はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

珍獣騒ぎ

2009-07-17 22:10:12 | かごんま便り


 鹿児島市喜入地区で、九州本土にいないはずのマングースが捕獲され、騒ぎになっている。1日以降、県などが仕掛けたわなに3頭がかかった。

 マングースは、日本固有の生態系に害を及ぼす恐れのある「特定外来生物」に指定された食肉目のほ乳動物。県のホームページに、間違われやすい動物として紹介されているイタチやテンとはいわば親類だ。確かによく似ているが、長くて丈夫な尾が特徴。顔つきにもどう猛な性格が伺え、和風で穏やかな表情?のイタチなどとは大違いだ。

 沖繩では明治末、奄美でも30年前にハブ退治の目的で放たれた。だが肝心のハブはさっぱり捕らず、農作物や他の野生生物ばかり食うので駆除の対象になっているのはご承知の通り。マングースとハブの対決は私も見たことがあるが、閉鎖的な「リング上」だから闘うのであり、他にいろんな餌がある自然界で、好物でもないヘビを捕るはずがない。第一、夜行性のハブに対しマングースは昼行性というから、いかにハブの被害が深刻だったにせよ、全く見当外れの試みだった訳だ。

 奄美では、96~99年度調査で5000~1万頭にまで増え、アマミノクロウサギの生息を脅かしていると問題になった。環境省が10年計画で駆除を進めた結果「相当数減ってきたことは確実」(同省奄美自然保護官事務所)だが、事業最終となる14年度までに根絶できるかは微妙という。

 喜入のマングースだが目下、どこから来たのかは不明。南薩の観光施設から逃げ出したのではとのうわさ話も耳にする。市によると、一帯に生存を脅かされかねない希少生物はいないそうだが、放っておけば奄美のように生態系に害をなす恐れは多分にある。早期駆除が必要なのは論を待たないが、そもそも人間さまの身勝手が出現の背景にあることを思えば、無実のマングース君が少々あわれにも思える。

鹿児島支局長 平山千里 2009/7/13 毎日新聞掲載

収穫

2009-07-16 17:08:05 | アカショウビンのつぶやき
 収穫と言っても、実そのもの…種である。

 いつもの定番、ニガウリにミニトマトしか作ったことがない私が、今年初めて野菜作りに挑戦した。今まで隣の姉がせっせと作る野菜をその都度、ちょうだいしていたが「あんたも自分で作ってごらん…」と言われてしまい、プランター栽培だけれど苗を植え、種を蒔き数種類の野菜を育ててみた。

 種まき、水遣り、虫取りと世話することは多いが、成長が楽しみで次々とプランターが増えていった。まき時をずらして、やわらかな青菜を長い間、楽しんだ。

 まき時をとうに過ぎた6月中旬「まあどうなるか挑戦だよ!」と小松菜、べんり菜、水菜と次々蒔いてみたが、やはり無理だったようで、これは全滅。

 でも種を買って驚いたことがあった。水菜、小松菜、べんり菜の種、すべてが外国産なんて、今まで知らなかった。いつから野菜の種まで輸入しなきゃならなくなったのだろう。

 来年は自分で取った種で栽培しようと、それぞれ一株ずつ残して種を取った。小松菜や水菜、べんり菜の種は既に冷蔵庫に保管。今日はようやくレタスの種が取れた。小さな小さな種がこぼれるように…。

