はがき随筆・鹿児島

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「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

新幹線

2007-07-16 21:43:51 | かごんま便り
 森進一さんのヒット曲に「港町ブルース」というのがある。北海道・函館を振り出しに全国の港町を織り込み、最後に登場するご当地・鹿児島は「旅路の果て」と表現されていた。この歌がはやったのは沖縄返還(72年)に先立つ69年。鹿児島は当時、まさしく南の果てだったのだ。
 鹿児島赴任が決まった後、複数の知人から「遠いですね」と声をかけられた。福岡県北部の人には、港町ブルースから38年経過した今も「鹿児島は遠い」という印象は余り変わっていないらしい。
 実は、私もその一人だった。九州新幹線鹿児島ルートの部分開業から既に4年。大幅に時間短縮されたことは知識としては分かっていたが、今一つ実感が持てなかった。
 先日、下見に来た際に初めて新幹線を利用して驚いた。北九州市の自宅で午前8時に起床した私が、正午過ぎにはもう鹿児島中央の駅頭にいた。目からウロコだった。博多を出て以降、たばこを吸えないのが愛煙家としては不安材料だったが余り気にならなかった。2011年春に全線開業すれば、鹿児島はもはや南の果てではなくなるかもしれない。
 便利になることは確かにありがたい。だが物事に光があれば必ず陰がつきまとう。人や物が簡単にやって来るのは、裏返せば人や物が簡単に出ていくことになる。膨張を続ける九州一の大都会・福岡市にエネルギーを吸い取られるおそれはないか。日本における東京と同様、九州における福岡の一極集中に拍車がかかることは十分あり得る。同じ構図で、県都・鹿児島とそれ意外の地域との格差がさらに広がることだって予想される。
 全線開業を控え、九州第3の人口を擁する熊本市でも「素通り」による地盤沈下が懸念されている。沿線自治体でなく、恩恵に直接あずからない地域の不安は推して知るべしだ。長崎ルート建設に伴う並行在来線の処遇を巡り、佐賀県の一部自治体が揺れているのもその現れだろう。
 ことは新幹線に限らない。私たちはとかく華やかな光ばかりに目を奪われがちだが、相対する陰の部分にもきちんと目を向けていかなければ、と思う。
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 1日付で西部本社報道部から着任しました。名前に似合わず一見こわもて(イラスト参照)ですが、実は心優しき中年です。よろしくお願いします。
 鹿児島支局長 平山千里 2007/7/4 毎日新聞鹿児島版掲載

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