はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

早朝のサッカー

2006-10-19 05:39:24 | はがき随筆
 朝6時ごろから、「公園でサッカーをやろう」と孫にせがまれる。ひとりでお留守番できた約束であった。
 朝露にぬれたすべり台、ブランコと、はしゃぎながらお尻びっしょりで、サッカーを始める。私もズボンに運動靴、首にタオルをかけて、ける、走る。必死である。相手は5歳といえども侮れない。シュートもバッチリ決まっている。「そーれー」と、私のけったボールが砂場へ転がる。それを思い切りけった孫の靴が抜けて、砂が目に入ったらしい。慌てて水道で目を洗い、大事に至らなかった。早朝の心地よい汗は、年を忘れさせてくれた。
   鹿児島市 竹之内美知子(72) 2006/10/19 掲載
写真はコージさんよりお借りしました。

我が家の四男坊

2006-10-18 07:49:21 | はがき随筆
 6年前、退職記念にと3人の息子がペット店から子犬を連れてきた。子犬はクロと命名。クロは息子たちの厳しい躾を守り、りっぱな成犬になった。
 躾をした息子たちも今は遠く離れ暮らしているが、よくクロを気遣う便りが届く。3人は年に一度それぞれの機会をみつけ帰省する。クロは3人をしっかり覚えていて帰省時は寄り添い離れない。あれだけ厳しくしつけられワンワンとおあずけさせられていたのに。
 愛犬クロは3人の息子たちに、素晴らしいふる里鹿児島を思い出させてくれる架け橋となっている。本当に頼もしい四番目の息子である。
   鹿児島市 鵜家育男(61) 2006/10/18 掲載

孫の優勝宣言

2006-10-17 07:56:46 | はがき随筆
 都城市に住む孫の運動会は台風の影響で平日に変更された。休日は法務で一回も行けなかった。今年は行ける。それに彼はもう中学3年生。千五百㍍走に出場して優勝をめざしているという。これを見逃してなるものか。万難を排して是非その雄姿にお目に掛かりたい。プログラムは5番目。9時30分スタート。間に合うように行かねばならぬ。所要時間は約1時間。
 出発点に待機している孫に声を掛けた。彼は大きくうなずいた。2週目を過ぎた所からトップに立った。ついに彼の優勝宣言は現実となった。堂々とテープを切った孫の姿に感涙した。
   志布志市 一木法明(71) 2006/10/17 掲載

5時40分の空

2006-10-16 17:17:30 | はがき随筆
 9月もいよいよ終わり秋もたけなわとなる。待っていた割には、秋は短くあっけなく終わってしまうが、他の季節と違った優しさと寂しさがあって好きである。今5時40分の空が美しい。毎朝4時前に起き、5時半に外に出てみるが、5時40分前後の空は素晴らしい。空が夜と朝の接点を見せて、美しい色に染まり肌寒い風がまた心地よい。毎朝見ているが同じ空は二度とない。人間の知恵をはるかに超えた自然の美しさである。空にみとれてしばらく歩く。私の一日はいつもそこから始まる。残り少なくなった人生を有意義に過ごしたいものである。
   志布志市 小村豊一郎(80) 2006/10/16 掲載

生きている伝説

2006-10-15 17:04:28 | はがき随筆
 種子島の東側の海岸に馬立(魔立)の岩屋という洞穴がある。関東から来た妻の友人を案内した。遠目では平凡な洞穴に見えるが、近づいて見ると意外と大きな口をあけており、中は不気味に薄暗い。その友人は突然「入れない」と言い、さっさと車に戻ってしまった。十代島主幡時がこの洞穴で首をはねられたのではないか、という伝説は伝えてなかったのだが「入ってはいけない」という考えが強く働いたそうだ。帰ってから史跡の本を調べたら、その日は幡時の命日8月17日だった。幡時の霊が彼女に「来るな」と告げたのだろうか……。
   西之表市 武田静瞭(70) 2003/10/15 掲載

