はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

「払い戻し」貯金

2021-02-24 23:26:41 | はがき随筆
 宝くじの末等の数百円や、デ パートの買い物券でもらったお釣りを、プラスチックの貯金箱 に入れている。昨年は残念な臨時収入があったので、それを小 銭に両替して足した。 臨時収入とは、コロナによる演劇の上演中止のチケット代払い戻しと、飛行機減便のために上京を諦めた航空券の払い戻しである。
 足掛け5カ月、毎月払い戻し を受け、貯金箱がいっぱいになると、郵便局で定額貯金にした。 銀行の普通預金は減る一方だ が、郵便局の残高はどんどん? 増えた。 演劇と離れていた期間 はとてもつらかったけれど、思 わぬ副産物ができた。
 鹿児島市  本山るみ子(68)  2021.2.24 毎日新聞鹿児島版掲載

足の爪

2021-02-24 23:16:43 | はがき随筆

 少し反り返っている私の爪。 「あんたの爪はお父さんによう似とる」。母がよく言っていた。父の思い出に飢えていた私は、 母にそう言われるのが父に近づけるようでうれしかった。
 父は私が9歳の時、亡くなった。その前2年は入院していたので一緒にいた時期は短い。
 叔母の話によると、私たち姉弟は父が大好きで、会社から帰る頃いつも待ち伏せ、走り寄っていたそうだ。残念ながら覚えていない。「あんないい人はいない」。叔母はいつもほめた。
 自分の爪を見る時、父もこんな爪だったのかとしみじみ思 う。爪切りのたび父と出会う。
 宮崎市 堀柾子(75) 2021.2.23

支え合って生きていく

2021-02-24 23:10:17 | はがき随筆
  暮れに慌ただしく入院した。 留守の間、夫は日頃から洗濯は手伝っていてくれたので心配ないが、料理は全くしない。近所に住む姉や息子夫婦に助けてもらい本当に感謝している。
 着替えなどは時々夫に持ってきてもらうがコロナで面会はで きず2階の病室の窓から下の駐車場を帰る夫の姿がいつもより 元気がなく本当に申し訳ない。
 幸い1カ月ほどで退院した。 「お父さん大変だったね。ありがとう」と言うと、夫も「やっ ぱりお前がおらんとなあー」と しみじみ言う。この先、体力も なくなるので支え合っていかね ばと思った。
 熊本県山鹿市 栗原シゲコ(78)   2021.2.22 毎日新聞鹿児島版掲載

地図帳と思い出旅行

2021-02-24 22:56:57 | はがき随筆
 暮れに日記帳を買いに行った際、「最新地図 (日本、世界)」を購入した。今、テレビ番組で、「各県の名所旧跡」「農水産物」などのクイズ問題が多い。40年ほど前、主人退職後は旅行を楽しみ、浅くではあるが、国内はほとんど行っているような気がして、解答に参加してみる。 思 い出は遠く、自分なりの珍解答に、ひとりで笑ってしまう。そこで地図帳を見て再確認したくなった。現実的に体力、気力、それに「コロナ」で旅行することは難しい。地図帳での旅行ならできる。 思い出の旅行写真帳を出して、亡き主人と語り合ってみることにしよう。
 熊本市中央区 原田初枝(90)  2021/2/20 毎日新聞鹿児島版掲載

バイオリン演奏会

2021-02-24 22:44:10 | はがき随筆
  「バイオリンを弾くのでピアノ伴奏をお願い」と頼まれた。彼の父上は小学校の校長。バイオリンの生演奏を聴いたことがない児童たちにと企画された。
 体育館に集合した全校児童の前で、荒城の月などを演奏。真剣な表情の子供たちは初めて聴くバイオリンの音色をどう感じたであろうか。  
 あれから50年の歳月。当時の子供たちはいまや50~60代の年齢。これまでの人生にバイオリンの音を思い出すことがあったなら、彼も本望であろう。  
 その同級生の彼は12月に黄泉 へと旅立った。荒城の月が一層哀調を帯び、心の中で響く。
 宮崎県延岡市 源島啓子(73)  2021/2/20 毎日新聞鹿児島版掲載

