はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

連載小説

2009-09-23 08:11:05 | はがき随筆
 新聞連載中の「下流の宴」は今が佳境にあるようだ。
 若い2人の思い、生活、行動の様子は私の過ごした時代とは余りにかけ離れているが、むしろ羨望に近い感情が行間にあふれている。
 珠緒が、噴出する感情で突然に「小さい平凡な幸福論」を捨て、強い意志で壁に近い「医学部入学」に体でぶつかっていく。無謀に挑戦する勇気に、私は拍手を送りたい。これからの展開に興味津々、楽しい。新しい世代に一歩近づく思いがして老いの私に夢をくれることを期待する。窓からはケイトウの花が読書の時を告げているようだ。
  鹿屋市 小幡晋一郎(76) 2009/9/23 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆特集「風」-18

2009-09-22 13:46:45 | はがき随筆
「扇風機」
 主が帰って来た。冷房ぎらいな彼女とは相性がよくて、僕のところに直行してくれる。そこで律義に右に左に首を振る。
 最近は秋めいてたまには無聊をかこつことがある。そんな時、主は勲章のようなほこりを僕の顔に見つける。働いていると気づいてもらえず、休むとやっと分かっ
てもらえるのも皮肉。
 残暑が厳しく働きに働いたある日、主はのどが弱いのを忘れて僕にべったり。案の定、のどを痛めてコーラスによくなかったと後悔している様子。やれやれ、こんな主に仲良くつき合って、今は優しく風を送っている。
  霧島市 □町円子(69) 2009/9/22 毎日新聞鹿児島版掲載



はがき随筆特集「風」-17

2009-09-22 13:42:23 | はがき随筆
「秋風」
 1番ゲート通過。元気なお年寄りの歓声が響く。帰省の度に父の大好きなゲートボールに参加して数年、すっかり皆さんとも顔なじみになり面白くなってきた。四季折々、冬はたき火で暖を取り、夏は柿の木の陰で涼を取り、楽しみは各自持ち寄ってのお茶休憩。そんな時会長さんから特別の会員として木札に名前を頂いた。うれしいなあ-。あれから1年余、急に体調をこわした会長は帰らぬ人に。近くの畑から昼野火の煙が漂い、彼岸花咲く会場に今日もボールのはじく音が聞こえる。時々秋風がほおをなでると、優しかったありし日の会長が思い出される。
  指宿市 有村好一(60) 2009/9/22 毎日新聞鹿児島版掲載


はがき随筆特集「風」-16

2009-09-22 13:30:47 | はがき随筆
「嵐が去った夜」
 南薩の畑作地帯を望む峠のバス停で下りて君のもとへ向かった。君は古民家に家主のおばさんと住んでいた。夕暮れの庭先にはタマスダレの花が咲いていた。
 翌日、予想外の台風に急襲された。長崎鼻散策を断念し激しい風雨に耐えていた。そんな時チラッと外が見えた。瞬間、屋根に穴が空いた!のだ。勝手口の敷居の腐った片方が風圧で外れていた。それから長い間敷居を押して板戸を守り続けた。嵐が去ったその夜、満月であった。十五夜の供え物の横に正座した君と月明かりに澄んだ世界をいつまでも眺めていた。
 遠い遠い青春のこと-。
  出水市 中島征士(64) 2009/9/22 毎日新聞鹿児島版掲載


はがき随筆特集「風」-15

2009-09-22 13:22:39 | はがき随筆
「シャボン玉」
 我流で俳句を始めて1年3力月。「東風」(こち)「南風」(はえ)「雁渡し」(かりわたし)「神渡し」などの季語も覚えた。風は吹くものだと思っていた。吹いてこそ風だと。しかし風に吹かないでと祈る童謡のことを聞いた。「シャボン玉飛んだ/屋根まで飛んだ/屋根まで飛んで/こはれて消えた/風、風、吹くな/シャボン玉飛ばそ」。不勉強で作詞者の名は知らない。彼の娘が幼くして亡くなり、その娘を思って書かれたのだと伺った。童謡の中の「シャボン玉」とは、「屋根」とは、「風」とは……。彼の思いに寄り添ってこの歌を口ずさむ時、最後まで歌い通せない私がいた。
  霧島市 久野茂樹(60)2009/9/22 毎日新聞鹿児島版掲載



