はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

私の秋

2006-10-08 15:34:09 | はがき随筆
 秋は何だかウキウキする。私って変かもしれない。いい年して、小娘じゃあるまいにと思われるかも。
 しかし、共鳴してくれる同世代の方はいるはず。人生の黄昏時だから秋も共通する色模様を我々に呈してくれる。人生を回想し人と人との交流の楽しめる境地にある今、読書の秋ならぬ執筆の秋が胸の奥から沸々とわき出してくる。
 いろんな秋を挙げれば切り無いが、私の秋は60才の今を措いて他にない。節目であり、ちょうどいい時だから。この、はがき随筆で駄文を載せていただけたことも1つの契機となっている。
   鹿児島市 吉利万里子(60) 2006/10/8 掲載

金のハープ

2006-10-07 08:01:41 | はがき随筆
 金のハープをいただいた。
 ハープ奏者で、はがき随筆の仲間、Mさんからの贈り物である。金メッキの小さな玩具だったが、触る度にピカピカした光沢は、民話の金の卵のように何かが生まれる予感がした。
 念願の澄んだ金の音がする本物のハープ演奏会が10月半ばに実現する。しかも、ハープは私の教え子を歌い手に選び、私と再会させた。
 歌い手・由紀子さんの店は、7月末の豪雨で浸水したが、ハープに守られたのか奇跡的に再開できた。
 金のハープは演奏会と、Mさん、由紀子さんとのあせない交流を生んだ。
   出水市 小村 忍(63) 2006/10/7 掲載

酔芙蓉

2006-10-06 15:17:01 | はがき随筆
 ムクゲの仲間の酔芙蓉が花開いている。ラテン語で「変わりやすい」と名付けられている通り、花色が三変するところがおもしめい。変化の代表の紫陽花には一歩を譲るとしても、朝から夕方にかけて色変わりして、楽しませてくれる。飲んべえの私、「酔」の字に引かれて手に入れたのだし、唐の詩人ではないけれども、近づく中秋の名月にうまく巡り合わせて咲いてくれないかなあ、と密かに期待している。月と酒、酔芙蓉の花、うまい取り合わせになるぞ。虫たちよ、どうか食害をしないでおくれ。しばらくは心ゆくまでめでてみたいので。
   鹿児島市 古木一郎(64) 2006/10/6 掲載

秋の風

2006-10-05 12:34:35 | はがき随筆
 「部屋の中でも熱中症になる異常な暑さ」と報じられた今年の夏。体調不良から、海水浴はおろか孫たちと花火大会に行くチャンスも失した。こんな夏は、大人になってから麻疹にかかり、重症だった年以来だ。
 弱り目にたたりめ、夏風邪で咳にあえいでいる。こんな時こそ美味しい完熟トマトが欲しいのに野菜は品薄。追い打ちは、ひいきチームがまさかの連敗で、優勝から遠のいた。
 「何のたたりか」と不運をぼやいていた矢先、ペン友たちと自主制作した番組が地元FM局の電波に乗った。
 朝夕の風が涼しくなりだした。
   鹿屋市 上村 泉(65)2006/10/5 掲載

今後も創作に

2006-10-04 17:15:57 | はがき随筆
 あと20編で14冊1680編の創作を終える。1つの楽しみが生じてきた。今までの創作の努力が認められる。やる気と自信が芽生えてくる。今まで4回の入賞も創作の結果であろう。掲載数も三十数回を超えている。前進あるのみの考えで、今後も創作に打ち込んでいこう。2000編と言わず、3000編4000編と目標にし根気強くコツコツとやっていこう。一歩一歩と近づくであろう。あと数年は要するだろう。8月分何と89編に至った。8月分よりもさらにさらにと今月分も地道ながら打ち込む。今日は既に2編目、4編目を目指している。
   出水市 岩田昭治(67) 2006/10/4 掲載

人の情けに涙……

2006-10-03 11:01:46 | はがき随筆
 県北部の集中豪雨の被災から2週間が過ぎたころ。友が「水は漏れるが、よく冷える冷蔵庫だ」と、勝手に裏の出入り口の土間に、庭のブロックを数段積み、据え付けた。「これで当座はしのげる。入れる物は自前だよ」と、ちゃかす友。
 私たち被災者は、出水5高校や一般のボランティア活動に、地獄で浮輪を見つけた思いだった。自宅も3高校生の獅子奮迅の大活躍により、泥水一滴もないほどに回復していただいた。
 ボランティアの皆さんや友、隣近所の支援に「大人を泣かせないでよ」と涙した。
   出水市 道田道範(57) 2006/10/3掲載