巻きずし

2006-10-14 17:49:22 | はがき随筆
 私は山沿いの農村で育ち、遠足というものは小学校に入学してから経験した。遠足で思い出すのは母の巻きずしである。前夜、畑仕事でどんなに遅くなっても、母は早朝から卵焼きや干瓢、シイタケ、キュウリ、酢飯を材料に巻きずしを作ってくれた。私は母の傍らで巻きずしの切れ端をつまみながら、弁当が出来上がるのを見守った。おやつは、ゆで卵とバナナ、チロルチョコに都こんぶが定番だった。遠足で級友と食べる巻きずしの味は最高で格別だった。母の心のこもった巻きずしはもう食べることはできないが、少し酢の利いた素朴な味は忘れられない。
   鹿児島市 吉松幸夫(48) 2006/10/14 掲載

後の祭り

2006-10-13 17:56:58 | はがき随筆
 雨がちな天候で除草が催促されるまま苦瓜棚の下の雑草の中に入ると、以前取り残した「すなぼこり」があちこちに。既に種子を一面に散らして身軽になり枯れ草のようだ。いずれたくさんの子草が生えるだろう。除草しておけばよかったと反省するが、後の祭りとはこのことか。
 地域のさわやか男性料理教室での会食の一時。ある小学校の給食時、「頂きます」と児童が一斉に食べ始めるが、「うちの子は給食費を払っているので頂きますと言わせなくてよい」と言う母親がいたとの話で一同愕然。子育てを問い直す機会を期待したいものだ。
   薩摩川内市 下市良幸(77)2006/10/13 掲載

トムの悪癖

2006-10-12 18:01:37 | はがき随筆
 「もう、お前ときたら、いくら言っても聞かないんだから」。ぶりぷり怒っている私を尻目に、トムはさっさと歩き出す。「まあ、見て。この犬も食べているよ」。すれ違いざま、ご婦人が連れの男性に話しかけたのが耳に入った。私は驚いて「お宅の犬もティッシュを食べるんですか」と、話しかけていた。トムだけの悪癖かと思っていたら……。トムは道端に落ちているティッシュを食べてしまう。どう叱ってもやめない。トムより先にティッシュを見つけると、私は綱を短くして迂回する。トムは恨めしい目つきで私を見るが知らんぷり。
   出水市 清水昌子(53) 2006/10/12 掲載

その本性を見た

2006-10-11 22:15:30 | はがき随筆
シッポを振りすり寄って甘えるゴン太。つい先日朝7時ごろ、あまりほえるので出てみると何と猿が来ている。50㌢位か。この住宅地に野生猿? 車の上、屋根など身軽に飛び回る機敏な動きを網戸越しに見入った。そのうちに犬小屋の片屋根に飛び乗った。すかさずゴン太は反対面に前足をかけ猛然とほえかかる。異様な眼光。本気である。猿も歯をむき本気である。劇的激闘3、4分。そのうち猿は除々に引いて屋根上へと姿を消した。ゴン太は引かなかった。初めて見た絶景。ついに撃退。繋がれて甘えるゴン太は強かった。その本性をみた。優しく褒めてやった。
   鹿屋市 森園愛吉(85) 2006/10/11 掲載

嵐明け

2006-10-09 08:09:04 | はがき随筆
 昨夜の激しい風に打たれ落とされた落ち葉の洪水の庭。その植え込みの中に、やっと先日来咲き始めた彼岸花を探す。折れてはいないが、嵐に立ち向かい堪え忍んだ容姿で疲れ茎を曲げて、やっと花冠を支えている。早速、支え棒で花茎を整えてやった。そうして一夜明けた今朝、すっかり風と雨に洗い流された木立の中に、朝日の差し込みを受けて元気に美しくよみがえって咲いている彼岸花を再発見する。
 その可憐な、そして強じんな生命力の持ち主に、しばらく見とれ、たたずみ、肩を押される思いで出勤した。
   鹿児島市 春田和美(70) 2006/10/9掲載 特集版-6

