はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

はがき随筆特集「風」-5

2009-09-21 19:41:29 | はがき随筆
「再会の熱風」
 還暦を過ぎこんなに興奮を覚えたことはいまだかつてない。それは突然、小学卒業の同窓会案内状が舞い込み半世紀ぶりに会える「うそ」のような話。仲間の顔が浮かび、胸がざわめき、早く会いたいと気持ちが募る。
 自分の変容は棚に上げ友は見分けがつかないのでは? しかし兄弟のように遊んだK君や学芸会で私の妹役のAさん、キャンデー屋のH君など、面影はしっかり残っていた。忘れることのない学友。よくぞ元気で巡り合えた。再会のひとときを過ごし窓を開けると向かい合う笑顔に「えも言われぬ喜び」の熱い風が吹きつけた。
  鹿児島市 鵜家育男(64) 2009/9/20 毎日新聞鹿児島版掲載


はがき随筆特集「風」-4

2009-09-21 19:31:30 | はがき随筆
「人生の風」
 人生には二つの風が吹く。追い風の時はすべてが順風満帆だ。ひとたび向かい風に遭うと難行苦行となり人生が狂う。現役時は仕事上処理に迷う案件が生じた時、どんな圧力があろうが適正に処理した。向かい風を招かないためである。かように自分の信念で風向きを変えるのは可能だ。ところが自ら向かい風を招き罪を犯す人が絶えない。特に定年間際のケースは凡人の小生には理解できない。家族の心情を察すると心痛む。我が人生を振り返ると、追い風が微笑んでくれたが、いつ向かい風になるか分からない。残りの人生を追い風を逃がさぬよう努力したい。
  指宿市 新留栄太郎(67) 2009/9/20 毎日新聞鹿児島版掲載



はがき随筆特集版「風」-3

2009-09-21 19:28:03 | はがき随筆
「風」
 一夏、クーラーや扇風機の世話になった。今は朝夕の風が涼しい。だが雨不足で野菜が値上がりし日本の水がめが干上がっている。台風はいただけないが、程良い風で水がめを満たしてくれるとよいが。インフルエンザの風は魔物、要注意。散歩道を風が吹き抜ける。垂穂の面を風がなぞってゆく。海の風がたおやかな波を岸に運ぶ。雄大な桜島を目前に風がおいしい。8月は民主党風が列島を吹きまくった。結末に国民は驚き、不安と期待の中にいる。人々の幸を保証する千の風になってほしい。さて我が心の中にも時々つむじ曲がりの風が発生する。反省多し。
  霧島市 楠元勇一(82) 2009/9/20 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆特集「風」-2

2009-09-21 19:23:19 | はがき随筆
「私の秋」
 今から42年前。エアコンもない産科病棟で、大きなお腹を抱えた私は、連日のうだるような暑さにじっと耐えていた。長い不妊治療の末、やっと授かった小さな命は、妊娠37週に切迫流産と言う試練にみまわれ、絶対安静を言い渡された。天井の扇風機から届く風は生ぬるく、仕事帰りの夫が額の汗をぬぐいつつ、うちわであおいでくれたものだった。
 忘れもしない9月12日。一陣の涼風が汗ばむほおをそっとなでた。ああ秋の風だ!
 それから私の秋は9月12日。
 晩秋に元気な産声を上げたのは男の子だった。
  鹿屋市 西尾フミ子(75) 2009/9/20 毎日新聞鹿児島版掲載



はがき随筆特集「風」-1

2009-09-21 19:17:53 | はがき随筆
「高原の風」
 娘夫婦の招待で、1泊の小旅行をすることになった。メンバーは私たち夫婦と、婿の両親の計6人である。婿の運転で、残暑の厳しいハイウエーを北へ走り、霧島に到着する。高原温泉街の風情を体感するのは久しぶりだ。
 しばらく久闊を叙してから、うたげの席に着いて驚いた。私と婿のご母堂の、傘寿の祝宴だという。乾杯の杯に涙をこぼしそうになり、ありがとうの心が声にならない。
 娘夫婦も近く銀婚式を迎えるらしい。うれしいことだ。高原の風に満天の星が揺れている。
<神々の里に傘寿の新酒酌む>
 鹿児島市 福元啓刀(79) 2009/9/20 毎日新聞鹿児島版掲載





真夏の昼の夢

2009-09-21 19:05:58 | はがき随筆
 部屋に涼しい風が入り、読書していると睡魔に襲われ夢うつつ……。孫息子が出現し「ばあちゃん、セミがたくさん止まっているよ。捕ってね」とおねだり。網で捕った。セミたちのオーケストラは華やかでにぎやかでダイナミックだ。バイオリン、チェロ、コントラバス、ピアノ、ラッパもそろう。孫息子とセミー匹はチョウネクタイにタキシードで正装。タクトを振っている。合唱団も□を大きく開き歌ってる。スポットライトを浴びて輝かしい光景。無邪気で可愛い。夢の世界。やがて目覚めた。ああ夢だったのか。幻想的な1シーン。真夏の昼の夢。
  加治木町 堀美代子(64) 2009/9/19 毎日新聞鹿児島版掲載

