若い頃、本を読めとよく言わ れた。でもなかなか一冊読み通 せない私。その悩みを打ち明け ると、少しずつ読めばいいんだ よ、と理髪店のご主人。毎日、 たとえ数行でも、おもしろい分 量だけでいいから、とほほ笑む。 一気にたくさん読もうと焦っち ゃいけない。人によって適量ってもんがあるんだから。続けていけばいつの間にか最後のペー ジにたどりつくさ、と鏡の中で 目を合わせたとき、ご主人はボ トルを持ち上げた。 使うのは少しずつだが、気づくとなくなってるよ、シャンプー。納得できたのは、このとき私にまだ髪が あったからかもしれない。
鹿児島県出水市 山下秀雄(51) 2021.2.2 毎日新聞鹿児島版掲載