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はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

案山子

2021-02-13 22:33:08 | はがき随筆
 ドライブの途中、何やら人だかりを見つけた。 かかし祭りらしい。珍しいもの好きな私は、案山子の集団にもぐりこんだ。
 コロナで亡くなった志村けんのバカ殿様。テニスのちょっと太めの大坂なおみ。3密はダメとマスク姿の婦人たち。いるいる。趣向を凝らした案山子たち。今ではイベントで目にするが、私が嫁に来た頃は、案山子がおのおのの田んぼを守っていた。 
 友が子供の様子を聞いた時、「ばあちゃんと一緒に案山子を立てに行ったよ」。きゃぴきゃぴ娘の私だったが、予想もしない答えに彼女は驚いていた。 案山子には心が癒やされる。
 宮崎市 津曲久美(62) 2021/02/13 毎日新聞鹿児島版掲載

失せ物

2021-02-13 22:16:18 | はがき随筆
 今までに何度も家の中で大切なものを失くしてきた。 先程まで確かにここにあったと、何度も、何度も探す。腕時計、指輪、メガネなどである。
 あんなに大事にしていたのにと半分諦めつつも執拗に探す。この前の話。戸棚の整理をしたメガネが出てきた。安物みたいのかと捨てる寸前、でもよく見たら以前紛失した大事なメガネではないか。これがどこから出たのか今でも定かじゃない。失せ物ってこんなものか。今からこんなことが増えるといけない。一日中探す事にもなりかね ない。でもあぁよかった。 しっ らかりしなと自分にカツを。
 熊本県八代市 鍬本恵子(75) 2021/2/13 毎日新聞鹿児島版掲載

越冬ツバメ

2021-02-13 22:07:29 | はがき随筆
 ポーチには20年近く使われて いるツバメの巣がある。早期米 の田に水を張るころ飛来して、 補修し営巣の準備にかかる。春を待ちわびるぼくが、梅、河津桜の開花に始まり、飛び交う姿に春本番を実感する時である。 去年は14羽の雛が巣立った。 時は移り秋の気配を感じるころ2羽のツバメが戻ってきた。南へ旅立つ別れを告げに来たかと想像するといじらしい。ところが、 寒さが増しても旅立つ気配はなく、氷が張る朝は巣の中で寄り添っている。 寒さもだが餌が気になる。温暖化とはいえ冬は冬、 心配の尽きない寒さになった。 だが何もできない。
 鹿児島県志布志市 若宮庸成(81)  2021/2/13 毎日新聞鹿児島版掲載

自問自答

2021-02-13 17:28:58 | はがき随筆
 「今になってどうしたんだ」と自分に問い掛ける。
  墓じまいをして、もう5年が過ぎた。少し早い墓じまいだったんじゃないかな、と自問自答をするようになった。あの頃はあの頃で、やむにやまれぬ思いに悩み、心を痛める日々の末、そうしたのだ。
 しかし、日々過ぎる時間と共に、墓じまいは「後継者がいないから」という理由だけで、自分の心の負担を単に軽くしたかっただけじゃなかったのか、と悩む。
  寺を永遠の安住の地としたのは自分の判断だが、先祖や亡妻も許してくれるだろう。
 宮崎県延岡市 前田隆男(82) 2021/2/13   毎日新聞鹿児島版掲載

ごくらくごくらく

2021-02-13 17:08:33 | はがき随筆
深々と冷え込んだ夜、寝る前にお風呂に入る。今夜は「ゆずの香り」にしようか。
 ぶくぶくと泡が立ちゆずの香りが漂う。 洗い場で震えていた 体を湯船にゆっくりと沈める。チクチクチクと皮膚を刺激するお湯。ぐっと首までつかる。そ
して、「ごくらく ごくらく」と呟く。
  「おじいちゃんのごくらく」という本の読み聞かせで、「ごくらく」って知ってる? と園児に問うと「うん、お肩をトントンすること」との答え。働いている親世代のつぶやきかな。 
 お風呂が一番「ごくらく」だと思える年になった私である。
 熊本県宇土市 岩本俊子(71)  2021/2/13 毎日新聞鹿児島版掲載

練炭火鉢

2021-02-13 16:53:45 | はがき随筆
 亡母の暖房は練炭火鉢だった。 私が高校に入学した頃から使い始めて、高齢になるまでずっと使っていた。冬はこたつの横に置いていて、いつでもやかんがシュンシュンと鳴り、湯気が隙間風に流れていた。根菜類を煮込む鍋もよく掛けられていて中の骨付き鶏肉の身が骨からぽろりと取れるのが柔らかくておいしいと亡夫が言いつつ喜んで食べていた。 
  母の形見の赤い練炭火鉢を去年から私が使っている。おせち料理作りにも使った。練炭の火の丸い穴も懐かしく暖かく、母がそばにいるような気がしてくる。
 鹿児島県霧島市 秋峯いくよ(80) 2010/2/13 毎日新聞鹿児島版掲載


金柑だのみ

2021-02-13 16:46:57 | はがき随筆
 家の前のイチョウが色づき、 金柑の実もうっすらと黄みがか っていた昨年末。一番なりはとっくに鳥に食べられている。
  鳥たちはユズ、カボスには目 もくれず金柑を狙ってくる。負 けじと、軽トラに乗る前と降りる度に金柑の木を一回りして熟 れている実を探し口にする。
 インフルエンザの予防接種を 受けた方がいいと妹に勧められた。受けたこともかかったこと もない。かぜもひかないのは金柑のおかげと信じている。
 「それみたことか」と妹から 言われたくはない。例年よりも木に足を運び食べよう。神だのみならぬ金柑だのみである。
 宮崎県串間市 武田ゆきえ(66)  2021.2.13 毎日新聞鹿児島版掲載