 花の種も同様に採取したので、来春は忙しくなりそう。

 心配なのは台風。植木鉢やプランターが増えすぎちゃったけど、さぁてどうしよう。

写真は去年のこぼれ種から発芽し、たわわに実をつけたミニトマト。
でも葉っぱが枯れはじめ、これで終わりになりそう…。 

美しい疑問

2009-07-16 16:37:27 | 女の気持ち/男の気持ち
 歩くとカツッ、カツッと岩をはむ登山靴の金具の音が昔から好きだった。が、今日の登山靴に金具はない。雨の中、年月を経た巨木や岩の立ち並ぶ薄暗い森の中を静かに歩いている。
 足元にはフタリシズカの花の群れ。行く手にはシャクナゲの花。頭上にはヒメシャラの花たち。霧が流れる谷間には満開のヤマボウシの花が見え隠れする。
 やがて今にも倒れてきそうな大岩に出合った。先客が岩の下に20本ぐらいの枯れ枝で突っ張りをしている。私たち8人全員両手で押し、祈った。
 「こんままでずっといるんだよ」
 妻の言葉が合図だったかのように、全員が再び歩き始めた。
 激しい風が森全体を揺らすとビー玉サイズの雨粒が落ちてくる。黄色い厚手のレインコートの内側にいるのを感じ、妙に心地よい。
 淀川登山口から3時間、花之江河に着いた。霧雨の中に湿原と木道が見える。油断すると突風に吹き飛ばされそうだ。風を避けて森の中で握り飯を食った。塩が利いて実にうまい。食べ終わると同じ道を引き返すことにした。
 山を下りると、荒れた海を眺めながら尾之間の温泉に浸った。
 「一日中コマドリの声がした。あれだけの雨でも淀川は濁らず透明なのだ。なぜ」
 美しい疑問を残した梅雨の屋久島の森であった。
  鹿児島県出水市 中島 征士・64歳 2009/7/12 毎日新聞の気持ち掲載 

グリーン作戦

2009-07-16 16:30:54 | はがき随筆
 わが家の居間は明るくて居心地がいい。ところが、夏は東側の掃き出しの窓に太陽が容赦なく照りつける。室温はぐうんと上って、涼しい場所を探して右往左往することになる。
 以前は、お隣の桃の木が緑のブラインドになってくれたのに、ばっさりと切られてからは、他力本願は無理と察して、今年は早々にツタ物を植える。
 夕方は水やりと、上向きに伸びたがるツタの先端を横向きに網にからませ直してやる。赤紫の朝顔と風船カズラの実が色づくのを見るのも楽しい。
 ガラス越しに緑が揺れる涼しさ。私のグリーン作戦は快調。
  霧島市 口町円子(69) 2009/7/16 毎日新聞鹿児島版掲載
写真はyumikoさん

遠い日

2009-07-16 16:25:22 | はがき随筆
 小向井さんのはがき絵はいつもうれしい。思い出がよみがえり、遠い日の自分に帰ったようでウルウルになる。カメラやビデオのない時代、セピア色の記憶だけが頼りの私には、ぼんやりとしか浮かばない。でも小向井さんの絵はまるで写真のように鮮明によみがえる。小学生の時、日食があり、ガラスにススをつけて校庭で見たことがある。先生に、次は何十年後と言われたことを思い出した。還暦を迎え身体のあちこちが悲鳴をあげだした。その日食が間もなくくる。小向井さん、いつまでもご健康で、これからもたくさんのはがき絵をお願いします。
  指宿市 有村好一(60) 2009/7/15 毎日新聞鹿児島版掲載

大せん定

2009-07-16 16:19:33 | はがき随筆
 最近、我が輩の主は庭木をバッサリ。お陰でクロガネモチの私も背が低くなり、柿の木さんなどは根元から切られて跡形もない。原因は手入れが出来なくなったからのようだが、心境の異変は他にもある。
 外出が多くなった奥さんと家事を分担して、遠出もやめ車も軽自動車に買い替えたようだ。
 園芸好きな奥さんは、庭が広く日当たりが良くなって喜んでいるが「先が心配。″埋蔵金″のタンス貯金の場所は教えてね」と皮肉っている。
 今度は、主は埋めた他の跡でメダカを飼い、ウオーター・レタスを育てている。
  鹿屋市 上村 泉(68) 2009/7/14 毎日新聞鹿児島版掲載
写真は南さん