秋の夜長

2006-10-02 16:19:55 | かごんま便り
 どれどれ、もう一度。読み慣れない古典の最終章を読み返した。江戸時代前期の俳諧師、浮世草紙作家の井原西鶴「好色五人女」の5話目は鹿児島が舞台だった。当時の町人の心情を描いた「日本永代蔵」が面白く、西鶴の別の作品をと偶然手にしたのが「好色五人女」だった。
 女性ばかりの話だと思っていたが、鹿児島の話は男が主人公。長年愛した美少年が死に、高野山に修行に行く途中に出会った若者にも死なれた男。鹿児島に帰り、世捨て人のような生活をするが、女性に見初められて一緒になる。最後には女性の実家で財産を受け継いだという話。
 文中に「さつまがた浜の町」と出ている。現在、支局がある小川町の近くが舞台の話でもあった。好色五人女はモデルになる話があったそうだ。西鶴は大阪を中心に活躍した人。どのようにして遠く離れた鹿児島の話を仕入れたのだろう。
 福岡県嘉麻市上臼井に「皿屋敷跡」がある。あの「いちまーい、にまーい、…きゅうま-い」の怪談話の発祥の地という。しかし「播州皿屋敷」「番長皿屋敷」として知られている。
 奉公先の皿を割って死んだ女性の許嫁が、魂を慰めるために四国巡礼の旅の途中、播州(岡山県)の旅館に宿泊。哀れな女性の話を聞いた旅館の主人が芝生で興行させたところ、播州であった話のように広まったもの、と説明されている。
 もっと、調べたところ全国各地に皿屋敷伝説があった。女性の名も、お気句、おまさ、お花、お千代など。似たような話が各地にあったのかも知れない。
 当時は各地からあらゆる物資が集まる場所が上方だった。そのゆうな物を運んでくる人たち、商人らが諸国話をし、あるいは伝え、西鶴も又聞きしたのだろう。
 それにしても、4話までは悲惨な結末だったが、鹿児島の話は「めでたし、めでたし」で終わっている。しかし、解説を読むと最終章がハッピーエンドなのは祝儀性を強くする西鶴の傾向とある。また「中興世話話早見年代記」には「寛文三卯 さつま源兵衛お万心中」とあり、実際は悲話であったらしい。
 秋の夜長。何げなく読んだ古典が鹿児島に関係し、しかも支局近辺であった話。仕事柄、西鶴がどにように取材をしたのかまで想像し、つい夜更かししてしまった。
   毎日新聞鹿児島支局長 竹本啓自 2006/10/3 掲載

徒然に…

2006-10-02 15:35:13 | はがき随筆
 「つれづれなるままに、日暮らし硯に向かいて、心にうつりゆく由なしごとを、そこはかとなく書き付くれぱ、あやしゅうこそもの狂ほしけれ」
 これは吉田兼好の徒然草の序段である。なすこともなく退屈なまま……。浮かぶがままに書き付けていると……。兼好は日がな一日、筆を執り続けるうちに、自分が正気かどうかさえ疑われるような狂おしい気持ちになったのだろうか。我が随筆は浅学非才の身ゆえ、拙い筆の運びの身勝手な自分流である。徒然に、まとまることもなく書いては消し、消しては書きの繰り返し。時折、兼好のような心持ちになる。
   鹿児島市 川端清一郎(59) 2006/9/30 掲載

乗り換え

2006-10-01 15:44:42 | はがき随筆
 ヨーロッパを1人旅する娘に、イタリアだけ私も同行した。ローマ、フィレンツェ、ベネチアを旅行中は、すべて娘任せなので気楽なものだった。
 楽しい1週間はたちまち過ぎ、いよいよベネチアで娘と別れ、私はドイツのフランクフルトで乗り換えて帰国しなければならない。鹿児島弁しか話せない私は不安でいっぱい。もう頼る人はいない。
 出国審査で質問されないことを祈りつつ、わずかな予備知識とスペルを頼りに搭乗ゲートを見つけた時、それまでの緊張感が取れ、達成感みたいなものを感じた。
   垂水市 竹之内政子(56) 2006/10/1 掲載