はがき随筆特集「風」-14

2009-09-22 13:19:05 | はがき随筆
「風に思いを」
 砂漠の風が、目の荒い砂をすくいあげてサラサラまくのを見ていた。
 ワディ・ラムの風は生きていた。風の話が聞き分けられないか、心を澄ましていた。
 シリア人のガイドの声で、ツアーに引き戻された。連れたちが、巨大な岩山に向かって叫びはじめた。
 ああ、こだまなどほしくない。
 あの人に届きますように。
 吹き渡る風におもいを託した。
 妹にカメラを向けていた妹の夫は「さっこさんはもうー」と言って笑った。
 鹿屋市 伊地知咲子(72) 2009/9/22 毎日新聞鹿児島版掲載




はがき随筆特集「風」-13

2009-09-22 13:14:40 | はがき随筆
「民意の風」
 絵本の世界に「夏にゆかた姿の子供が、縁側につり下げてある風鈴の下で遊ぶ」情景の絵がある。
 風鈴の音が聞こえてきそうな気がする風もある。
 風は風でも、今回、民意の風が吹いて民主党が圧勝した。
 台風などの自然の風も怖いけれども、国民の思いとも言うべき風も、時には吹いて空気の流れを変えて良いのではないか。
 スッキリした青空の下で、そよ風を求む。
 鹿児島市 下内幸一(60) 2009/9/22 毎日新聞鹿児島版掲載


特定健診

2009-09-22 01:19:23 | アカショウビンのつぶやき
特定検診の結果が届いた。予想はしていたけれどD判定。
主治医のH先生曰く「75年も使った体だがね、おかしいところも出てくるのよ」
「はい、仰るとおりです」。
メンテナンスもしっかりやってないし、その結果がD判定か。

早速コレステロールの薬が処方され、毎日の血圧測定を言い渡される。
あぁあ、次は降圧剤の処方かなぁ。

更に転倒予防の筋肉トレーニングも勧められた。
しょっちゅう転ぶので「次に転んだら骨折だよ」と皆に脅かされている私。

運動嫌いで、「わかっちゃいるけど…」で結局何もしない私でも、ここまで追い詰められたら少し焦りも出てきた。

でも腹筋運動をすれば、首が痛くなり、片足立ちをすれば腰が痛み、歩けば足が痛くなる。何かをやれぱどこかに障害が…。

でも寝たきりはいやだし認知症も怖い。
鹿屋市と体育大学が提携して「鹿屋市民体操」なるものが出来たらしい、名付けて「ゆったり、いきいき、はつらつ体操」ボチボチ行きましょうか。

はがき随筆特集「風」-12

2009-09-21 20:32:14 | はがき随筆
「漂う」
 船一面の干し物の中、裕次郎が缶詰をほおばる。「太平洋ひとりぼっち」のワンシーンである。
 現在の私の人生も似たようなもの。プカプカ漂うだけで風が吹かない。これまでだって順風満帆ではなかったが、逆風を乗り越え乗り越えやってきた。ところが還暦を過ぎるや否や病魔がいっぺんに襲う。予期せぬ事態に私はうろたえ心身共に消耗した。今やっと小康状態の波間で立ち直る機会を得て、ヨットは動こうとしている。
 このチャンスをつかみたい。
 人生の帆にいっぱい追い風をはらみ、さあ進んでいこう。
 伊佐市 山室恒人(63) 2009/9/21 毎日新聞鹿児島版掲載




はがき随筆特集「風」-11

2009-09-21 20:31:50 | はがき随筆
「涼風探し」

 やっと見つけた川内川の下流が見えるコンクリートに腰をおろし「脳を鍛える大人の名作絵本」を開く。
 5年前、知人のお見舞いに5冊求めたが不要になる。今の自分に適当だと思い、早速、指示通り最初の1㌻だけ音読。あとはじっくり気の向くまま読み込むことにした。しかし朝から32度の8月上旬の暑さに耐えられずエアコンの使用で体調を崩した。
 1時間だけでも自然の風が欲しい。狭い裏庭に水をまき蚊取り線香。涼風をみつけた。幸せなひとときだ。シソの白い花が本に散る。音のない世界。
  薩摩川内市 上野昭子(80) 2009/9/21 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆特集「風」-10