節目に生きた90代

2009-09-21 18:55:34 | はがき随筆
 大正14年11月21日生まれ。昭和との境。大正、昭和、平成と移り変わるその中で上海・満州事変と幼少時代より軍国調。昭和12年、日中戦争。拡大して大東亜戦争へ。世は国防色(緑)一色、教科書もさくら読本へ。満19才、徴兵引き下げ。学業半ばで現役入隊。復員して再び学業へ。教職38年。民主主義への移行。受け入れるのに苦労した。過去の教育をぬぐい去るのに大変だった。
 幾多の先輩、同窓を戦争で失った。人生20年が、80年まで生きのびた。変遷きわまりない人生、残りの人生を平和のために語りついでいきたい。
  薩摩川内市 新開譲(83) 2009/9/18 毎日新聞鹿児島版掲載


兄の復員

2009-09-21 18:50:54 | 女の気持ち/男の気持ち
 終戦の翌年の夏のことだった。夜中に玄関の戸をたたく音で目が覚めた。戸が開く音と同時に「おう! 帰って来たか」という父の声。私は跳び起きて玄関へ向かった。そこには南方から復員してきた軍服姿の兄がいた。
 それから家の中は興奮の坩堝と化した。母はうれし涙にくれながら風呂をわかし、食事の支度をした。私とすぐ上の兄はやたらと興奮し、何をしていいか分からず、ただ部屋の中をうろうろするばかりだった。
 父のこんなにうれしそうな姿を見たことはない。父は戦中戦後、兄のことを一度も□にしたことはなかった。けれども心の中では、長男の生還をどれほど願っていたことだろう。その思いが今、満面の笑みとなって表れている。
 栄養失調で青白くむくんだ兄の顔を見つめ、父は「日本の米を腹いっぱい食べてくれ」と言った。兄は満足しきった表情でおいしそうに食べている。15歳の私はそれをしげしげと眺めながら、うれしくて仕方なかった。4、5年の空白を埋めるように、話はいつまでもつきなかった。
 数日後、兄の戦友のお母さんが訪ねて来られた。息子さんのことを聞かれた兄は、戦死したことをどうしても言えず、知りません、分かりませんで通した。肩を落として帰るお母さんの後ろ姿を見ながら、私は涙が止まらなかった。
 その日一日、兄は無言のままだった。
  福岡県久留米市 坂井 幸子・78歳 2009/9/16 毎日新聞の気持ち掲載


厄介者こそ

2009-09-21 18:29:00 | 女の気持ち/男の気持ち
 出水平野の稲穂が出そろった。これから開花して結実する大事な時期を迎え、農家が最も緊張する時である。この時期の台風襲来は、稲に多大な被害を及ぼし、農家ならずともご遠慮申し上げたい。嫌なお客様である。
 高大切な田に欠かせないのが畦である。稲の生育の見回りに、肥料まき、農薬散布にと重宝される。必要不可欠な畦も雑草に悩まされる。田植え前に一回目の畦刈りをして稲刈りまでに五回ほどの手間ひまをかけさせる。厄介なやんちゃ坊主である。
 そこで農家も知恵を絞る。まずマルチビニールで畦を覆ってみた。雑草は繁茂しないし、実に歩きやすい。このアイデアに飛びついた農家は多かった。しかしそれまでの雑草の根が腐り、4年もすると畦が崩壊してしまったのだ。これには農家も慌てふためき、ビニールを引っぱがした。
 そうこうしていると散布するだけで雑草の根まで枯らすという除草剤が発売された。これを農家が見逃すはずがない。しかし雑草が枯れると畦は年々風化が進んでやせ衰えていった。これも農家が期待したほどではなかった。農家に畦借りの手間暇をかけさせる一番の厄介者が畦を保護していたのだ。
 しばらくすると出水平野が黄金色に染まる。そしてバインダーやコンバインが走り回り、収穫期を迎える。田んぼに笑顔がはじけるのももう間もなくである。
  出水市 道田道範(60) 2009/9/15 毎日新聞の気持ち掲載

