 受賞作品
 第17回毎日はがき随筆大賞に山口県岩国市、山下治子さん(70)の「老いて『ごっこ』」(昨年8月20日掲載)が選ばれ2日、福岡市中央区のアークホテルロイヤル福岡天神で表彰式が開かれた。
はがき随筆は九州・山口の毎日新聞地域面に掲載しており毎年、各地の年間賞13作品から大賞などを選んでいる。
表彰式には約130人が参加。選者を務めた芥川賞作家、高樹のぶ子さんが山下さんの作品について「夫婦の会話が生き生きしている。小説を読むような感じがした」と好評した。山下さんは「思いがけない受賞で『まさか』と思いました」と喜びをかみしめた。
 また「働く」をテーマに募集した「文学賞」には167点の応募があり⑤作品が選ばれた。
【石井尚】

大賞受賞作品

老いて「ごっこ」 山口県岩国市・山下治子
 大きな水筒に冷茶を入れる夫に「暑いから今日はやめたら」と言うと「悪魔よ、ささやくな。野菜という子供たちが待っている」と畑へ向かう。昼近くに「こんちわぁ、奥さん」と裏口から声がかかる。「採れたて野菜はいかがスか」「あら八百哲さん、今日もすごい収穫ね」とバカな八百屋ごっこが始まる。

 定年してはや5年。ちびけた不細工な野菜ばかりだったのに、このごろは品数も増え豊作だ。ご近所にお分けする。「八百哲さん、お代は冷たいソーメンでいかが。スイカもつけるわ」

 あれほど肉食系だった夫は今、青虫のごとく菜食で元気だ。

胸きゅん!

2018-06-05 21:06:07 | はがき随筆


 夫が丹精込めて育てているバラが、今咲き誇っている。昨年まで遠くで暮らしていた孫たちは春のきれいな庭は初めてで、目を輝かせ「きれい~」「香りがおしゃれ」「名前は?」と興奮気味。1番好きな花は、大きな白いバラ、2番目はフリルのピンクのバラと言いながら、写真を撮る。「Kちゃんのブライダルブーケをこの花々で作りたいね」と話すと、小さな両手を広げ指を折り始め、拳が二つになる前「まだまだだぁ」とはじけるように笑う。仕草と笑顔に胸きゅん! バラの香りに包まれ幸せなひととき。バラの管理を夫へ感謝しつつエールを送る。
  宮崎県延岡市  川田久美子(67)  2018/6/5 毎日新聞鹿児島版掲載

「ざん」という字

2018-06-05 20:48:16 | はがき随筆
 このごろ新聞でしきりに「改ざん」の文字を目にする。私のように旧漢字で育った者には平仮名交じりで書かれるとピンとこない。あまり良くない意味があるとは知っているがどんな字だったのかは忘れてしまった。
 「ざん」を字引きで調べてみたら穴冠に鼠で「竄」とある。穴の中で何やらこそこそ悪さをするということかな。ネズミ君には気の毒だがこんな文字を作った昔の人は面白いというか辛辣な発想をするものだ。でもこのごろは穴の中にも隠れずに堂々と字面や意味を都合よく改めていく向きもあるようで……。良い世の中ではないなあ。
  熊本市中央区 増永陽(87)  2018/6/4 毎日新聞鹿児島版掲載

エンドウ

2018-06-05 20:40:20 | はがき随筆
 10月に種まきしたエンドウが収穫できるようになり、一さや一さや摘むうちに、遠い昔を思い出した。子どもの頃、下校途中に突然空襲警報のサイレンが響いた。私は防空壕が見つからず、道路沿いにあったエンドウ畑に身を隠した。伸びたエンドウのつるの間から空を見上げると、B29の編隊が爆音を響かせて通り過ぎていくのが見えた。爆弾が落ちてくるのではないかと心細さにこわばった。まもなく爆音は遠のいたが、なかなか警報解除のサイレンがならなかった。
 今見上げる澄んだ静かな青空、戦争のない穏やかな日々を幸せに思う。
  鹿児島県出水市 年神貞子(82)  2018/6/3 毎日新聞鹿児島版掲載

ガソリン価格安定を

2018-06-05 19:48:22 | はがき随筆
2018年6月 5日 (火)
   岩国市   会 員   片山清勝

 レギュラーガソリンの1㍑当たりの小売価格が、全国平均で150円を超し、3年5カ月ぶりの高値と報道された。中東情勢の不安定化で、産油国からの原油輸出が減るとの観測が強まったことが原因という。
 利用しているガソリンスタンドからメールが届く。いつもは顧客へのサービスを知らせるうれしい内容だが、ここ2回は違った。
 5月中旬のメールで「明日から全油種3円値上げになります。ご迷惑をおかけします」。それから8日後にも同じ内容のメールが届き、わずかな間で6円の値上げに驚いた。その頃から店頭表示が150円前後に変わった。
 若者の車離れや、低燃費車の普及などでガソリンスタンドの経営は厳しい。セルフ給油などの経営努力には、利用する側からすれば不都合も感じるが我慢してきた。さらに、ガソリンスタンドの減少は社会問題であり、特に山間部での閉鎖は生活に直結している。
 産油国の情勢で、国民が一喜一憂しなくても済む価格の安定策を国は進めてほしい。 

    (2018.06.05 中国新聞「広場」掲載)

白黒フィルム

2018-06-05 19:47:29 | 岩国エッセイサロンより
2018年6月 1日 (金)
   岩国市   会 員   片山清勝

 富士フイルムの白黒(モノクロ)フィルムと白黒印画紙の全てについて販売を終了するという。フィルムは今年10月、印画紙は2020年3月までに出荷を終える。
 カラー写真が当たり前となり、さらにデジタルカメラが普及した現在、こうした日が来ることは分かっていた。しかし、若い頃に愛用した者の一人として、残念な気持ちを隠せないでいる。
 自分のカメラを月賦で買ったのは、社会人となった春である。もう60年近く前になる。フィルムは白黒で36枚撮り、プリント(DPE)は写真店依頼でスタートした。
 小遣いはわずかだったので支払いが負担だった。そのため1枚撮るにも構図、絞り、シャッター速度などよく考えてシャッターを切った。デジカメと違い、DPEを受け取るまで撮れ具合が分からない。不安でもあり楽しみでもあった。
  「白黒写具は、被写体が赤なら、見る者に赤と感じさせる撮り方がある」。愛好家の先輩はよく言った。私の写真を細かく評してくれもしたが、習熟しないままカラーの時代に移った。
 フィルムとDPE代は膨らんだ。アルバムを繰ると、子の成長記録としてはカラーでよかったと思う。
 デジカメが普及して、従前とは一線を画す時代になった。一枚一枚を考えて撮る慎重さを忘れていった。
 白黒のネガフィルムは大事に保存している。いつかスキャンし、丁寧に撮った若い頃を回顧してみたい。

      (2018.06.01 中国新聞セレクト「ひといき」掲載)