子離れ中

2009-07-16 16:15:58 | はがき随筆
 この春、高校を卒業した息子は熊本の大学に進学した。
 一人暮らしを始めてすぐ「夕ごはん何食べた?」とメールした。すぐきた返事には「うるさい」の4文字。心優しい人にと育ててきたつもりなのに。傍らでパソコンしている夫に話すこともできず、しばらくは顔を上げることができなかった。
 数日後、息子からの久しぶりの電話に心躍らせた。「メ-ルにハートマークつけるのやめてくれない」
 そして先日。「冬物のシーツの洗濯、どうすればいいの?」
 「行こうか?」 「何で?」。ことごとく愛想尽かされている。
  鹿屋市 藤崎能子(57) 2009/7/13毎日新聞鹿児島版掲載

正座

2009-07-16 16:12:35 | はがき随筆
 「かあさん。正座って知ってる?」
 ほっぺを真っ赤にした娘の、得意気な第一声。小学校に入学して間もなくのことである。
 「すごおい。どうして正座したの?」「先生が来るのを見に行ったの。そしたら『席を離れた子は正座しなさい』って」「そう、次から席で待とうね」「うん」。神妙に、けれども、さも楽しげに正座しているチビ遠の中で″紅二点″のTさんと娘。情景を思い浮かべて、いまでも時折笑ってしまう。
 あれから25年。「正座」がご縁で、Tさんの母親とのお付き合いは続いている。
  鹿屋市伊地知咲子(72) 2009/7/12 毎日新聞鹿児島版掲載

ご機嫌いかが

2009-07-11 19:10:53 | はがき随筆
 77歳の知人は、ご主人を亡くして16年。8年前に1人っ子同士の結婚をした子供さんは、お義母さんと同居している。
 「娘は一向に赤ちゃんを産んでくれなくて。私たちの面倒もだけど『診察を受けないなら、あなたには財産を譲りません、と遺言を書く』と話そうかと思います」。切実な願いが□に出たけど、次に会った時はその話は出ずじまいだった。
 条件を出して生まれるものならなあ。半年前に嫁いだ自分の娘もまだ兆しはなく、少子化問題は身近にありそう。コウノトリのご機嫌を伺いたい。
  いちき串木野市 奥吉志代子(60) 2009/7/11 毎日新聞鹿児島版掲載

朝市にて

2009-07-11 19:03:56 | はがき随筆
 2歳の孫娘と朝市に行った。露店の前には試食品があり、店の人は笑顔で孫に試食を勧める。孫は喜んで何度もつまんだ。
 買い物をすませ、帰ろうとしたら孫がいない。見回すと、少し離れた店の試食品の前でモジモジしていた。当然、店の人はスポンサーの見当たらない子には試食は勧めない。「早くおいで」と呼ぶと、店の人も「ほら、お母さんが呼んでるよ」
 すると、渋々歩き出していた孫が立ち止まるや、振り返り叫んだ。「お母さんじゃないよ。ばばちゃんだよ」。お店の人はびっくり。お母さんと言われ気を良くしていた私は苦笑い。
  出水市 清水昌子(56) 2009/7/10 毎日新聞鹿児島版掲載

私の積み木

2009-07-11 18:41:14 | 女の気持ち/男の気持ち
 また、積み木をひとつずつ積み上げている。今度はどんな型に積み上げようかと迷いながら。せっかく積み上げても壊されてしまうけど……。
 この春、結婚してから8回目の引っ越しを済ませた。前回からわずか7ヵ月だった。前々回は夫が突然時期はずれの異動になり、私は急に仕事を辞めざるを得なかった。仕方がない。ずっと夫と一緒に回ると決めたのだから。
 こうして夫の転勤に伴って県内各地を回っていると、いろいろな土地に行ける楽しみはある。今まで住んだ町がニュースに出たりすると懐かしく思い出される。夫が退職したら、かつて住んだ場所を2人で訪ねる楽しみもある。でも、ここ数年は少々疲れ気味。
 せっかく新しい生活を築き上げても、どうせまた壊されてしまうと思うと虚しくなる。
 そんな私の耳に聞こえてくる「新しい土地での生活を楽しみなさい」「自分から積極的に入っていかないとダメよ」という声。私は強く耳をふさぎ、「分かってる。分かってる」と叫ぶ。
 夫の仕事上、私も今までその地域になじもうと精いっぱい頑張ってきた。もちろん楽しいこともいっぱいあった。今度の場所もとても心地のよさそうな町でホッとしている。
 でも、私はもう頑張りたくない。これからの積み木は、ひとつずつ、ひとつずつ、ゆっくりと私の好きな型に積み上げていきたい。
  鹿児島県中種子町 西田 光子・51歳 2009/7/10 の気持ち掲載