2009-09-21 20:31:44 | はがき随筆
「台風18号の記憶」
 平成11年9月24日未明、最大瞬間風速83.9メートルと認知された台風18号は、強い勢力を保ったまま私の故郷、甑島を暴風域に9時間入れ、直撃した。その時、私と母は家にいた。風圧で弓形に反り、飛ばされそうになる戸を風が収まるまでずっと押さえ続けた。生きた心地がしなかった。
 夜が明けて外に出てみると、我が家も近所の家も瓦ははぎ取られていた。島内の状況が分かってきた。港のボートが山の高さ約120㍍のところまで飛ばされるなど被害甚大であった。
 あれから10年たつが、今もあの記憶が薄らぐことはない。
  鹿児島市 川端清一郎(62)2009/9/21 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆特集「風」-9

2009-09-21 20:08:50 | はがき随筆
「台風の思い出」
 私が14歳の秋、夜中に強い台風が吹き庭の外に特別に作られた便所が、下の方から屋根ごと横だおしに倒れた。昔は今様のトイレではなく雨や風の日、また夜でも懐中電灯で用足しに出たものです。
 大事な便所が倒れ即、困ることに。父が中学校に勤めていたので、その朝職員室で話題にしたと思う。全員で笑ったことでしょう。その話は知っているのに、知らないふりして、学級担任が教室に来てすぐ質問。「昨夜はひどい風だったね。災害は。便所が倒れた所は手を上げて」と私の方を見ておもしろそうに笑った。
 私が手を上げると思ったの?
  肝付町 鳥取部京子(69)2009/9/21 毎日新聞鹿児島版掲載


はがき随筆特集「風」-8

2009-09-21 20:04:36 | はがき随筆
「秋の風」
 休診の土曜日の午後、明日投稿の短歌を作り終え、たそがれの庭に出てみる。
 赤く熟れた柿がいっぱい実った梢でふと法師ゼミが鳴き出し、今までと違った風が肌につめたく流れ始めてきた。庭の隅を見ると、彼岸花が芽を出し、そこに秋がきていた。秋の風は忙しい。
 妻を失って6ヵ月。はじめての秋は風がつめたく寂しいと言うがほんとうなのだろう。一人になってこの秋をどう生きるか、風の冷たさが身にしみてくる。
 老いて一人、つめたくなった風を浴びながら、秋から冬の寂しさに耐えて生きたいと思う。
   志布志市小村豊一郎(83) 2009/9/21 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆特集「風」-7

2009-09-21 20:01:15 | はがき随筆
「風は私の絵本」
 風は絵本。思い出の中も今も、いつも風が吹く。めくってもめくっても際限なく、さまざまな情景が頭の中をかけ巡る。
 春。ヒメジョオンのゆれる白い野道。風は柔らかくやさしい。
 夏。太陽に光り輝きそよぐ夏草。まぶしすぎる空に雲が流れる。
 秋だよ、と風が一番にそっと肌に触れる。暑さに疲れた体がふっと元気を取り戻す。
 冬。寝しずまったころ、カタリとかすかにガラス戸をたたく。だあれ?
 四季の風の中は、1人の時もある。懐かしい人々がそばにいる時も。いつも風と一緒。私の絵本。
  鹿屋市 戸高昭子(65) 2009/9/21 毎日新聞鹿児島版掲載


はがき随筆特集「風」-6

2009-09-21 19:45:40 | はがき随筆
「彼岸の風」
 かなたに阿久根大島を望み、こなたにヒガンバナやコスモスが咲き誇る畑の片隅。
 ここは私の天国である。
 草刈りを終え、お茶を飲み、長椅子に横たわる。
 心地よい疲れに、いつしかウトウトする。
 ペットボトルの風車が急に回り始め、目が覚めた。
 「あ、千の風さん。いらっしゃい。私よ、私」
 27年前、彼岸の中日に旅立った夫はどこ? 風は「こんなおばさん知らないよ」と言わんばかりに、涼やかに過ぎていった。
  阿久根市 別枝由井(67) 2009/9/20 毎日新聞鹿児島版掲載