新型コロナウイルスの感染拡大で、外出自粛要請が出た。各 施設が閉鎖され、手足をもがれたような思いだ。
気を取り直し、物置の整理に取り掛かる。廊下の隅には、かつて子供たちが使い、カバーを 掛けたままの電子オルガン。
それは楽器音痴の私にとっても、憧れだった。長女が音楽教 室に通い始めた頃、厳しい家計を無理して買った。小さな手で弾くおぼつかない演奏を、幸せな気持ちで聴いたものだ。
処分する前夜、キーをたたいた。「ドーレーミー」。かすれ たような音が「まだ生きているよ」。そんな声にも聞こえた。
宮崎市 河上久子(72) 2021.2.10 毎日新聞鹿児島版掲載