はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

鯉のぼり

2018-06-29 13:28:46 | はがき随筆


 飲み会で会社の先輩に、5月の初めに子どもが生まれると話すと、その先輩は5月5日に男の子が生まれたら、鯉登りをお祝いにやろうと言いだした。鯉のぼりの値段は、サラリーマンの小遣いからすると酔った勢いでは済まない。酒の席での冗談と受け取って聞き流した。
 数ヵ月後、親孝行の息子は計ったように5月5日に生まれてきた。まさかと思ったが、先輩は初節句の祝いにと人の背丈ほどの青い鯉のぼりを抱えてきた。おかげで祝いの宴は大盛会。忘れられない一日となった。
 その息子も今年で29歳、一人前になりましたよ、先輩。
  宮崎市 福島洋一(63)毎日新聞鹿児島版掲載

傘寿

2018-06-29 13:21:58 | はがき随筆
 遠い先のことと思っていたが、時が来た。同期会があり、先生を囲んで和やかな会であった。後日、当日のビデオが届いた。皆様の元気な姿の中に自分の姿を見てあぜんとした。ペンギン歩きをしているではないか。「ビデオ眺めてわがふり直せ」である。
 夕方歩きに出るが、このように歩いていたとは。シャクヤク、ボタンにはほど遠いとしてもユリのまね事をと気をつけていたはずだが、腰椎4本をつぶした身には無理なのかな。
 泣き言は言いますまい。これから体幹を鍛えて一直線上を歩くのだ、と誓った。
  熊本市東区 川嶋孝子(79)2018/6/28 毎日新聞鹿児島版掲載

野うさぎ

2018-06-29 13:07:40 | はがき随筆


 私は5月10日が誕生日で傘寿です。前日は、嫁いでいる3人の娘たちがお祝い金をくれた事から、近くに住む長女が品選びやランチにカラオケまでも付き合ってくれ傘寿バンザイの心境だった。
 そして10日の朝、俺もついに傘寿男か……とため息を窓に吹きかける心境で庭に目をやった。すると兎が一匹私を庭から凝視していた。私は一瞬、なぜ兎が? と戸惑った。
 庭の周りの草を朝から夕方まで食べ、裏山に帰る。今日で10日間来る野兎だが、手で触れても逃げない。傘寿や妻に命日の11日も知るのか兎さんや。
  宮崎県延岡市 前田隆男(80)2018/6/24 毎日新聞鹿児島版掲載

巣立ち

2018-06-29 12:51:42 | はがき随筆


 あっ、今、ふわっと丸いものが枝に飛んだ。目を凝らすが何もいない。錯覚?
 去年、庭の真ん中に巣立ちしたばかりのスズメが落ちていた。生死を確かめると何と生きている。ここは野良猫の通り道。安全なところに移すため手のひらに包めば、必死に逃げようとする。痛々しく、命が壊れそうで怖かった。敵も味方もスズメは知らない。どれほどの恐怖だろう。スズメの思うままも運。思った場所に避難させられないが仕方ない。勤めから帰って見ると襲われた痕跡はなく、きっと無事に飛び去れたのだ。毎年、軒下に巣の跡が落ちている。
  熊本県阿蘇市 北窓和代 2018/6/29 毎日新聞鹿児島版掲載

母校焼失

2018-06-29 12:01:08 | はがき随筆
 姶良市加治木高校正門脇に小さな慰霊塔があり、花が絶えない。昭和20年8月、米軍の空襲で母校、加治木の街は灰燼に帰した。登校日、教室の中学生数名が若い命を落とした。中1の小生もグラマンの銃撃を逃れ、田の水にまみれ、山へと走った。帰途、探しにきた母と出会い、安堵と感激に涙した。孫2人が母校に通う昨今、尊い犠牲に生まれた平和と、ありがたさと、歴史の流れと、さだめをしみじみと感じる。アメリカ在住の同窓生が、当時の体験や多くの資料を基に、苦心して「母校焼失」と題し、一冊の貴重な自費出版をなした。すばらしい。
  鹿児島県 姶良市 宇都晃一 2018/6/26 毎日新聞鹿児島版掲載

橋の日の歌

2018-06-29 11:52:43 | はがき随筆
 五ヶ瀬川水系は、延岡で呼び名が大瀬川に変わる日本一の清流だ。そこに架かっている安賀多橋との触れ合いを讃えた「橋の日の歌」を作った友達と童謡会の例会に招かれて参加した。
 昼に大瀬川の水辺を訪れ、午後に会場へ。指導の男性以外は女性ばかりだ。8月4日の「橋の日の歌」のほかにも、大瀬川の歌、懐かしい故郷の歌、童謡や戦前の唱歌、会の持ち歌。私のカラオケ十八番の懐メロ「リンゴの唄」も。合唱三昧で「絆の橋」を渡った。
 橋は社会の絆。大瀬川でセセラギとウグイスの自然も。耳に保養の多くの橋と巡り合った。
宮崎市 貞原信義(79)2018/6/27 毎日新聞鹿児島版掲載

大嫌いな5月

2018-06-29 11:42:42 | はがき随筆
 新緑が鮮やかな5月。日中もカラリとした風が心地よい。花もいっぱいだ。しかし、私は5月が大嫌いだ。この季節になると、てきめんにのどが痛くなり、目がかゆくなる。くしゃみ、鼻水、鼻づまりとおきまりの鼻炎で、熟睡できないのが最も困る。
 先日、大学教授が「エアコンが普及して、夏を快適に過ごすようになってから熱中症が増加した」と話されていた。「快適な生活もほどほどに」ということだろうが、アレルギー疾患の増加原因は何だろう。
 私の鼻炎は、憂鬱な梅雨入りとともに解消する。
  熊本市北区 岡田政雄(70) 2018/6/26 毎日新聞鹿児島版掲載

夢の続き

2018-06-29 11:25:51 | はがき随筆
 30年ほど前、定年後の生き方を考えた。まだ10年ほど時間が残されていて先輩たちのその後も参考にしたが、要するに定年後の20年をどう生きるかを考えた。漠然とではあるが、豊かな自然の中で悠々自適の生活を送れたらを夢みた。男の平均寿命が80に満たない時代で、効率追求最優先のサラリーマン生活の中で、自分優先を考えた。
 そして今、大都会の喧騒を離れ、太平洋へと続く志布志湾の波音を聴きながら、庭の草木に目をやる。穏やかな毎日は夢の実現だと思う。こうなったら、また20年先の夢をみてやろうかしら……。
 鹿児島県志布志市 若宮庸成(78) 2018/6/25 毎日新聞鹿児島版掲載