優しいがねぇ。

2021-02-24 22:35:11 | はがき随筆
 「ここにいて、待っててね」 と男性がご婦人に声をかけてその場を離れた。  ここはショッピングセンターの食品売り場。男性は別のコー ナーに用があるのだろう。その 声を耳にした私は、思わずご婦人に「優しい方ですねえ」と声 をかけてしまった。 すると「私の息子よ。優しいがねぇ私が 炊事ができんから、朝昼晩作ってくれるとよ......」と。
 答えてくださりながらも目は しっかりと息子さんの歩いて行 かれた先をみつめていらっしゃ る。
 見知らぬ方であるが、親子の 姿に胸がじーんとした。
 宮崎県西都市 福島律子(68)  2021/2/20 毎日新聞鹿児島版掲載

笑顔で挨拶

2021-02-24 22:21:12 | はがき随筆
 午後3時過ぎ、郵便物投函のため局へ。毎月1回、書林誌と直筆コピー6枚1組に手紙を同封し、兄弟、姉妹、書道生徒さん方に。直筆は自分勉強。本が届いたその夜、楷、行、草、か なを仕上げて、投函のため翌日徒歩で農道を急ぐ。寒風が全身に吹き胸苦しい。 いつまで書けるか、脳と右手に祈る。
  帰路、小中学生が元気いっぱいの姿で自宅へと向かいなが ら、私に笑顔の挨拶。「おりこうさんたちね」と返す。中学の兄ちゃんも「さようなら」と。つい先ほどまでこたつに曲がっていた私に爽快さを振りまいてもらい、元気が湧き上がった。
  鹿児島県肝付町 鳥取部京子(81) 2021/2/20 毎日新聞鹿児島版掲載

丑年の初笑い

2021-02-24 22:08:59 | はがき随筆
 コロナ禍の息抜きは温泉に入ることぐらいで、小春日和のある日いつもの温泉へ。平日は人もまばらで貸し切り気分を味わえた。待合室で帰るぞ!と夫の低い声。車に乗るとモオウ!という夫は丑年、私は苦笑しながらどうしたと聞くと、洗い場はがら空きなのに密を避けずに若い人が隣に座り、場所を変わる勇気もなく並んでいたと......。
   私はその姿を想像して笑い転 げた。ところが夫は眼鏡を押し上げ、にやにやしながら若い女性ならまだしもとさらっという。え~その年でよくいうよと
言い返したが、夫は聞こえないふりをしてアクセルを踏んだ。
 鹿児島県薩摩川内市 田中由利子(79) 2021/2/20 毎日新聞鹿児島版掲載



東京五輪今昔

2021-02-24 21:53:57 | はがき随筆
  1940年、当時小学4年の私は民族の祭典という映画を観た。4年前のベルリン五輪の記録映画でとても素晴らしくて「日本でも五輪ができたら良いな」とちょっと羨ましかった。
 この年は皇紀2600年に当たり皇居前で11月10日に記念式典が天皇皇后ご臨席のもと催されて父も参列した。日本は世界で660年古く建国されたと聞かされてドイツよりずっと素晴らしい国だと得心した。実はこの年東京五輪が開催される筈が戦争のため返上されていたことを全く知らなかった。 東京オリ・パラがコロナで開催が危ぶまれる今、昔を思い出している。
 熊本市中央区 増永陽(90) 2021/2/20 毎日新聞鹿児島版掲載
 

プレゼント

2021-02-24 21:45:41 | はがき随筆
 買い物から帰った高1の孫が 「これ開いて」と包みを渡した。 ピンクのアイピローだった。正月、台所に立ちっぱなしで4人 の男たちの注文に応えた私を見 て、心するものがあったのだろうか、夜はゆっくり休んでの意味だったか。 
 孫が幼稚園児の頃、2人でデパートのアクセサリー売り場に行き「ママに」と物色する姿をスタッフがほほ笑んで見ていた。いま背丈も190近くあり、相も変わらず減らず口をたたいている。
 予想もできない子どもたちの未来、強く生きてほしいと思う。
 鹿児島県薩摩川内市 馬場園征子(79) 2021.2.21毎日新聞鹿児島版掲載

立春大吉

2021-02-24 21:38:20 | はがき随筆
 いい日旅立ち。本日立春だ。 あの日があって今日がある。東京在住の孫が、長野県へ初出張ときいた。
 あの日とは「先へ進めない」 と薬科大へ退学届を出し、実家に戻った日のことだ。娘が孫を私の家へ連れてきた。かねて私は「この子は文系」と感じてい
たので、「俊ちゃん」と名を呼 んで、一発くらわせた。
 入り直した文系の大学で充実 した4年を過ごし、事務職とし て採用され、本日の出張だ。
 孫に手をあげたのは、終生忘 れ得ない。思い出すと涙があふ れる。あの日があって今がある。 2月は彼の岐路だった。
 宮崎市 田原雅子(87)  2021.2.20  毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆1月度

