はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

写真の師匠

2018-06-08 17:54:05 | 岩国エッセイサロンより
2018年6月 8日 (金)
   岩国市   会 員   片山清勝

 昔、愛用していた写真用白黒フィルムの販売に幕が下りる。白黒は、1枚ごとに構図、絞り、シャッター速度を考え「赤色は赤と見えるように」とシャッターを押させた。撮るとプリントはカメラ店へ依頼した。デジカメと違い、それを受け取るまでの不安とドキドキ感、今では味わえない楽しみだった。
 納得の1枚も白黒写真はセピア色になる。それは過ぎた時間を懐かしむ思いが色彩になってにじみ出るように思える。
 写真は一枚一枚を丁寧に撮ること、そう教えてくれたフィルムの教訓、デジカメに変わってもそれは生きている。

    (2018.06.08 毎日新聞「はがき随筆」掲載)


男性料理教室

2018-06-08 17:49:44 | 岩国エッセイサロンより
2018年6月 8日 (金)
   岩国市   会 員   吉岡賢一

 地元の男性料理教室に通うようになって2年が過ぎた。3年目に入ったといっても、ベテランぞろいの中ではまだまだ駆け出し。右往左往することがまだ多い。       
 食生活改善推進協議会の女性会員から優しくも厳しい指導を受けてきた。おかげで、半月切りやいちょう切り、みじん切りなどの包丁さばきが多少なりとも身に付いた・・・と思う。
 しかし、この教室で得た最大の収穫は他にある。世の中の全てに対し、改めて感謝の意識が芽生えたことである。 
 小皿に載るわずかな料理でさえ、食材の一つ一つに生産、流通、販売と多くの人が関わっている。主婦はそれらを買う・洗う・切る・煮る・味付けする。料理はどれだけの手間をかけ神経を使う大変な仕事だったのかと感じ入る。
 私も何も気付かないほど鈍感ではなかったが、夫婦の役割分担として至極当然なこととしてきた。「こりゃうまいね」と褒めて食べていればいいという思い上がりがあった。深い感謝とまでは至らなかった。
 男性料理教室は、料理の腕を上げることが目的ではある。だが、神髄はそれ以上に妻に感謝して、率先して台所に立つことだと悟った。「私食べる人」を決め込んではいられない。
 料理することは認知症予防や健康維持の良薬でもある。夫婦の健康寿命延長を目指して、邪魔をしない程度に台所に立とう。
  「男子厨房に入らず」と厳しかった明治生まれの母はとっくにいない。

       (2018.06.08 中国新聞セレクト「ひといき」掲載)

残された言葉

2018-06-08 17:43:22 | はがき随筆
 母の遺品を整理していたら父の手帳が出てきた。旅の日記だった。大阪に住んでいた頃、両親が訪ねてきた時の日記の中に「幼稚園の誕生会で孫の劇を見た」とある。娘に知らせると覚えていた。ブレーメンの音楽隊の鶏の役だった。「自分でお面を作るよう言われたの。描けなくて、お父さんに描いてもらったらリアルすぎ。自分で描いてないのバレバレだったよ」と笑う。鶏の面を泣きそうな顔で受け取った娘の顔を思い出した。
 父が日記に書き残した言葉が思い出を誘う。こうしてはがき随筆を書きながら、後に家族がこれを読む日のことを想う。
 宮崎県串間市 岩下龍吉(66) 2018/6/8 毎日新聞鹿児島版掲載