変調でした

2009-07-11 09:55:55 | はがき随筆
 あ、もし、M様。少々他人行儀にこう呼ばせてください。何しろ、前触れもない見知らぬ方と思ったものですから。
 その日は目まいと耳鳴りで起きられませんでした。用足しでは激しいおう吐もきました。
 おかしいな。悪い食べ合わせだろうか。それとも脳卒中のたぐいかな。でもしびれはない。
 私は枕元の電子辞書で横のままご芳名を探してみました。
 メニエール様なのですね。あなたからのメッセージも分かりました。年相応に無理なく、ですね。それから2週間ほどたちマスターズ陸上に出ました。
 懲りない男です。では。
  出水市 松尾繁(74) 2009/7/9 毎日新聞鹿児島版掲載

あまのじゃく

2009-07-11 09:52:41 | はがき随筆
私は実に従順な患者である。スタッフの言うことはもちろん、どんなに苦しい検査も飲み薬も拒否しないので、周囲の私に対する態度は好意的である。
 しかし行動と精神は必ずしも一致しない。長い聞、閉そく状況に置かれた私の心はボロボロである。看護師が「がんばりましょうね」と言えば「もうこれ以上がんばれない」と言いたくなる。妻が「手術は大丈夫」と励ませば「盲腸も切ったことのない人間に何かわかるか」と悪態の一つもつきたくなる。
 すっかり精神があまのじゃくになった私。でもこちらが居心地がよく、似つかわしいのだ。
  伊佐市 山室悟入(62) 2009/7/8 毎日新聞鹿児島版掲載

初めての旅

2009-07-11 09:09:31 | はがき随筆
 6歳の時、母親と姉に連れられて阿蘇の父の実家への旅。母がくれた柿を食べてバスの中で吐いてしまった。有佐駅で初めて汽車に乗った。機関車に驚いた。発車の時、機関車の悲鳴。何もかも生まれて初めての経験。汽車が動き出すとガクンと乗客がうごめいた。立野駅から高森線に乗り換え、白川鉄橋から谷底の川が小さく見えて渡るとすぐトンネルに入る。70年前の光景が今も残像として思い出される。用水が止まって魚がたくさん取れた。帰る前、母がいつ帰るねと聞かれた。私が、串ざしにされた魚が無くなってから帰ると告げて皆から笑われた。
  鹿屋市 山口弘(77) 2009/7/7 毎日新聞鹿児島版掲載
写真はマーキュリーGO GO!!さん

2009-07-11 08:31:18 | はがき随筆
 ぶらりと家の畑を歩いた。
 モンシロチョウがうれしそうに飛び交い、スズメもチュンチュン遊んでいる。アジサイの花が、今が一番と言うように色とりどりに咲いている。カンナも真っ赤な花を咲かせている。梅の木も桃の木もビワの木も、それぞれにおいしそうな実をつけている。柿の木は小さな実をつけて秋を待っている。ツワも青ジソも赤ジソも、所狭しと咲き誇っている。
 今年も食卓をにぎやかにしてくれる。母が丹精込めて育てている畑。土とはありがたい。人と共に、季節ごとにさまざまなものを育ててくれる。
  出水市 山岡淳子(51) 2009/7/6特集版-4
  毎日新聞鹿児島版掲載