2021-02-24 17:27:11 | はがき随筆
月間賞に杉田さん(宮崎)
佳作は東郷さん(鹿児島)、楠田さん(宮崎)、黒田さん(熊本)

 はがき随筆1月度の受賞者は次の皆さんでした。(敬称略)
【月間賞】30日「頑張れ蕾」杉田茂延=宮崎市
【佳作】27日「訪れ」東郷久子=鹿児島市
▽29日「炎の力」楠田美穂子=宮崎県延岡市
▽30日「みいつけた」黒田あや子=熊本市

 令和3年1月。新型コロナウイルス感染症が終息する気配はまだ見えませんが、日々の生活も行事も新しい対応で新年を迎えざるを得ませんでした。その中で巡り来る季節の確かさや自然の素晴らしさの投稿が多く、楽しむことができまし た。
 外出もままならない自粛の日々の中、庭の梅の蕾を探す杉田さんの「頑張れ蕾」。寒さが花芽を育てるという。今年の寒波もやがてくる開花を期待させ、ゴマ粒大の蕾が一度きりの舞台を慎重に待つ......。蕾の神秘さや健気さを応援の気持ちを込めてつづられた。蕾も膨らみ、満開の花舞台が楽しみですね。
 東郷さんの「訪れ」もまた庭からの観察。朝日が届く頃花の蜜を求めて来る小鳥たちの様子に魅せられました。「日の光を揺すりながらフェンスへ降りてくる」。美しい表現ですね。小鳥よりも少し大きい鳥を「中鳥」と名付けて見守る、久子さんの自然とのかかわりはかけがえのないものなのですね。
 楠田さんの「炎の力」。友人と夫婦でキャンプに参加したひとときの情景。たき火の揺らぎの変化を見つめながらうたた寝をする筆者。目覚めたときに思いを吐露している夫と友人の会話を思いもかけず聞くという「炎の力」を実感。「まるで言葉を火にくべるかのように。炎はゆっくりと心の奥の塊を溶かす」。満天の星のもと、ぜいたくな良い時を過ごされましたね。
  「みいつけた」。黒田さんの住む熊本の新年は雪の舞う日が続いたと。寒いのにさくら草が大鉢の中でみずみずしい若草色の葉を思いっきり伸ばしている。「おはよう」の声かけをするとまあるい 蕾を見つけた。 葉の間 から外界を見上げている。先の見えない不安な非常時でも、雪雲が 流れ太陽が一瞬顔を出すと冬の居間が温室のようになる。真冬の厳しさのなか春を待つあや子さんの気持ちがまっすぐ伝わってきま す。
 緊急事態宣言で自粛の日々を過ごした私たちのまわりにも四季は巡ります。 芽吹きの春はもうすぐです。
 日本ペンクラブ会員 興梠マリア

◆係から
 杉田さんの月間賞を巡るインタビューが28日 (日) 午前7時10分からのMRT宮崎放送ラジオ番組「潤子の素敵に朝!」で放送予定です。「宮崎ほっとタイム」(水曜午前9時15分から5分間)の中でも、掲載作が朗読されることがあります。
 また、MBC南日本 放送ラジオでも、掲載 作が27日 (土) 午前9 時半ごろから朗読され ます。「二見いすずの土曜ラジオ!」のコーナー「朝のとっておき」 です。



時間

2021-02-24 16:48:59 | はがき随筆
 81歳の虚弱な母が102歳の気丈な祖母を看るのは易しくなかった。5年前、度重なる母の疾患を機と見、頑として私は祖母を老人ホームに預けた。自由人の父に加え近隣には親族も多く、家付き娘の母の労苦は並大抵でなかった。独りになりたいとつぶやく声が耳に残る。
 人生100年時代。日々私は誰かのために時間を費やし、一方で誰かの時間をいただいて生きている。昨年父が大病を経て別のホームに入所した。送り出す側に付きまとううしろめたさを内に込めて、母は離れで安穏にひとりを過ごす。ようやく母 が時間を貰う番だ。
 熊本県八代市 廣野香代子(55)   2021.2.19 毎日新聞鹿児島版掲載