はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

のるかな?

2018-06-15 22:30:25 | 岩国エッセイサロンより
2018年6月12日 (火)

    岩国市  会 員   樽本 久美

 母が入居した老人ホームで、川柳を教えることになった。第1回の川柳教室。「作ったことがないから、できんよ」という78歳の男の人に「私が助けてあげるから大丈夫よ」と言うと「それじゃあ、やってみよう」と。1冊のノートを配り「思うことを何でも書いて」と言うと、始めは「難しいな」とか言っていたが、少しずつ手が動いてきた。
 そのノートを見て、私が「ここは、こういうことですか?」と聞くと「そうよ」との返事。少しヒントをあげると1時間余りで1人3句も作ることができた。
 早速、新聞の川柳に応募した。誰が載るかな。
    (2018.06.12 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

かたづけ

2018-06-15 22:28:21 | はがき随筆
 空き家になっていた母の家を解体することになった。父が20年前に亡くなってからずっと1人暮らしだった母は、「親は長男が看るもの」と、2年前から弟の住む福岡で暮らしている。
 軽トラを借り、義妹や甥も手伝いに来てくれた。食器棚の茶わん一つにも様々な思いがよぎりなかなか手が進まない。他の部屋を済ませて戻ると、台所はすっかり空っぽになっていた。
 30年余りの両親の暮らしが次々と軽トラに積み込まれていく。すっからかんになった六つの部屋に、母はもう戻れない。
 玄関先には、一回り大きくなったサツキが満開だ。
  宮崎県延岡市 梅田美穂子(61) 毎日新聞鹿児島版掲載

ヒロちゃん

2018-06-15 22:14:34 | はがき随筆
 4月2日、ヒロちゃんの孤独死を聞いた。愕然とした。東京の警察署でヒロちゃんと対面。「ヒロちゃん」と呼べば「何だよ兄さん!」と答えそうな表情だった。ヒロちゃんは妻の弟でどこか少年の空気を宿したひとり者の66歳。写真が趣味で三ツ峠から撮った富士山の雪景色の大作をもらっている。ネコが大好きで我が家のクレの通院を聞くと「おれが帰るまでに元気になっておれよ」と言っていたのに……。5月19日の航空券も入手していたのに……。「ヒロちゃん、どこへ行っちゃった?」。ヒロちゃんの死がいまだに信じられない妻と私だ。
  鹿児島県出水市 中島征士(73)2018/6/13 毎日新聞鹿児島版掲載

受け継ぐ暮らし

2018-06-15 21:57:50 | はがき随筆


 「ちょっと待って!」そういうと娘は後を振り返り、採り残しはないかと目を凝らした。
 子どもたちが小さかったころの光景だ。山菜採りの季節になると、ほほ笑ましく思い出す。その娘も今は3人の子の母となって長崎に住んでいる。
 「子どもの頃はツワの煮しめなどが多くて嫌だったけど、今は食べたくなる」と言い、次の休みには家族でワラビ採りに行くという。今春は私も夫と共に山菜を楽しんだ。
 季節を感じ山菜を楽しむ。そんな暮らしが子どもや孫に受け継がれている。
 宮崎県高鍋町 井手口あけみ(69) 2018/6/12 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆 5月度

2018-06-15 15:07:36 | 受賞作品
月間賞に甲斐さん(宮崎)
佳作は平野さん(宮崎)竹之内さん(鹿児島)、岩本さん(熊本)

はがき随筆の5月度受賞者は次の皆さんでした。(敬称略)
【月間賞】24日「写真」甲斐修一=宮崎県延岡市
【佳作】2日「弟の涙」平野智子=宮崎市
▽10日「過ぎ去りし日」竹之内美知子=鹿児島市
▽20日「親子になっていく」岩本俊子=熊本県宇土市

 甲斐修一さんの「写真」は、いのちの尊さを感動をもって感じさせてくれる文章です。熊本地震2年の本紙企画に載った幼児救出の写真に対する印象が書かれています。幼児が救出され、それを抱く若い救助隊員たちの表情。そこに達成感と厳粛さと優しいまなざしとを見出したときの感激が描かれています。映像媒体としての報道写真のもつ効果は、たとえば少女殺害事件の可愛い少女の写真のもつ衝撃などからも知られますが、甲斐さんの文章には、報道写真にも匹敵する言語媒体としての文章の力を感じました。
 平野智子さんの「弟の涙」は、家族の中での役割について考えさせられます。父親の死後、母親が文字通り大黒柱として、一家の面倒をみたくれた。母親の老衰につれて、今度は弟がまるで自分が母親の親ででもあるかのように、世話をしてくれた。そして母の死。霊前で、弟は息子に還ったかのように、肩を震わせて声をあげて泣き、自分たちは肩を撫でてあげるしかなかったという文章です。それぞれが背負う役割の重さが実感されます。
 竹之内美知子さんの「過ぎ去りし日」は、咲き誇る庭のツバキの深紅の花を見ていると、二十数年前の御主人と息子さんとの間に起こった、小さな事件を思い出したという内容です。剪定を楽しみにしていた御主人が大事にしていた枝を、手伝っていた息子さんが切り落としてしまったときのことです。どうなるかと心配していると、ご主人の口から出た言葉は「すんだこっじゃ」の一言。思い出の中で御主人はまだ生きておいでのようです。
 岩本俊子さんの「親子になっていく」は、嫁と姑との関係が温かく描かれています。まったくの他人同士が、法律上親子となること自体が考えると不思議なことです。その法律上の部分が時間とともに薄れて、実子以上の話し相手になったという内容です。もちろん、双方の努力がそういう関係を作り上げたのでしょう。しかし、それを「時間ってすごい」と客観視されているところに感心しました。
 鹿児島大学名誉教授 石田忠彦

忘れられない出会い

2018-06-15 14:35:51 | はがき随筆


 小3の息子と、久住山牧ノ戸登山口から急坂を登り一服していると、50年配の男性が、「よかったら同行させてもらえませんか」と話し掛けてかた。「どうぞ」と3人で山頂に向かった。
 昼食も3人で弁当を囲んだ。男性は、ポケットから写真を取り出し、「家内です」と私に差し出した。そして「もう私は世の中で恐いものはありません。家内を失ったときを思いますと……」と言われた。
 あれからもう随分年月がたったが、時折、男性の姿とあの言葉がよみがえってくる。あの方はどうされているのだろうか。
  熊本市北区 岡田政雄(70)2018/6/10 毎日新聞鹿児島版掲載

私の幸せ

2018-06-15 14:29:03 | はがき随筆
 21歳の一人娘からプレゼントをもらった。ブラブラ揺れるタイプの赤いスイカと黄色のミカンのイヤリング。あまりのカラフルさと可愛さに、これは何かのワナか? とちょっとひるんだが、心の中では欣喜雀躍。
 夫を7年間介護していたときから、ずっと紺か黒のカーディガンに白シャツ、Gパンがわたしのスタイルだった。それをやめさせたのも娘だ。もっと肩の力を抜いて、オシャレも人生も楽しんで! とアドバイスをくれる若い娘がいて幸せと思う。45歳で娘を生んだとき「宝子ですよ」と言われた意味が、今やっとわかった気がする。
  鹿児島市 萩原裕子(65) 2018/6/9 毎日新聞鹿児島版掲載