ダンマ

2009-09-21 18:06:23 | はがき随筆
 私が小2の夏休み。唐芋と網を持たされ、姉と広瀬川に行った。唐芋を□でかみ、大小の石が重なり合う場所に吐き出す。10分もすると、ダンマ(テナガエビ)が数匹集まる。そのダンマを姉が、網ですくう。2時間もするとバケツー杯になった。貧しき食卓を、ダンマがにぎやかに飾ったものだ。
 その年の田植えが終わり、初耳の「ホリドール」なる除草剤が、出水市の田に一斉に散布された。翌年には、ダンマが広瀬川から消えた。
 農業用水路に、幻となったダンマを発見。唐芋をゆで、えさやりに行く今日このごろ。
  出水市 道田道範(60) 2009/9/17 毎日新聞鹿児島版掲載

心の洗濯

2009-09-21 18:03:28 | はがき随筆
 1300年間、奈良の興福寺で仏を守り、日本の歴史を見てきた阿修羅像が、九州国立博物館で多くの人を魅了している。
 三つの顔と6本の手の立身像はあやしく神々しい。愁いをおびたまなざしで正面を見る顔はいとしく、まゆの上がりや結んだ唇は厳しく……切ない。
 工匠が像を人の姿で表わし、心の微妙な動きを見事に描写した究極の技と美に心打たれる。いつの間にか手を合わせていた。阿修羅像の神髄は深く広い。
 30年ぶりに拝観した「天平の美少年」に、改めて芸術の崇高さを教えられた。心の洗濯も出来て秋空の気分である。
  出水市 清田文雄(70) 2009.9.16 毎日新聞鹿児島版掲載



エリックさん

2009-09-21 18:00:44 | はがき随筆
 米国ケンタッキー州より4年回、ALT(外国語指導助手)として市内小中学校で熱心にユーモアあふれる授業展開。父母たちも良い先生だったとうわさしてます。こよなく阿久根のサンセット、ボンタン、人情を愛し帰国されました。市報に写真入りで市民のみなさんへとメッセージを残されて。米国では歴史の先生になられるとのこと。阿久根の生活も生きた教材になることでしょう。僕は市役所に用件がてらエリックさんを訪ねました。木曜がフリーだったので。気さくな方で好青年、息子のような感じでした。ありがとうエリック先生。お達者で。
  阿久根市 松永修行(83) 2009/9/15 毎日新聞鹿児島版掲載


はがき随筆特集版-3

2009-09-21 17:37:34 | はがき随筆
「初めての屋久島」
  清澄な川の流れに手を浸す。水しぶきにぬれて岩々は緑にこけむし、わく霧は音もなく眼前を流れる。ここ白谷雲水峡から幽玄な「もののけ姫」の森を目指して一歩一歩登る。翌日は渓谷と神秘の森「ヤクスギランド」へ。命尽きて倒れた杉の大木に若木が育っている。
 太古から繰り返される命の交代と競争。樹齢3000年を生きる紀元杉には19種類もの植物が養生していて驚かされた。
 本土より小型化した歯科や猿がかわいらしく、孫たちも大喜び。いくつもの滝、山々、永田浜など自然の豊かさに感動。今度は縄文杉に会いに行くぞ。
  霧島市 秋峯いくよ(69) 2009/9/14 毎日新聞鹿児島版掲載



はがき随筆特集版-2

2009-09-21 17:29:34 | はがき随筆
「バームクーヘン」
 バームクーヘンが好きだが、あの木目はどうして作るか食べる度に思案した。先日、野外活動の研修で意外に簡単にできた。
 小麦粉、卵、バター、砂糖を混ぜたタネを青竹に塗り、回しながら燃える火であぶった。焼き色がついたら、その上にまたタネを回しかけてあぶる。童心に返り日焼けも忘れて回した。何回か繰り返し、竹を立て底をたたくと焼けた菓子はすり抜けた。どきどきしながら包丁をあてる。輪切ると渦の木目がきれいなバームクーヘン。
 早速試食。ケーキ店のものにも劣らぬおいしさに感激。素朴な道具で出来たことにまた感動。
 出水市上知識町 年神貞子(73) 2009/9/14 毎日新聞鹿児島版掲載


はがき随筆特集版-1

2009-09-21 17:26:02 | はがき随筆
「カンチョ」
 夏、ラジオで半藤一利さんの話を聞いていました。昭和史の余聞です。「鉄拳制裁で」にびっくりしました。少年時代の憤激を呼び出す言葉でしたから。「げんこつ」とも言い大抵の男子はくらったものです。薩摩(出水)方言では「カンチョ」です。今ではこの行為は見られませんが、暴力自体はこの社会から消えてはいません。
 柳田国男の「後狩詞記」(のちのかりことばのき)の中には<「カンチョウ」 (鹿)>とあるそうです。両者は無関係かも知れません。でもこのとっぴな発音の語の語源を知りたいもので
す。韓国の古語、日本の狩猟民へ、そして……、と伝承したのか。
  出水市 松尾繁(74) 2009/9/14 毎日新聞鹿児島版掲載