はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

ケーキ作り

2018-06-14 15:18:49 | はがき随筆


 高校2年の孫娘が1泊することになった。訪れる度、勉強の合間を縫っては気分転換にと料理に挑戦している。まんざら嫌いでもなさそうだ。その日は運良く、本人の誕生日でもあった。2人でバースデーケーキを作った。絶好のアシスタントを従え、作業もはかどった。スポンジを焼き、生クリームをホイップし、お決まりのイチゴとろうそくを飾って完成。今どきの子らしく即、スマホで撮っていた。仕事で忙しい娘に代わって、いつまで続けられるのか? 時間の許す限り、一緒に料理を楽しみ、食育に参加できればと願いながら皆でおいしく頂いた。
  鹿児島県鹿屋市 中鶴裕子(68) 2018/6/14 毎日新聞鹿児島版掲載

散歩で人生を考える

2018-06-14 15:04:44 | はがき随筆


 散歩している際、いろいろな人とすれ違う度にその人たちの人生のことを考えてしまう。若い人だったらどんな未来を夢見ているのだろう。カップルだったら将来結婚するのかな? 夫婦の場合はどんな風に子どもに接し育てていったのだろう。お年寄りの場合は果たしてこの人は幸せな人生を歩んできたのだろうか。それとも辛い人生だったのだろうか? などなど……。
 空想癖のある私にとって、人とすれちがうということはその人の過去・現在・未来のことを想像することである。それはつまり自分の過去・現在・未来を考えることなのかもしれない。
  宮崎市 谷口二郎  2018/6/14 毎日新聞鹿児島版掲載

モグラたたき

2018-06-14 14:51:34 | はがき随筆
 友人が病気を宣告され入院した。見舞いに行くと、管につながれた痛々しい姿を目にした。
 医学・薬学の発達で治療効果のある薬剤が開発されているが副作用はつらいようだ。むくみには利尿剤、吐き気やかゆみにも薬が処方される。
 治療薬に抗し次々に現れる副作用にはピンポイントで薬剤が投与される。これを聞くと西洋医学はどこかモグラたたきに似ているようにも思える。
 治療は副作用との闘いでもあるという。頭を出し続けるモグラに苦しむ友人の姿を思い出すにつけ、今後の治療薬の研究開発に希望を託したい。
  熊本市北区 西洋史(68) 2018/6/14 毎日新聞鹿児島版掲載

桜に狂う

2018-06-14 12:59:34 | はがき随筆


 今年の桜は最高だった。開花してから散りゆくまで風も吹かず、雨も降らず暖かで穏やかな日がみごとに花を守り抜いた。
 桜の花は日本人にとって、とても特別なものだと思う。家族や友人、恋人と、また同じ職場の仲間と花を見ながら、お互いの育んできた関係性を思い、感じ合うものだと思っていた。
 満開の花見に早く行きたかったが忙しくて行けずにいた。その間、夫は連日あちこちの桜を見て回っていた。帰って来た夫に「明日花見に連れて行って」と頼んだ。夫の返事は「ノー」であった。私の体中の血が逆流し何かが狂い始めた。
  鹿児島県出水市 塩田きぬ子(67) 2018/6/14 毎日新聞鹿児島版掲載

姪の結婚式

2018-06-14 12:53:06 | はがき随筆


 初夏の都心。若葉が心地良い葉陰を作る。古い聖堂の開け放たれた窓から、白いカーテン越しに柔らかい日が射す。
 純白のドレスにベールをかぶった花嫁をエスコートして、兄が一歩一歩祭壇の前へ進む。口を一文字に結び緊張が伝わる。歩き方がロボットのよう。吹き出したくなるのをこらえたらこみ上げてきたのは涙だった。
 亡くなった父にそっくりだ。姪は父が抱いたただ一人の孫。死期を悟った体で、赤子を抱いた。生きていたら喜びをどう語っただろう……。
 娘を花婿へ委ねる兄の後姿が遠い日の父と重なって見えた。
  宮崎県日南市 矢野博子(68) 毎日新聞鹿児島版掲載

七十路のメルヘン

2018-06-14 12:34:36 | はがき随筆


 洗面所に藤原台のクスノキのカレンダーを貼っている。国指定天然記念物、推定樹齢千年の大木と向き合う。最初は荘厳さに圧倒されるばかりだった。
 それが、いつのころからか見る度に新しい発見があり、密かな楽しみとなった。まるでだまし絵のようなクスノキの中からイロイロな生き物が顔を出す。それは妖精のようでもあり、道化だったり、皮肉屋の妖怪めいたものだったりする。
 七十路を超えてこんなことを言えば、世迷い言をと一蹴され、老人特有の病気さえ疑われるに違いない。でも、メルヘンに年齢制限などありはしない。
  熊本県菊陽町 有村貴代子(71)毎日新聞鹿児島版掲載

猫とピアノ

2018-06-14 12:22:48 | はがき随筆
 「ワサビ(猫)が止めてくれってうるさいぞ」夫の声がする。無視しているとワサビひ私の足にまとわりついて抗議する。「そんな下手なピアノは弾かないで」と言わんばかりだ。
 確かに下手です。この年齢で初心者でしかも独学。丁寧な教本とわずかな知識を頼りに、動かない両手に四苦八苦の日々。
 稚拙で何の曲かと笑われそうだが、平凡な日常にピアノが存在することは新鮮でワクワクする。猫には邪魔をされ、下手が故に御近所を気にする夫には少々ムッとするが、下手は下手なりに今の私はピアノに触れることが楽しくて仕方がない。
  熊本県天草市 岡田千代子(68)2018/6/14 毎日新聞鹿児島版掲載