笑顔かけ合い

2006-10-09 08:02:10 | はがき随筆
 私共の散歩道、清流の山野川に架かる梶木橋のたもとに、このごろ木札が墨痕鮮やかに「どげなふな~声をかければ互いが笑顔」と素晴らしい標語である。この地域の有志の方々が立てられたのだろう。これはもうお隣近所同士の助け合い言葉であると思う。老弱男女どなたも喜ばれる声かけ合いだと思う。「田圃の出来」はとか「体調は」「子供さんたちは」は話し合いのきっかけになり、話題が広がるだろう。お互い忙しいほどに笑顔の声かけ合いは良いものである。
 殺伐たる世相に地域を守るよすがになるのではと思うのである。
   大口市 宮園 続(75) 2006/10/9掲載 特集版-5

時間が薬

2006-10-09 07:53:53 | はがき随筆
 「おーい、おーい」。玄関で夫の声。大きなリュックを背負った山の帰りらしい夫が何か怒鳴ってる。「あらごめんなさい」と謝っても「もういいっ」と言うなりくるりと踵を返し何処かへ行ってしまった。「お父さーん」。大きな自分の声で眼が覚めた。嫌な夢……。一昔前の私だったら、この夢でどんなに落ち込んだことだろう。マッターホルンを背に今日もほほ笑む彼に「なんで夢に出てきてまで怒鳴るのよ!」と笑ってしまった今の私。涙の日を過ごしていた私に「時間が薬よ」と慰めてくれた多くの友へ。「ようやくお薬が効きました」。
   鹿屋市 西尾フミ子(72) 2006/10/9 掲載 特集版-4

定年

2006-10-09 07:46:01 | はがき随筆
 この秋、子供が定年を迎える。働き詰めでいつの間にかの定年。当たり前のことではあるが、当たり前にこの日を迎える事ができるのは老親にとって何よりもの親孝行であり、嬉しい限りである。年に3回の帰省を続けながら、力量に応じた勤めを長年果たしてきた子供に心から感謝したい。
 第二の人生に、無事踏み出せる幸せを真摯に受け止めて、団塊の世代などと気負うことなく、これからは少し歩みを緩めて過ごしてほしいと願っている。
 子供は、いくつになっても愛おしいものである。
   南さつま市 寺園マツエ(84) 2006/10/9 掲載 特集版-3

ネクタイ

2006-10-09 07:18:14 | はがき随筆
 ネクタイ掛けには、昔の広幅物から細幅物まで合わせて数十本ぶら下がっている。それぞれ買い求めた時の動機や思い出がいっぱい詰まっている。ネクタイは、外観から締めている人の個性や品格などを問われる服飾品の一つでもあるので、年齢と雰囲気にふさわしい色や柄を選定する必要がある。独身時代には、異性の関心を惹かせようと意識して派手な色柄物を選んで買いあさったものだ。ネクタイの色も祝儀は白、葬儀は黒と決まっているが、長ずるにつれて、そのいずれかを締める回数も次第に増えてくる事だけは確かなようである。
   霧島市 有尾茂美(77) 2006/10/9 特集版-2

母がピアノを

2006-10-09 07:00:54 | はがき随筆
 母が「ピアノのけいこを始めたい」と。
「まあ、その年齢で今から?」と言うのはぐっと引っ込めた。
 歌を弾きたいとの注文。可愛い歌を集めた高齢者向けのテキストを買った。
 週に1回、母宅に出張レッスン。手も指もすっかり硬くなり、上手く弾けないが、何回も繰り返し練習する。
 ひょっとすると、しぱしば人生に疲れ果て路頭に迷う娘の私を勇気づけたくて、元気づけたくて頑張ってくれているのかも……。
 今日、59歳の誕生日を迎えることができました。
   鹿児島市 馬渡浩子(59) 2006/10/9 特集版-1